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11 異世界☆かくし芸大会ですわ!①

「ふん、ふん、ふーん。やっぱり、芸は身を助けますわねぇ〜」


 お茶会での傘回しが大成功で、キャロラインはすこぶる機嫌が良かった。ちなみにハロルドからはお説教を食らったが、それはまぁ置いといて……。


 あれからレックスもロレッタも、同年代の貴族の子供たちと少しずつ交流が生まれていったようだ。

 健全な精神の発育のためには、子供同士のコミュニケーションは必要不可欠だ。きっと二人なら大丈夫。


「ダンスサークルの新歓で一発芸必須だったのが、今となっては感謝ですわぁ〜」


 前世の記憶が多少なりとも役になっているのは、喜ばしいことだった。

 キャロラインの異世界生活は、順調。公爵夫人として最低限の義務を果たして、あとはお気楽なキラキラ☆お異世界ライフだ。


「さてさて、お子たちに次も面白い芸を披露しましょう〜」


 彼女は観客が喜んでくれたことが嬉しくて、次の芸を準備することにした。これも新歓のために練習をした一発芸である。

 必要なのは、テーブルと、そこに敷くテーブルクロス。あとは少しの食器もあるといい。


「ふふっ。あの子たちが驚く様子が今から楽しみですわぁ〜」







「あっ、おかあさまだ!」


 レックスとロレッタが庭を散歩していると、ガゼボで継母(キャロライン)が優雅にお茶を飲んでいたところに出くわした。


「おかあさま、あそ――わあっ!」


 継母のもとへ近寄ろうとする弟の首根っこを、姉がぐいっと強く引っ張る。


「おねえさま、なにするの!」


「あの女にちかづいちゃダメ!」


 ロレッタはギロリと弟を睨み付けて牽制する。

 楽しいお茶会のあと、彼女も危うくキャロラインに絆されかけた。しかし、帰宅してから乳母のバーバラに継母がいかに悪い女なのか延々と聞かされて、やっと我に返ったのだ。


 危なかった。あのままでは、継母の毒牙にやられるところだった。やっぱり、自分たちが赤ちゃんの頃から育ててくれているバーバラの言うことが正しいのだ。

 ……と、彼女はそう信じた。


 ――チラッ。


 そんな子供たちの様子を、キャロラインはそわそわと落ち着きのない様子で見ていた。さっきから何度もチラチラと横目で二人を確認している。


(ふふふっ。来たわね……!)


 お継母様(おかあさま)のところへ行く行かないと言い争いをしている双子を尻目に、キャロラインはニヤリと笑う。

 そして「オッホン!」とわざとらしく咳払いをしてから、おもむろに立ち上がった。


 何事かと、双子の身体がピタリと止まる。二人とも俄然興味津々になって、さっきまでの喧嘩も忘れて継母の様子をじっと観察し始めた。


 キャロラインは舞台に上がったかのように、右を見て左を見て双子を見て恭しく一礼。

 そして一息吐いて姿勢を正したら、中腰になって丸テーブルにかかっているテーブルクロスの裾を両手で持ち上げた。


 じっと正面だけを見つめるキャロライン。途端に緊張した空気が広がった。

 双子も、メイドも、固唾を呑んでハーバート公爵夫人の姿を見守っていた。


 一分ほど()ったあと、


「やぁっ!!」


 突如キャロラインは気合いの声を上げて、掴んでいたテーブルクロスを勢いよく引っ張った。

 美しいタフタの布は、目にも見えないくらいの速さで移動して、後に残されたのは――……、


「すっ……すごいっ……!」


 美しくセットされたお茶の食器だけだった。


「「すごーーいっ!!」」


 子供たちも、メイドも、驚愕の表情でパチパチと拍手をした。


 ――テーブルクロス引き。


 キャロラインが聖子時代に習得した一発芸の一つだ。

 勢いをつけてスピードを上げてテーブルクロスを動かすことによって、なんやかんや物理法則が働いて、テーブルの上の食器は少しも動じない……とにかく凄い技なのである。


「ご鑑賞、ありがとうございましたですわ」


 キャロラインは勿体ぶった態度を崩さず、澄ました顔で再び一礼をしたのだった。ドヤァ!


「おかあさま、すごーい!」


「ど、どうやったのよ!? なにが、おこったの?」


 継母の偉業(?)にすっかり興奮した子供たちは、鼻息を荒くしてきゃいきゃいと駆けて来た。

 すっかり気を良くしたキャロラインは、


「これは秘技『テーブルクロス引き』ですわ。わたくしの、芸事の一つですの」


 まだドヤ顔のままで答えた。


「おかあさまって、いろんなことができるんだね! すごーい!」


「ねぇ、どうやったの?」


「この世界には物理や摩擦という法則があって、色々と凄いことができるのよ」


「は? イミわかんない」


「もっとお勉強をしたら、いつか解るようになりますわ。だから、二人とも一緒にお勉強を頑張りましょうね」


 とは言ったものの、キャロライン自身も仕組みをよく分かっていなかった。


「ぼくもやりたい!」


「あたしも……あたしはべつに」


 ロレッタははっと我に返る。この女に心を開いては駄目だった。乳母からもきつく言われているのだ。


「では、お継母様と一緒に練習をしましょう〜!」


「わ〜い!」


「あたしはいいわ。アホくさ」


 キャロラインはメイドに子供サイズの小さなテーブルを用意させて、それからレックスとの特訓を始めたのだった。彼は最初はおっかなびっくり引いていたが、だんだんと慣れてくると手際よくできるようになった。


 そんな二人の様子をロレッタは「ガキくさいわね」と冷めた目で見ていたが、結局最後まで付き合っていたのだった。


 しかし、楽しい時間は、この後の悲劇の元凶となってしまう……。




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