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終わらぬ四季を君と二人で  作者: 緑川 つきあかり
悪い夢と懐中時計の少年エンド
9/11

約束の花

 傍らに満面の笑みを浮かべた琴音とともに、暖かなそよ風が吹く、初夏の真昼時。


 花冠を必死に作らんとする琴音が、雑多な草花を纏めて、手荒に結び付けていた。


「もっとゆっくりやっていいんだよ」


「……!」


 集中の真っ只中にあるおかげか、俺の言葉が耳にまで届いていないようだ。


 けれど、それが故に、装飾がボロボロと零れ落ちてゆき、次第に雑に涙目になっていく。


 そして、輪が千切れてしまった瞬間。


「あっ……」


 頬から一滴の雫が滴り落ちて、鼓膜が破れるほどに豪快に、琴音は泣きじゃくった。

 

「一緒に作ろ? 絶対にできるから」


「……。うん」


 仄かに赤く染め上げた両目の縁を、手の甲で必死に拭って、笑みを取り戻していった。


 結局、ただ見てるだけで、さっさと完成させてしまったが、それに気にする様子もなく完成した花冠をそっと頭に載せると、嬉々として抱きしめてきた。


 そのまま二人で雑多な花が芽吹く畑で寝そべって、胸が澄むような大空を眺めていた。


「ねぇ、颯飛」


「ん? なに?」


 前を通り過ぎてゆく一頭の蝶の先に、徐に指先を差し出した。


 ひらひらと透き通るような淡い羽根を羽撃たかせていたが、疲れ果てたのか、渋々、俺の指先に身を休めた。


「もしも、私たちのどっちかがさ…」


「うん」


「辛くなったとき、どんな理由でも……」




「ハッ! ハァ……ハァ。はぁ」


 全身に妙な気持ち悪さの冷や汗が滲ませ、

爆ぜるか如く鼓動が全身に響き渡っていく。


 徐に胸に懐中時計を当てるとともに、魂が抜け出てしまいそうなため息を零していた。


 まだ夜更けに唐突に目が覚めた。うつらうつらとした意識も微睡んだ目も醒めて、まるで引き寄せられるかのように立ち上がった。


 まだ皆が寝静まった真夜中に、何もかもを置き去りにして、直向きに走り続けている。


 息が切れて、足の裏にジンジンとした痛みが絶え間なく襲っていく最中にも、あの場所へと、たった一人で進んでいく。


 絢爛なる彩りで華やいだ花畑。


 そんな場所で、まだ幼かった頃の約束を。


 絶対に破らないと誓った場所へと。


 たどり着いた。


「まだ……ハァ。ハァ。あったァ……」


 傍らの団地が連なる端っこで、ほんの少しばかりの草花が生い茂る野原が姿を見せた。


 ゆっくりと進みゆく。


 その地へと。


 ずっと忘れてしまっていた大切な記憶。


 一歩、一歩と、辺り一面に咲き誇った白詰草に触れぬよう、慎重に歩みを進めていく。


 不思議と頬が冷たい雫で濡れていって、何だか、段々と視界がぼやけてしまっていた。


 遥か遠くの空を二人で眺めていた。とても大きな夢だとか、希望を抱いていた訳じゃない。


 ただ、ぼーっと、暖かな空の下で、どうしようもなく楽しい瞬間を過ごしていた。


「もう……朝だ」


 ようやっと、見つけたよ。


 あの時の花冠を作った花々の所に、ずっと破らないと約束を誓った場所に。


 そこにあったのは、絢爛豪華な姿でも、八面玲瓏なる様でもなかった。


「昔はクローバーなんか探してたっけな」


 ただひたすらに終わりまで雑多な花々が、強かに燦々とした陽光の下に芽吹いていた。


「もう……朝だ」


 影に覆い尽くされた野原に光明が差していき、両手一杯に花束を抱えて、帰路に着く。


 君との最後になってしまうかもしれない、再会の日に約束の花を飾ろう。


 寂しげな両の手に花束を抱えて。

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