プロローグ
私は暗闇の中、祖父に抱きかかえられ階段を上っていた。
外から響く声は、押し寄せる波のように迫り、胸の奥を軋ませる。
「レオも7歳になったのだ。これから見る光景は貴族としてしっかり覚えておくのだぞ。」
祖父は真摯な口調でそう言ったが、その目は輝きに満ち、誇らしげだった。
やがて階段を上りきり、扉の前に立った。祖父は私に笑顔を向けて扉を勢いよく開けた。
眼前に広がるのは果てしなく続く軍勢。
軍旗が風を受け、波のようにうねりながら砂漠を彩る。
槍が森のようにそびえ、重厚な甲冑がひしめき合う。
その光景に、息をすることさえ忘れてしまいそうになる。
だがその中でもひときわ輝いているものがあった。
巨躯の騎士ーー陽光を反射する白銀の鎧は、まるで神々の加護を受けた聖騎士のよう。城壁の前に並ぶそれは威厳と力強さに満ちていた。
祖父は私の肩に手を置き、その光景を静かに見つめながら語り始めた。
「レオ、あれはただの兵ではない。民の命を預かり、国を支える者たちだ」
低く落ち着いた声には、揺るぎない信念が宿っていた。
「貴族とは、命じる者ではない。導く者だ。恐れられる存在ではなく、信じられる存在でなければならぬ」
祖父の視線は軍勢の向こう、はるか彼方を見据えているようだった。
「そして信頼は、言葉や血筋だけでは得られない。最後に民を守れるかどうか――それがすべてだ」
白銀の騎士たちを見つめながら、祖父は力を込めて続けた。
「守れる強さを持て。逃げぬ覚悟を持て。民が背を預けられる背中を示せ。それが、貴族に課せられた責務だ」
その言葉は、胸の奥深くに刻み込まれた。
この日見た光景と祖父の背中が、やがて私の歩む道を決定づけることになるとは、その時の私はまだ知らなかった。




