うそつき
「理由が、重要なの?」
「え、」
「"どうして"消えたいのかが重要なの?」
海の彼方を見つめていた瞳が、私を捉える。
「大切なのは"あなたが消えたいと思っていること"じゃないの?」
美しい声が、容赦なく続ける。
理由を探して、呑み込んで、あなたはそれで生きることにしがみつけるの?
「そんなこと、」
考えたことがなかった。
どうしてだろう。
理由を考えることには、こんなにも費やしているのに。
理由が、重要なの?
先の言葉が、頭の中に木霊する。
大切なのは"あなたが消えたいと思っていること"じゃないの?
そうだよ、消えたい。
どうしようもなく、消えたい。
私は、どうすれば消えたいと思わずにいられる?
いつのまにか、私の頭の中で2つの声が響く。
2つの、ひとりの声が聞こえる。
消えたい。
どうして?
息苦しい。
上手に生きなよ。
嘘ばっかり。
そういうもんだよ、世界は。
枷が外れたように、堰を切ったように、パンドラの箱を開けたように、禁断の果実に手を伸ばしたように、思考する。
彼女の言葉を咀嚼して、身体の一部にするように。
あなたはそれで生きることにしがみつけるの?
私は、
どうすれば、生きていたいと思える?
上手く生きられない。
諦めて受け入れないからだよ。
何も信じられない。
イタいよ、そういうの。
許せない。
許さない。
そんな私を、私は許さない。
あぁ、そうか。
「嘘を、吐いてたんだ」