声にならない悲鳴を、聴いて
「嘘を、吐いてたんだ」
他の誰でもない、私自身に。
正確には、嘘ではないのかもしれない。
どちらも、偽りのない本音だったから。
水の中で喘ぎながら息継ぎをして生きる私も、陸に上がる理由を探して上手に生きようとする私も。
共存できない思いは、私の中に確かに存在していた。
そして、並行ではない2つの直線が必ずそうであるように、交わる一点があったのだ。
許せない。
許さない。
そんな私を、私は許さない。
気付いてしまったら、もうダメだった。
止まらなくなってしまった。
警報が鳴り響くよりも先に、思考回路が完成してしまう。
自分の気持ちに、気付いてしまう。
「許せなかった。」
あぁ、だめだ。
「本当はね、許せなかったんだ」
だめだ。止まらない。
自覚した途端、言葉が溢れ出てくる。
表面張力でギリギリ形を保っていた水に、ほんの一滴、垂らしてしまったばかりに。
「意味がわからなかった。あの子も、先生も。
一時の保身にしかならない嘘をたったひとつだけ。
それでも、当たり前にあった景色を、私はもう見られない。」
何も考えずに息ができた世界は、もう消え失せてしまった。
「何か、どうしようもない理由があればいいって思った。
傷付いたけれど、それなら仕方ないよねって許せてしまうような理由があればいいって。
でも、嘘はどこまでいってもただの嘘でしかなかった。大した理由なんてないってわかった。
許せなかった。そんなもので私の日常を壊さないでって。
その程度で…」
言葉が途切れて、満足に呼吸をしていなかったことを自覚する。
意識的に、肩で大きく息を吸う。
息継ぎ。息ができなくなる前の、準備。
「そんなことを考える自分が、一番許せなかった。」
言ってしまった。
あぁ、なんて醜いんだろう。
「いつまでも綺麗事の中にはいられないって、絶対にわかってたはずなのに。
それなのに、上手く流したり受け入れたりできなくて、あんな小ちゃな嘘も許せなくて。
イタい。醜い。自分が嫌で仕方ない。
自分で自分が、許せない」
彼らの言葉に、揺るぎない価値を。
作り物の会話に、確かな意味を。
虚構に溢れた世界を、諦めて生きる理由を。
見つけたかったのは、自分を赦す理由。
「いろんなものが許せなくて、感情がぐちゃぐちゃで。
ーー私、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。」