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無題  作者: ああああ
12/15

無策

またまた久しぶりの投稿です。…すいませんでした。

僕の望みは何だろう。何にしたって僕の望みが難だろうということは分かり切ってはいるけれど。

おそらくは現状維持。でも、そんなのは不可能だ。いずれ僕は壊れる。いずれ僕は壊す。そんなことは分かり切っているのだから。

そう考えると、現状維持が本当に僕の望みであるかは難しいところだ。叶わないことが明らかな望み。叶わないことが前提である望み。僕自身が諦めた望み。僕自身を諦めた望み。そんなもの、僕は本当に望んでいると言えるのだろうか。それとも、叶わないから、諦めたからこそ望んでいると言えるのかもしれない。

どちらにしたって、僕の望みが叶わないことは確かなことではあるけれど。


日曜日の朝。妹に僕が今日出かけることを伝えて家を出た。10時半に学校の正門前なら、今の時間なら十分に間に合うだろう。いや、寧ろ早すぎるくらいかもしれない。そう思ったので少し歩くペースを遅める。

今日は日曜日なので全然人がいない。人っこ一人いないわけではないけど、でも平日の朝生徒がそこらじゅうにいる光景を知っている僕にとってはいないと言い切ってしまえる程度の人数だ。だからだろうか、とても落ち着く。それ故に吐き気がしてくる独りというのは本来、恐くて寂しい。僕もその例外ではない。けれど、僕の本能が孤独を求めている。安定を求めて、安寧を求めて、つまりはあらゆる障害の排除を求めている。でも僕にとって障害とは、僕を含めた全ての人間であって、ということは、僕は今死を望んでいるのだろう。本能的には。

それでも死ぬのが怖い、というより、人であるからには死は恐怖でなければならないと定義付けている僕の理性が、死を喜んで受け入れることを善しとしない。死ぬことを、独りになることを望んでいるのを知っていながら、本当は僕はそんなこと望んでいないと僕自身に言い聞かせる。阿呆らしい。

そんな自己否定の様な、自己確認の様な、まとまりがなくてとりとめのない思考をしていると、いつの間にか学校の正門の前だった。時計を見るとまだ約束の5分前。丁度良かった、なんて思っていると、

「告君麗梨!」

朝からいきなりハイテンション&フルネーム。こんなことが出来るのは僕の知人に一人しかいないし、仮に違う人がいたらリアクションに困るだけなので、つまりは彼女が来たということだろう。

「そんな大声じゃなくても聞こえてますよ、天津さん。」

まぁ当然というか、自然というか、そこにいたのは天津さんだった。特徴的なピンクのショートカットに、何というか、うん、お洒落な服を着ていた。

「へ〜、私を10分も待たせておいて出てくる言葉がそんなものだなんて、いい度胸じゃない。」

…これは嫌な予感。

「えっと、僕も一応待ち合わせ時間には間に合いましたよね…?」

そう言うと、天津さんは実に愉しそうな笑みをうかべて、

「私を待たせるなって言ったわよね?」

と告げた。…それなら最初から集合時間じゃなくて、天津さんが来る時間を教えてほしい…なんてことを言っても無駄だということは分かり切っていることなので、ここは諦めることにした。

「分かりましたよ…それで、望みは何ですか?」

ここまで僕に文句を言ってきたんだ、天津さんがそれをネタに、僕に何かを要求してくることは明らかだし、無駄な抵抗は止めて下手に出るのが得策だと考えた僕。

「何か急に大人な態度になったのがムカつく。」

「天津さんに逆らったわけでもないのに、その言い草はあんまりじゃないですか…?」

滅多に泣かない僕でも、いまなら頑張れば泣ける気がする…。

「まぁいいわ。そうね、要求は…。」

言い掛けて天津さんは僕の顔をじっと見てきたかと思うと、少し視線を外して僕の手を見てきた。

「わ、私と、手を…。」

「手を…?」

そして数秒の間。

「私と手をつなぎなさい!」

そう言うと天津さんは顔を真っ赤にしながら、少し汗ばんだ手をスカートで拭ってから手を差し出してきた。天津さんは命令口調なのに、その姿はさながら手をつないでくださいとお願いしているようで、そう思うと少し頬がゆるんでしまった。

「いいですよ。」

要求の意図はわからなくとも、確かに天津さんを待たせたのは事実だし、別に僕は手をつなぐのが嫌だなんて言う程極度の潔癖症でもない。それより何より…そもそも僕に自分の意志など無いのだから。

「何笑ってんのよ、ムカつくわ…。」

顔を赤らめ俯いたままいつもの憎まれ口をたたく天津さん。

「それは申し訳ありませんでしたね。」

そう言って、僕達は歩きだす。見た目は細く頼りない手に、これまた僕の頼りない手を重ねて、相手の手を柔らかく握りながら。ちょっとしたことで離れてしまうことは明らかな、それでもこの手が離れることはないのだろうと確信しながら。



しかしそれとは別に、僕にはもう一つ別の確信があった。それは、僕は天津さんに対して、僅かな親しみも、遥かな憎しみも、ほのかな好意も、密かな敵意も、何一つとして抱いていないということだった。吐き気がする。やっぱり天津さんも僕にとっては障害でしかなくて、それでも僕は自ら望んで天津さんと一緒にいるのだから。

本当に、勘弁してほしい。僕自身にも、周りの人たちにも。


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