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16 おタンパク質ですわ!



※爬虫類みたいなのが出てきます!






 その日、キャロラインは()()(ひろ)った。


 ぽかぽかした日差しを浴びながらのんびりと渡り廊下を歩いていると、


「ぎゃんっ!」


 出し抜けに、空から彼女の顔面めがけて大きなトカゲが降ってきたのだ。


 トカゲは彼女の顔をバウンドして、ぼとりと地面に落ちた。それはハーバート一族の瞳よりも濃い鮮やかな青色で、大人の猫くらいの大きさだった。


「あらぁ〜〜〜? なにかしら?」


 それは目を閉じたままで、死んだようにピクリともしなかった。


「……」


 キャロラインはトカゲの尻尾(しっぽ)をひょいと掴んで持ち上げ、しげしげと観察をした。


「ふむふむ……」


 艶がある。血行も良い。新鮮だ。


(これは美味しそうですわぁ〜〜〜!)


 そうと決まったら、早速行動だ。

 キャロラインは意気揚々とメイドたちに指示を出し、自身も準備を始めた。


「丸焼きにしていただきましょう〜。二人ともちょっと細っこいから、おタンパク質を取らせなきゃいけませんわぁ〜!」







「お子たち〜! ようこそ、おバーベキュー大会へ!」


 庭には、香ばしい匂いが広がっていた。

 それは屋敷の中まで届いていて、授業中だった双子も気を散らして、そわそわと外の様子を(うかが)っていたのだ。


 その光景を前にして、双子の丸い瞳が水に映った光みたいにキラキラと輝きだす。


 石で作った簡易的な(かま)。焚き火に照らされた上には、焼き網が熱せられていた。

 隣のテーブルには豪華な食材が並べられている。肉、魚介類、野菜。そしてデザートのマシュマロも!


 双子はこれから始まる(うたげ)を想像すると、ワクワクが止まらなかった。


「うわぁ〜! すご〜い!」


 レックスが嬉しそうにトテトテと焼き網に近付く。


「バーベキューってなによ?」


「おバーベキューは、お外に皆で集まってお肉やお野菜を焼いて食べるのよ。とっても楽しいですわよ〜」


「また、おこさまっぽいわね」


 と言いつつも、ロレッタは早く始めたくてうずうずと食材を見ている。


「ぼくが、やく!」


 我慢できなくなったレックスがトングを掴もうとすると、


「ふっふっふ……。その前に……」


 キャロラインは、優しく継子の手を押さえて動きを制止させた。


「どうしたの、おかあさま?」


 双子はなんだろうと首を傾げる。

 継母はちょっともったいぶった素振りを見せたあと、


「じゃーーーんっ!!」


 今朝拾ったトカゲを双子の前にドンと突き出した。


「本日のメインディッシュはこちらですわ〜!」


「……」


「……」


 双子は、初めて見る大トカゲに目をぱちくりさせる。青い鱗がピカピカしていて、宝石みたいに輝いていた。


「トカゲさんだーっ!」


 興奮するレックス。男の子はこの手の類のものが大好きなのだ。


「え……。これ、ほんとうにたべるの?」


 ロレッタは、ちょっとだけ引いていた。


「おモチのロンですわ! あなたたち、もっとおタンパク質を取らないといけませんわよ! 今日は、お継母様(おかあさま)と一緒にお肉をたくさんいただきましょう〜!」


 キャロラインは双子に有無を言わさずに、拾ったトカゲをポンと金網の上に放り込んだ。

 あとは、焼けるまで野菜や魚介類を食べながら――……、


「おい、何をしている」


 その時、キャロラインの頭上から美しい低音ボイスが響いた。


「あ。旦那様」


 顔を上げると、ハロルドが気難しそうな顔をして彼女を見下ろしていた。


「い、いらしたのですね……」


 キャロラインは微かに顔を引きつらせた。


 夫は乳母の断罪以来、家族とよく顔を合わせるようになっていた。子供たちにとって喜ばしいことだが、彼女はちょっとだけ憂鬱だったのだ。

 何故なら、よくガミガミと説教をされるからであった。


 別に嫌いじゃないんだけど、夫の顔を見ると複雑な気持ちが湧き上がる。

 その中には特別な感情が芽生えつつあることを、彼女はまだ気付いていなかった。


「なんだ? 私がいたら悪いか?」


「い、いえ。別に……。ただ、これまで通りにおATMに徹してくださっても構わないのですよ〜」


「おっ……ぃえてぃー? なんだ、それは?」


「家族のために頑張る旦那様のことを、東方の言葉でそう呼ぶのですわ」


 特に嘘は言ってない。


「ほう。そうか」


 ハロルドはひとまずは納得したようだ。


「おとうさまも、いっしょにバーベキューしよう〜」


「おとうさまのすきな、おにくを、あたしがとってあげるわ!」


 双子は嬉しそうに父親に(まと)わりついた。

 乳母のトラウマをまだ引きずってはいるものの、大好きな父親が以前より一緒にいてくれることが多くなったので寂しくなんかなかった。

 これにはキャロラインもほっとした。やはり、子育てには父の力は絶大なのだ。




「あちちちちっ!!」


 その時だった。背後から野太い男の声が聞こえたと思ったら、


「熱いではないか。馬鹿者!」


「ぎゃんっ!」


 キャロラインは頬を思い切り引っ叩(ひっぱた)かれた。

 大トカゲの長い尻尾で。




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