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8 お茶会へ行きますわ!①

「あらぁ〜っ! 二人とも、なんて素敵でしょう! とっても似合ってますわぁっ!」


 今日は、待ちに待ったお茶会の日。

 あまり外と交流のない貴族の子供たちにとって、一大イベントだ。


「えへへ。おとうさまみたいでしょう? おかあさまが、おようふくを見てくれたからだよ」


 レックスはハロルドの軍服を模したデザインだ。

 瞳の色より少し濃い鮮やかな青を基調に、銀糸の刺繍で装飾されている。まるで気高い騎士の勝利の凱旋みたいに凛々しかった。


「ピンクはあたしのいろよ? にあわないはずないじゃないっ!」


 ロレッタは淡いピンク色のドレス。大きなバックリボンと白の丸襟が特徴的な、可愛らしくクラシカルなデザインだった。

 彼女は久し振りに着た新しいドレス……しかも自分で決めたお気に入りのデザインなのでご満悦だった。


 普段は茶や紺といった地味な色の服ばかりだったので、今日は心なしか二人とも顔がキラキラと輝いて見えた。


「おねえさま、いつもいきたくないって言ってるのに、きょうはたのしそう」


「べっ、べつにそんなんじゃないわ! レックスだって、いつもこわいってビクビクしてるじゃない!」


 レックスは得意げにくるりと一回転をして、姉に服を見せびらかす。


「きょうは、おとうさまといっしょにいる気がするんだ。だから、へっちゃらだい!」


「あたしだって、へいきだわ!」


 ロレッタも負けじとスカートの裾を掴んで、ふわりとカーテシーをした。


「さぁさぁ、参りましょうか! ゴーゴーゴーゴーゴー!」


 キャロラインが双子と一緒に馬車に乗ろうとすると、


「おっほん!」


 彼女の背後から、バーバラの大きな咳払いが聞こえてきた。


「――あら、どうしましたの?」とキャロライン。


「お茶会の付き添いは、伝統で乳母と決まっております」


「まぁ。そうなの?」


「えぇ。ですので、奥様はお取り引きくださいませ」


「だったら4人で向かえばいいわ」


「招待側にも都合がございます。それに()()()私が付き添いに参る旨をお伝えしましたので」


「あらぁ……。だったら、仕方ないわね。馬車には3人で乗りなさい」


「えぇーっ! ぼく、おかあさまとおでかけしたーい!」


「バカっ。でんとうはまもるものって、おとうさまが言っているでしょう?」





「行ってらっしゃいですわぁ〜っ!!」


 キャロラインは意外にも大人しく引き下がった。大きく手を振って、馬車を見送る。


 だんだんと遠のく女主人の姿を見て、乳母は勝利を噛み締めた。実に惨めだ。笑いが止まらない。


 先日の件で、屋敷内での自分の確固たる地位を示すことができた。

 今日は外に向けて、いかに新しい女主人が公爵家に相応しくなく、いかに己が屋敷で重要なポジションかを広めなければ。


(令嬢時代から悪名高いあの女より、うちの姪のほうがよっぽど公爵夫人に相応しいわ。旦那様にも、そろそろ分からせて差し上げないと……)







「さてさて……」


 馬車が見えなくなるまで手を振って、屋敷に静寂が戻った頃――……、


「さ、わたくし用の馬車も出してちょうだい!」


 キャロラインはお茶会へ向かうために、お忍び用の馬車を既に用意させていた。


(今後の教育のためにも、二人が同世代とどうコミュニケーションを取っているか見ておかないとね)


 なんて言うものの、彼女は本当は子供たちが心配でたまらなかったのだ。二人とも他の貴族令息たちとあまり上手くいっていないらしい。


「あのぅ……」メイドが遠慮がちに問いかける。「本当にお茶会に乗り込むのですか……?」


「おモチのロンですわぁっ! ささっ、行きますわよぅっ!!」


 キャロラインは軽快に馬車に乗り込む。


(あの噂……本当だったんだ!)


 見送りの使用人たちが、感動したように女主人を見つめた。


 ――パーティー荒らし。


 それが、キャロライン・フォレット侯爵令嬢の、水面下で囁かれているあだ名だった。


 前世の記憶が戻る前のキャロラインは、スティーヴン王太子に熱烈に恋い焦がれていた。だから愛しの王太子殿下の日々の行動、そして恋のライバルたちの動向には人一倍敏感だった。


 彼女は少しでも不穏を嗅ぎ付けたら、それを確かめるために呼ばれてもいないパーティーやお茶会に強引に乗り込んでいたのだ。そこではライバル令嬢を蹴散らし、王太子の婚約者として釘を差していた。


 それは非常識極まりない行動なのだが、意外にも貴族の使用人たちからは好評だった。


 大小年間100を超える集まりに参加していたキャロラインの審美眼は鋭く磨かれていた。

 なので、毎回帰る際にパーティーの良かった点と改善点、さらに面白いアイデアや他の家門のパーティーの様子を必ず教えてくれるのだ。

 その内容は、なかなか他の屋敷の状況を知れない使用人たちにとって、貴重な情報源だった。


 それに、侯爵令嬢の突撃は抜き打ちテストみたいだ。

 貴族の屋敷で働いているという矜持を持つ彼らには、あの緊張感が逆に心地良かったりもした。


(記憶が戻る前のキャロラインの行動はダメダメだけど、あの非常識な行動が今回は役に立つわね)


 キャロラインが招待されていないお茶会に乗り込んでも、周囲からは「あぁ、またか」と思われるだけだろう。これ以上評判が落ちることはないので、公爵家の名誉が傷付くこともないはずだ。


 ……もしかしたら、ハロルドから少〜しばかり、お説教を食らうかもしれないが。


(過去のわたくし、グッジョブ!)


 馬車は軽やかに子供たちを追う。目指すは、お茶会の会場だ。


(さぁっ、乗り込みますわよぉっ!!)



 

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