無効
さて、番外編です。媛姫視点のお話です。
女の子の心情表現が壊滅的に下手ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
告君麗梨。私の幼なじみ。中学二年生の頃のとある事件以来、私にとっては想い人でもある。
好きで好きで好きすぎて、訳が分からなくなるほど彼の事が好き。彼になら、私のすべてを捧げてもいい。彼こそが私のすべてだと言い切ってもいい。それ位彼のことが好きなのだ。
それは高校生になった今でも変わらない。いや、むしろ想いは増してきている。もう、自分では抑えきれない程に。
しかし、彼には一つだけ欠点がある。それは、超が付くだけでは収まらない程の鈍感であるということ。
私達がまだ中学3年生だったの頃の話を、私は頭に思い浮べる。
2月14日。私と麗梨君は推薦で高校を決めてしまっていたので、周りの人の様に必死で勉強する必要はない。鷹島君はまだ決まってないみたいだから、私と麗梨君とは今は一緒にいない。ちょっと寂しいけど、でもまたすぐに三人一緒に過ごせると思う。私達は親友なのですから。
とはいっても。今日に限っては、鷹島君がいないことに感謝する。なんといっても今日は……バレンタインデーなのだから。
今は昼休み。給食も終わって、今は麗梨君と一緒に図書室にいる。この図書室は死角が多く、人も少ないので、誰にもばれずにチョコを渡すには最適な場所。
そして今日、私は彼にチョコを渡して………告白する。この積もりに積もった想いを、ついに解放するの。「石崎さん、どうしたの?図書室なんかに連れてきて。」
予想どおり、彼はそもそも今日が何の日なのかも知らないようだった。
「今日は…その…麗梨君に渡したいものが…ありまして…。」
「僕に渡したいもの?」
いつもの綺麗な目で私を見てくる彼。あ〜、もうたまりません!
「チョコです。今日は…その…バレンタインデーですから。」
そう言って私はポケットからチョコを取出し、彼に渡す。
「え?そうだったっけ?…うん、ありがとう石崎さん。おいしく頂くよ。」
チョコを受け取り、嬉しそうに彼は微笑む。ああ、むしろ私が彼をおいしく頂きたい!……いや、そうではなくて。
「それと…あなたには…伝えたいことが…ありますの。」
なるべく雰囲気を真面目にして話す。それを察してくれたのか、彼も真面目な顔つきになる。……その顔も食べちゃいたいくらい可愛い!告白なんかせずに今この場で襲っちゃおうかしら。幸いあまり人はいないし…。
「石崎さんどうしたの?急に真面目な顔つきになったと思ったら、今度はすごい笑顔だよ?」
「へ?い、いえいえ、そんなことはないよ?」
危なかった…。危うく獣になってしまうところだった…。改めて言い直す。
「えっと…私…麗梨君のことが…好きです…。」
恥ずかしさで顔が赤いのが自分でも分かる。手は握りこぶしにしてないと、とても耐えられない。
彼の方を見てみると、彼の顔はきょとんとしたものから、一変して満面の笑みへと変わった。
「うん、僕も石崎さんのことが好きだよ。だからこれからもよろしくね。」
…まぁ分かっていました。麗梨君となら、絶対友達として、なんていうお約束な展開になるんだろうなんてことは。でもいいじゃないですか、少しぐらいこっちの気持ちを読んでくれたって!恥ずかしいからあまり言いたくなかったのに…。「…えっとですね、麗梨君。私は麗梨君のことが、異性として好きなんです。麗梨君のことを、一人の男性として見ているんです。」流石にいくら鈍感な彼でも、ここまで言えば分かるでしょう。その証拠に彼の表情も驚愕をあらわにして…。
「何言ってるのさ石崎さん。僕は石崎さんにしてみれば異性なんだし、一人の男性なんだから、当たり前じゃないか。そんなこと言ったら、僕だって石崎さんのことを異性として好きだし、一人の女性として見てるよ?」
「………………………。」え、何ですの、これ?彼は今誰としゃべってるんですの?あ、なんか、昨日一生懸命作ったチョコとか、今日のシチュエーションのために徹夜したのにとか、いろんなことが頭の中で走馬灯のように…。
あれ、おかしいですわね、なにやら目眩が……。
目を覚ますと、私は保健室にいた。
「石崎さん、起きた?」
私が寝ているベッドの横には椅子に座っている麗梨君の姿があった。
「石崎さん、いきなり倒れたから僕びっくりしたんだよ?」
「すみません、麗梨君。」まぁ倒れた原因はほとんど彼にあるのだけれど…。
「いや、石崎さんが無事で良かったよ。えっと、ごめん僕もう帰らなくちゃ。今から一緒に帰る?」
「すみません、今からはちょっと…。」
「うん、わかった。無理しないで、気を付けて帰ってね。それじゃまた学校でね。」
彼は保健室を出て行った。…別に体に異常は無いけど、流石に彼と一緒に帰れる程の心の余裕はなかった。「はぁ……。」
思わずため息がでる。今日のためにいろいろと準備してきたのに、それも全部パー。それどころか、こちらの気持ちを悟ってすらもらえなかった。少し泣きそうになってくる。
その時、ガラガラと保健室の扉が開く音がした。
「よう、石崎。昼休み中にぶっ倒れたって?気分はどうだい元気かそうかそうかそりゃ良かったところで俺見舞いの品とか何も持って来てないけどいいのか麗梨と二人っきりで何してたんだよこのこの隅に置けねーな!」
鷹島謙一。私と、彼にとって親友にあたる。
「鷹島君…。来てくれてありがとうございます。でも申し訳ありません、私今一人になりたいんですの。」はっきり言って、いまこの男のテンションに付いていく気力はない。
「なんだよー、友達だろ?寂しいこと言うなよ〜。」「あのですね、私は本気で……。」
「麗梨のことか?」
鷹島君はにやりと、すべてを知っているかの様な表情で言った。
「え?な、何のことですの?」
「しらばっくれなくてもいいぜ石崎。お前の様子を、親友の俺から見れば一目瞭然でわかんだからよ…。お前が麗梨のことが好きなんだって事ぐらい。」
鷹島君は楽しそうに笑って言った。
「…一体いつから知っていたんですの?」
「去年のあれ以降からかな。明らかにおまえの麗梨に対する態度が変わってたし。まぁ親友たる俺じゃないと見抜けなかったみたいだけどさ。……だから安心しろ、おれ以外に知ってる奴はいないからさ。」
なおもにやにやしながら鷹島君は話す。
というか、知っていたのに今まで何の手助けもしてくれなかったんですのね。もし、彼の親友の鷹島君の協力があれば、今日の展開も変わっていたかもしれませんのに…。そう思うと、なんだか鷹島君に対して殺意が沸き上がってくる。
「そ、そんな怖い顔で睨むなよ石崎。…確かに今までなんも手伝わなかったのは悪かったけどよ…。でもそのお詫びに、今日は俺もおまえに情報をプレゼントしに来たんだから、な?それで勘弁してくれよ。」
「情報?どんな情報ですの?」
「告君麗梨のタイプの女性なついてさ。」
「!!!!」
それは是非とも知りたい情報だ。なんせ彼は普段全くそういう話題に乗ってこなかったので、そのへんの情報は未知の領域なのだから。
「クックッ、やっぱ知りたいみたいだなぁ。いいぜ、教えてやるよ。あいつの好みのタイプは…」
「好みのタイプは……?」「ズバリ!あいつは同性愛sh「はぁぁぁ!!!」
鷹島君が言葉をいい終えぬうちに、鉄拳制裁して黙らせる。
「い…石崎…手加減しろよ……。」
頭から血を流しながら、私を泣き顔で見てくる鷹島君。
「知りません。あなたが乙女の純情を踏み躙ったのが悪いんです。」
「そんな冷たい声で…言わなくても…。」
しかし、本当に腹がたってきたきたのでもう帰ることにする。
私が保健室を出て行こうとすると、
「石崎…。」
鷹島君に呼び止められた。「何ですか、鷹島君?」
「さっきは冗談であんな事言ったけど、これからは協力しようとは思っているから。明日からは任せろ。」「分かりました。頼みますよ?」
そう言って私は保健室を後にした。やはり鷹島君は私の親友だったな、なんて当たり前のことを改めて理解しながら。
鷹島Side
「ふぅ…。」
石崎が出ていくのを確認してから、俺は立ち上がりベッドに腰を掛ける。
石崎は麗梨の事が好きだ。そして麗梨も石崎の事が嫌いなわけではない。別に、付き合っても問題が無いように思う。……あいつが普通だったなら。
麗梨は、とても不思議な奴だ。いつもにこやかに過ごしているし、周りに溶け込んでいる様に見える。しかし、それは違う。あいつは周りに溶け込んでなんかいない。
はっきり言うが、俺はあいつの本当の笑顔を見たことが無い。もう10年近い付き合いだってのに、あいつの心の底からの笑顔を俺は知らない。…いや、正確に言えば、あいつのご両親が亡くなるまえはまだ普通だった様な気がする。
俺が思うに、あいつには感情が欠如しているんだと思う。人として大切なものが、少し足りないのではないかと思う。例えば、あいつは周りからは鈍感鈍感言われているが、あいつは鈍感なのではなく、好きという感情を知らない。ゆえに誰も愛さない。だからあいつにはこちらの好意が伝わらないのだ。
しかし、大切にはする。友達が困っていたら助けようとするし、友達が傷つけられたら、自分のことの様に悲しむ。
好きにはならないけど大切にはする。そんなあいつが石崎とまともに付き合えるとは思えない。
だから、石崎には悪いが、小さな協力はしつつ、石崎が一歩踏み出そうとしたら、妨害する。こうすることで、石崎が傷付かないようにする。そうすることで、最低限の現状維持には努めようっつーわけだ。
考えただけでしんどそうだが、そこは親友パワーでなんとかするさ。
もちろん、麗梨が俺から見てもまともになってきたら、あとは石崎の好きにさせるさ。いや、それどころか石崎に協力するな。あいつらぶっちゃけお似合いだと思うし。
麗梨の問題は…悔しいけど俺にはどうしようもない。あいつが助けを求めてきたら、それに応じてやるぐらいのことしかできない。偉そうに親友とか言っときながら、実は俺にもあいつのことはよく分かんない。ただ一つ分かんのは、あいつは俺にとって最高の親友だってことぐらいだ。そのことさえはっきりしていれば、あいつが俺の親友だってことは揺るがない。例えよく分かんない奴でも、そんな事は些細な問題だしな。さて、今後の方針も決まったし、この鷹島謙一、現状を最高に楽しませてもらうかな。
現在の媛姫Side
結局あの日は何の進展もなかったけど、それでも私は彼に告白したという事実は変わらない。彼がいくら鈍感という強固な壁で身を守り、こちらの想いに気付いてもらえなくても、私は諦めない。彼が私を友達として見れなくなるその日まで。
「麗梨、覚悟なさいね。」過去を振り返って、私は新たな決意をした私は、想いを目一杯込めて愛しい人の名を呼んだのだった。
さて、コメディ重視とか宣った割りには結局シリアスが入っているうえに、ギャグもあまり面白くないという今回の番外編。呆れて言葉もありませんね。はぁ……。
さて、次回からは本編に戻ります。それでは。