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闇夜が訪ねてくる(1作目・完結)  作者: マックス一郎
感染編
7/35

真夜中の入港

コンテナ船が横浜港に入港する。

日本国、神奈川県 横浜市 横浜港 某所

2025年3月某日 未明




曳船ダグボートに引っ張られながらコンテナ船・デメテル号は静かに入港した。

ワトソン重工が用意した水先人パイロットが乗り込んで、操船指揮を執った。

この水先人パイロットは虚ろな目をしていて、まるで蝋で出来た顔をしていた。


ライモンディ船長が与えられた指示を黙々とやっていた。

ハンブルク港を出たライモンディ船長とは別人と言っても、過言ではない。

灰色な肌と虚ろな目、急激に痩せた体、自我を失ったかのような表情で船橋ブリッジに立っていた。1等航海士のリコ、メイン通信士も似たような風貌をしていた。

特にあの陽気だったフィリピン人1等航海士と似ても似つかない変わりようだった。

クルー全員も目から生気を失い、幽霊のごとく作業に当たっていた。


ワトソン重工の作業員が行った綱取り作業が完了し、コンテナ船がドッキングした。

すぐにガントリークレーンが動き出して、赤いコンテナをコンテナ船から取り出し、コンテナヤードに置かず、直接大型トレーラーに積んだ。ワトソン重工の作業員がその固定を行い、作業が完了すると同時に、全員跪いて、頭を下げた。


黒いリムジンからキートンのオーダーメイドスーツを着ている一人の蝋人形のような男が下りた、赤いコンテナの前に跪いて、声をかけた。


「日本へようこそ、我がマスター。」


赤いコンテナの扉が開き、長い触手のようなもの7本が出てきた。そしてそこに居た全員の頭に声が響いた。


「小島よ、供え物を用意しているだろうな。」


と頭に響く声が言った。


「ご心配は無用でございます、我がマスター。」


と蝋人形のような男が答えた。


「我に差し出せ。」


テレパスは再度全員の頭に響いた。


「仰せの通り、我がマスター。」


と蝋人形男は答えた。


小島と呼ばれている蝋人形男はすぐに後ろを見て、穏やかだが、恐ろしいほど冷たいで声で言葉を発した。


「田原君、供え物を連れて来なさい。」


と運転手に命令した。


田原と呼ばれている男がすぐに2人の下着姿の女性を連れて来た。一人はまだ少女、多分15歳未満の黒髪の美しい顔をしていた。もう一人は40代前半でグラマラスな体をした美しい東洋美人だった。


女性2人は訳が分からず、怯えていた。真夜中の港にいる不安、周りには人間味のない蝋人形のような男たちに囲まれている。2人とも触手を見ると悲鳴を上げたが、すぐにその触手に捕まり、赤いコンテナの中に連れ込まれた。その後、恐ろしい何か食事をしている音が聞こえた。


数分が経ち、再度全員の頭に声が響いた。


「もっと連れてこい。」


と声は命令した。


「はい、我がマスター。」と小島は応じた。


田原は今度、20代前半のモデルのような男性、50代の上品な女性、10歳未満の男の子を連れて来た。


全員またすぐに赤いコンテナに連れ込まれた。またあの食事する不快な音が聞こえて来た。


更に数分が経ち、声はまた響いた。


「我は満足だ。小島よ、入国の手配をした男はどこだ?。」


と聞いてきた。


「東京都内にワトソン重工の日本支社で待ってもらっている、我がマスター。」


と蝋人形男。


「何故ここにいない?。」と怒りを込めながら言った。


「我がマスター、お許しを、ご老体は我がマスターの歓迎の宴を用意している、更に良質なお供え物が揃っていると言っている。」


と蝋人形男の小島が答えた。


「なら良い、ワトソン重工の日本支社へ我を案内しろ。」


と命令した。


「仰せの通り、我がマスター。」


と小島は答えた。


黒いリムジンが先に出発し、そのすぐ後ろに大型トレーラーと護衛のランドクルーザー5台も続いた。目指すのは高級タワーマンション群の跡地に建てられたワトソン重工の日本支社の巨大ビル、ゆりかもめの汐留駅近辺にあった。


ワトソン重工の従業員、全員は港から引き揚げた。そして幽霊船のような雰囲気が漂っていたコンテナ船・デメテル号はまだ港にドッキングしていた。


港から600メーター離れた倉庫の屋上、双眼鏡で全ての出来事を見ていた公安部第五課の理事官である中山新一警視が一緒に来ていた隻腕の大きなドイツ人男性に話した。


「元首相を監視し、ワトソン重工の動きを探ったら、とんでもない物を見つけました、ヘルムートどの。」


と中山が言った。


「大変なことになったようです、中山理事官。あの大ボリバル共和国の大晦日の悲劇の再来だ。ああ、無いはずの左腕はすごく痛むよ。」


とヘルムートが答えた。


「あのお方に報告せねばならない。」


と中山は話した。


「貴殿たちのマスターは機知に富む方である、我がマスターや評議会のメンバー皆存じている、急いで警視庁に戻り、体制を整える必要がある。」


とヘルムートが応じた。


「はい、黒岩理事官は距離を保ちながら追跡している。ワトソン重工の日本支社に向かっていると思われる。」


と中山が話した。


それから2人は屋上から飛び降りて、下に泊まっていたレクサスRCFに乗り、警視庁へ向かっていった。


黒岩弥生理事官の階級は警視だった。彼女は美しい長寿者エルダーで、あの方に使えて数百年が経つ。本田のゴールド・ウイングに乗りながらワトソン重工のキャラバンを追っていた。


父の弥助から一文字を貰い、20歳の時に転化した。父と共にあのお方より、黒岩の名字を貰い、ずっとそう名乗っていた。彼女の母はあのお方の父上の庶子でつまりあの方が彼女の伯父上に当たる。


母が転化を拒み、天命を全うし、数百年前に亡くなっていた。父の弥助、太平洋戦争開始直前に当時の軍部により滅ぼされ、彼女とあのお方が忠実な軍人、政治家と警察上層部の手により難を逃れることが出来た。元々あのお方が当時冬眠中だったため、軍部が実権を握ることが出来た。


あのお方は20世紀初頭に設立にした秘密の公安部第五課はこの手の事態を対象とした組織であり、合衆国内に今大人しくしているあの東欧出身の開祖ファウンダーの進撃や文化革命当時に大陸の開祖ファウンダーの密入国を阻止した実績がある。


「今度南米の新系統の開祖ファウンダーの進撃と眷族の数増やしを阻止しなければならない。」


と考えながら、母親が歌ってくれた子守歌を口遊み、バイクを運転していた。



ライモンディ船長の深い意識の中、まだ少しの人間性が残っており、ここ数週間起きた恐ろしい出来事について考えていた。思い出す度に再度恐怖に襲われ、残り少ない自我が消えそうとなった。


それをしているうちに船橋ブリッジにあった黒い鞄を見た。丁度ラン船医の遺体の残り物の近くに置かれている。リコに似た者に声をかけようとしたが、口から出たのは獣のような唸り声だった。


リコ1等航海士に似た者も反応し、唸り声を上げた。デメテル号の様々な場所に似たよう黒い鞄が置かれていた。キッチンの中で彷徨っていたコック長の遺体もそれにぶつかり、床に転んだ。


ワトソン重工が用意した水先人パイロットまたコンテナ船を港から遠ざけ、東京湾の海上に戻し、曳船ダグボートに乗って、夜明けのずっと前に港へ戻って行った。


太陽が昇り始める少し前に全ての黒い鞄が一斉に爆発した。













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