番外編(1)
今回は鷹島視点です。鷹島君はある意味この物語のもう一人の主人公。これからも主に番外編という形で登場してきます。
それでは、未熟な作者の書いた未熟な話ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
告君麗梨。俺が知る中で最もぶっ飛んだ人間であり、最高の親友だ。真面目で、正直で、実直で、素直で、優しくて。しかしいざというときのノリは最高…とはいってもあいつのノリが最高になった時なんか、あいつとは小学生からの仲だが二回しか見たことない。一回は小学生の頃の六年生へのリベンジマッチ。二回目は中学の時の媛姫絡みの一件。前者は最高に楽しかったのにあまり覚えていないが、後者は忘れたくても忘れられない、かなり大きな事件だった。思えばあの頃から媛姫は麗梨のことを想っていたんじゃなかったっけか。
まぁそんなことは今はどうでもいい。それよりも問題なのはあいつのぶっ飛び様だ。さて、俺は中学の頃あいつには好意を理解できないんじゃないかという仮説をたてた。で、それ以降のあいつとの会話やあいつの行動から検証してみた結果がでたのはほんの1ヶ月程前だ。その結果というのが俺としては喜ばしくないものだったのだが。
結果だけ先に言えば、「ビンゴ」だった。
実はこの推測、俺としては外れてほしいものだった。正直、この結果が出たときはゾッとしたぜ。つまりあいつは、少なくとも中学生の頃からは一度として好意を感じたことはないのだ。ここでいう好意とは、何も恋愛感情に限定したものではない。例えばあいつが誰かを助けて、そのお礼を言われたとする。もちろんそのお礼の中にはある程度の好意が含まれているだろう…というか、お礼とは好意そのものであり、厚意そのものであると思う。
しかしあいつはそれを好意として受け取れていないのだ。そんな状態で、あいつはあの性格をしてやがる。「誰も自分のことを好きにならないこと」が前提の世界で、平気な顔して誰かを助ける。だから中学では同年代からかなり頼りにされていたし、信頼もされていた。
でもあいつにはそれが分からない。いや、正確に言えば、信頼されていることが分かっていても、その意味が理解できていない。つまりはただひたすらに見返りがないのだ。それでも誰かの頼みをいつも聞いて、それを完璧にこなしてくるのがあいつだった。
はっきり言って俺には無理だ。別に常に見返りを求めて動いているつもりはないが、そんな世界でも俺は麗梨の様に出来るかと問われれば、答えに詰まる。というより、無理だろうというのは推測できる。
また、麗梨は好意だけが全く理解できないだけで、空気を読む能力はかなり高い。そのばの空気を正確かつ迅速に読み取り、今自分がするべきことを最速で演算する。さらに頭もキレる。相反するふたつの願いを同時に叶えるような男だ。もちろん完璧ではないが、しかしそんなこと普通出来るか?
だが、麗梨もそろそろ限界だということは容易に想像できる。特に月見と出会ってからは…ってか、その月見との出会いも俺が仕組んだんだけどな。月見のクラスメイトに根回し、麗梨と俺以外の生徒が居なくなるように、麗梨を足止めしたり。まぁその後のことは俺は何もしてないけどな。あいつらなら一度出会ってしまえば、俺が手を下す迄もない。
俺が月見を見つけたのが6月。大分時間がかかったが、下調べや下準備を済ませなければならなかったので、まぁまぁの結果といったところか。
月見は麗梨に限りなく近い。重傷度で言えば麗梨の方が上だがな。…何の自慢にもならない。んで、その二人を逢わせて変化を起こす作戦だったわけだ。月見は麗梨程壊れてなかったし、しかし麗梨に近くはあったので、麗梨と月見とでちゃんとしたコミュニケーションがとれるんじゃないかと期待したんだ。似た者同士ならば、少なくとも俺たちよりは可能性はあるだろうし。
だが、はっきり言ってこの作戦は失敗だった。麗梨の傷は広がっちまったし、何よりその代わりに得たものがあまりにも小さい。俺の目的―あいつに俺たちと同じ、普通の世界を見せてやること―を達成するには、まだまだ道程は遠い。それでも、まだ諦めるわけにはいかない。ここで諦めたら、あいつは―。
「ああ、そうか。わかった。それじゃ。」
学校の裏門。俺は携帯を切り、ポケットにしまう。
「首尾は上々細工は粒粒、今回は完璧にやれるだろ。」
不覚にも自分でも分かるほどに顔がにやけてしまった。何せ今回はかなり早い段階で作戦の用意が完了したのだから。
とは言っても俺一人の力じゃない。もう一人の協力者である霧断聖美のおかげだ。その霧断聖美…この学校の生徒会長であり、俺の彼女だったりする。はっきり言おう。聖美は俺には勿体ない程頼もしくて美しい。まぁそんな俺のとてつもなくどうでもいい惚気話はさておき、さっきも言った通り、彼女は協力者だ。麗梨を生徒会に引き入れるためのな。
正直、今の麗梨を意味もなく生徒会に入れるのは危険だが、しかし生徒会にはあの娘がいる。もしかしたら、あの娘なら麗梨の何かを改善してくれるかもしれない。あの娘はある意味、麗梨とは真逆の存在だからな。
俺は一筋の希望を胸に、学校を後にした。
次回からは新しいヒロインの「彼女」が登場します。なんとか来週中には投稿できるよう頑張りますので、その際はよろしくお願いします。