無意識
第六話です。
相変わらず成長のない、空っぽな文章ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
僕と本質が同じ少女である月見夜宵。彼女にも、僕と同じで自分が無い。しかし僕のそれとは種類が違う。彼女は周囲に依存する。周囲に自分の意見が左右される。周囲に自分の行動が左右される。要するに、彼女は考えることを放棄したのだ。自分に正直に、意見の放棄をした。そしてそのために周りに偽ったのだ。そうすることで、その意見がさも自分の意志であるかの様に見せかけて、本来の姿を隠した。
僕は違う。自分を知られたくないが故に、自分を偽り、そうすることで周囲に偽った。
しかし両者の間にたいした差はない。どちらにしたって、終わってる事に変わりはないのだから。
さて、天津さんとの買い物に行ってから2週間程たった。もう中間テストも終わり、10月も終わりそうな時期。そんなある日の昼休み。その日は鷹島も媛姫も部活の昼練習でいなかった。大会が近いそうだ。
まぁそんなわけで今日は1人で昼御飯だ。別に寂しくないとは言わないけど、やはり一人でいると落ち着く。……僕が無理しないでいられる唯一の時間だから。そんな事を考えながら、一人で食べる時は必ず来る(当然ピッキングを行う)屋上でお弁当をつついていると。
「あら、待たせたわね。」月見夜宵が屋上に入って来た。
「別に待ってるなんて言ってないでしょう。」
「あら、そうだったかしら?よく覚えてないわ。」
そう言いながら僕の隣に来てお弁当を広げる月見さん。
「それにしても、あなたに会うのも久しぶりね。」
「そういえばそうですね。」
思い出してみれば、彼女に会うのは約2週間ぶりぐらいだ。たしかに随分と会ってない。しかしそれでも、彼女から感じる親近感は、ある種僕には心地よいものがあった。
「どう?学校は楽しい?」彼女は楽しそうに聞いてきた。
「まぁまぁ、ですかね。楽しい時もあるんですが、やはり僕のいるべき場所はここではない事が分かってしまう。楽しい時があるだけに余計悲しい。なんで僕の居場所はここではないのだろうってね。その分で差し引きゼロってところです。」
そう答えると、彼女はまた楽しそうに微笑んだ。
「さすが私ね。答えがほとんど同じだなんて。」
それから、彼女と会った時恒例の、何の意味のない、とりとめのない会話が始まる。それはあまりにも非生産的で、しかし両者の間には確実にとある確信が強まった。やはり彼女は僕と同じだ。そんな虚しい確認作業も、20分程は続いていたようだ。予鈴がなっていた。
「あら、もうこんな時間なの?まだまだ話したいことはいっぱいあったのに。」彼女は心底残念そうな顔で言った。
「まぁ仕方がないでしょう。それではまた明日。」
僕はお弁当を片付けて屋上を出ようとした。
「待って。あなた今日の放課後暇かしら。」
今日は鷹島も媛姫も部活で一緒には帰れない。まぁ暇といえば暇だった。
「暇ですけど、何かあるんですか?」
「今日、一緒に帰らない?ついでに私の家に招待したいのだけれど。」
ふむ…。これは彼女自身の話を深く聞くいい機会かもしれない。
「分かりました。どこで待ち合わせますか?」
「裏門にしましょう。安心なさい、私が来たときが集合時間だなんて事は言わないから。」
どうやら天津さんとのやりとりも見ていたようだ。…ちょっと怖いな。
「分かりました。ではまた後で。」
「ええ。また後で。」
授業に遅れそうだったので、小走りで教室へ向かった。……そういえば、月見さんは一緒に来なかったけど、授業に間に合うのだろうか。
さて、放課後になった。裏門に向かって歩いていくと、
「あれ、告君麗梨?」
呼び止める声がしたので振り返ってみると、ジャージ姿の天津さんがいた。
「天津さん久しぶり。部活?」
そう聞くと楽しそうに答える天津さん。
「ええ、ええ、それはもう!この天津藍満、現在絶賛青春中って感じ!あんたも帰宅部なんてやってないで何か部活始めてみれば?かなりおもしろいわよ?」
今の天津さんの方が全然面白いと思うんだけど……。なんかキャラ違うし。
「今は外周?」
「うん、ウォーミングアップで100周ね。」
一周200メートルを100周…ウォーミングアップで20キロメートル!?
「あのさ、それってやっぱり先輩に言われて…?」
「うん、そうよ。」
にこやかに答える天津さん。
「やっぱり僕のせいかな…。」
「いやいやそんな、むしろ私ははこの状況楽しんでいるからさ、気にしないでよ。」
「うーん、そうは言っても悪い気がするし…何か僕にできることがあったら言ってくださいね。」
「あはは、わかったよ。それじゃ私は行くから。」
そう言って天津さんはまた走りだした。
というかまずい、月見さんを待たせてるかも…。僕も小走りで裏門へ向かった。
裏門へ着くと、案の定月見さんは待っていた。
「あら、遅かったのね。待ちわびたわ。」
いつもの台詞も、今回だけは当てはまる。
「ごめん、月見さん。」
そう言うと彼女はにこりと笑って、
「余り気にしてないわ。それより早く行きましょう。」
と言って裏門へ向かって歩きだした。僕もあわててついていく。
彼女の家は学校から20分位の所にあった。外見は、ごく普通の二階建てな一軒家だった。本当に何の変哲もない。そういうところが、僕の家にそっくりだった。彼女は扉を開けて中へ入っていく。
「どうぞ、あなたもあがって。」
言われたとおりに中へ入り、靴を脱いで彼女の後をついていく。そのまま居間へと通された。
「何か飲み物持ってくるからくつろいでいてくれて構わないわよ。」
そう言って彼女は居間を後にした。
それから数分後。
「お待たせ。緑茶は好きかしら?」
お茶菓子と緑茶をお盆に乗せて、月見さんが入ってきた。
「お構い無く。ところで…。」
僕はずっと気掛かりだったことを口にする。
「今日は何で急に僕を呼んだんですか?」
昼休みの時は僕にはとって悪くない話だと思っただけだったからついてきたけど、考えてみればおかしな話だ。人に聞かれたくない話をするにしたって、屋上で十分なはずだ。何故なら鍵が掛かってるのだから、ピッキングのできる僕と、理由は知らないけど屋上に自由に出入りできる彼女位しか、あの屋上に人は来ない。だからただ単にないしょ話がしたかったからだとは思えない。
「雰囲気づくりのためかな。あなたには聞きたいことがあったから。…そうね、早めに言ったほうがいいのかもしれないわね。」
そう言って、緑茶を一口飲み、自らを落ち着けるようにした後言った。
「これから話すのはね、私の今までの人生で最大の疑問であり、命題でもあるのだけど…ねぇ、告君麗梨君。私と同じであり、私の可能性であるあなたに聞くわ。私って今…生きているのかしら。それとも死んでいるのかしら。」
それは。その言葉は。僕にとっての人生で最大の疑問であり、命題でもあり、そして何より奇問で鬼門であった。それこそが、僕が今まで結果を保留してきたもの。それこそが、僕が今まで結論を保管してきたものだった。彼女が言いたいことはつまり……。
何も言わない僕を見て、しかしそれでも構わないかのように彼女は話を続けた。「私たちには自分が無い。それは即ち、私たちは周りの思うように流されているということを意味する。ということは、私たちは生きていても死んでいても同じだとは考えられないかしら。だって、周りにほとんど干渉せずにいるのだから。では私たちは生きているのかしら。それとも死んでいるのかしら。それともどちらでもないのかしら。」
答えられない。答えたくない。その疑問は、その疑問だけは、絶対に口にすべきではない。特に僕たちのようなまがい物は。
「それは…僕たちには判断できないんじゃないかな。周りにどの程度干渉しているかなんて、僕たちに分かる分けないし。だから、月見さんのその疑問も、僕には答えられないよ。」
当たり障りのない、無難な答え。可もなく不可もないからこそ、無意味な答え。しかしこの返答こそが、月見さんのこれから言うであろう仮説の証明となることは、僕には明白だった。
「そう。答えたくないならそれでもいいわ。でも私の話は続けさせてもらうわ。私が考えるに、答えはたった一つ。生きていない、という状態。別に死んでいるわけじゃない。あくまでも生物学的にはね。でも、生きているとも言い難いでしょう。だって、私が生きていることによって周りに影響を与えることが無いなら、そんなのは死んでいるのと同じだわ。」
つまりはそういうこと。
まぁ正確に言えば、僕は別に周りに影響を全く与えていないわけではない。なんかしらは与えているのだ。しかし、その与えるものは、別に僕だけが与えられるものではない。
僕は僕自身の唯一のオリジナルだけど。
僕のオルタナティブなんて誰にでもなれる。
だからこそ、生きていても、死んでいてもどっちも同じ意味なんだ。
「さっきの私の意見を聞いた上で、もう一度あなたに聞くわ。私達は果たして生きているのかしら。それとも死んでいるのかしら。」彼女は余裕のある目で、確信を持った表情で、僕に聞いてくる。僕は答えなければならないのだろう。答えなくとも彼女にはわかってしまうのだろうけど、だからこそ僕の口から絶対に聞き出すだろう。
だってこれは。単なる確認作業なのだから。
彼女の家からの帰り道。綺麗な満月…なんて事はなく。今にも消え入りそうな、危うげな三日月。
あの、吐き気がするような確認作業の後、軽くお茶をご馳走になって、そのままおいとまさせていただいた。自分の家の玄関の前にたどり着く。インターホンをおす。
「麗梨君…お帰り。」
「うん…ただいま。」
今にも消え入りそうな妹の声。僕にしか聞き取れないようなか細い声。
「麗梨君…今日…寂しかった…。だから…一緒に…お風呂…はいって…一緒に…寝て…ほしい…。」
恥ずかしそうな妹の声。両親が早く死んだ影響か、僕が帰りの遅い日は、いつも一緒に寝てほしいと言いだす。
「うん。いいよ。」
そして僕はいつものように返事をする。優しい兄であれば誰にでも言うことのできるような、安っぽい台詞だ。
それでも妹は嬉しそうに微笑んでくれる。
その笑顔を見ると、僕が本当に優しい兄になれたような気がして……なんて、吐き気のするような幻想の中へといつものように逃げ込む。
僕はこうして、無印に、無自覚に、無条件に、無干渉に、無許可に生き続ける。自分の限界と、自分の見解から、これから起こるであろうお粗末な展開を予測しながら。
次回は番外編でコメディ重視………になるはず?
それでは!
PS.感想等を頂けると、作者はむせび泣いて喜びます。是非ともご意見ご感想をください。お願いします。