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闇夜が訪ねてくる(1作目・完結)  作者: マックス一郎
感染編
19/35

大悲劇後と闇評議会の面々

リベルタドル市の大悲劇後のそれぞれの道。そして闇の評議会の面々の一部は明らかになる。

大ボリバル共和国、ミランダール州

バエス市・バナベント平原、リベルタドル市首都圏爆心地から約85キロメートル。

臨時避難キャンプ。

2013年1月1日 夜中2時頃


リベルタドル市首都圏は核攻撃を受けてから2時間以上が経っていた。

ヘルムートたちを含む闇の評議会の戦闘員、全員がこの臨時避難キャンプに集合した。

核弾頭入りミサイルの凄まじい攻撃を生き残った者はほとんどなく、生き残ったにしても、

闇の評議会と人間の評議会の合同通達で始末しなければならないことになっていた。

理由は単純明快だった。アンデット化の感染爆発アウトブレイクの鎮火。


1時間足らずで大国の首都圏機能を奪い、予想を遥かに上回るスピードでこの国のみならず、

隣国たち、南米大陸、そして全世界の脅威になっていた。


首都圏の近辺にこの国の軍隊が配置され、被爆を受けた民衆に直接手を下していた。

痛ましいことだが、アンデット一人でも逃がせば、感染爆発アウトブレイクの再発に繋がることとなる。


闇の評議会と人間の評議会が早い段階で通信網を切り、SNSにアップされていた動画や写真など、削除をしていた。闇評議会のメンバー、特に人間擁護派であるヘルムートのマスターのノスフェラトゥ卿にとって、辛い決断だった。


死亡者数、行方不明者数は670万人以上に上り、首都圏の数少ない生存者は感染爆発アウトブレイクの前に様々な事情で市を離れた人たちだった。


副大統領を含む政府関係者の生き残りとその家族は大グラナダ共和国との国境、西にあるダシラ州の州都、サン・アントニオ市に避難していた。朝方前に大ボリバル共和国の全国民に向けて、今回の大悲劇についての重要な声明発表を行う予定をしていた。


「浮かない顔ですね、ヘルムートさん。」


ミナが話しかけてきた。


「ああ。これは想像以上の大悲劇だ。」


元気なくヘルムートは答えた。


「民間人を助けることも出来ないのは悲し過ぎる。」


弥生がつぶやいた。


多くの合衆国人、ヨーロッパ人、ロシア人と中国人の工作員も同じ思いをしていた。全員転化し、人の血を糧にしていていも、これだけの悲劇は第二次世界大戦と日本への核攻撃以来だった。


ロシア人主マスター、ボクレフスキー公爵の部下の精鋭部隊は感染爆発アウトブレイクの波が全てを飲み込む前にに、首都圏のベットタウン市の数千人の住民を数分で避難させることに成功していたが、脱出は遅れて、自分たちは爆発に巻き込まれて、消失した。


これから報告と指示があるため、一度上の存在である闇の評議会との会議が決まった。


「皆さん、モニターの設置が完了したので、集まってください。」


中山新一は声をかけてきた。


大きなモニターの前に全員が集まった。


画面が20数の小さな四角い画面に分かれ、各画面に一人の闇評議会の面々が映った。

その場にいる全員膝をつき、頭を下げた。


「全員立て、頭を上げよ。」


ノスフェラトゥ卿の声が響いた。


約100人いる工作員、全員は立ち上がり、一斉にモニター画面を見た。

評議会のマスター級で4人の最古メンバーの1人である女性、美しいコリント人のフィリノンが声をかけた。


「この度はご苦労であった、皆の者。」


このマスターは4000年以上前から存在しており、人間ウォームたちにより複数の文献で描写及び記録されていた。本人は美しい黄金のような髪の毛と豊満で色気のある体、ギリシア神話の女性神々の美しい顔立ちだった。エンプーサとも呼ばれ、若い男性を餌食にする怪物と昔の人間に思われていた、そして実際そうだった。


「今回の悲劇はとっても大きい。」


最古メンバー4人のうちの1人である、同じく4000年前から存在している古代エジプトの時代から女神と崇められていた長い黒髪をしている雌ライオンの仮面を被ったセクメトがため息を吐きながら言った。


「この国の復興を至急に考えねばならない。」


もう一人の最古メンバーの1人、3500年前から存在している中年で知的な男性の外見をしたバビロニア人のアサックが重い声でつぶやいた。


最後の最古メンバー、そしておそらく食物連鎖の頂点の存在最初の1人と言える者、1万数千年以上存在している追放者カインは2000年前から冬眠しているので今回の集まりは欠席していた。彼の眷属の長寿者エルダーたちは昔、人間ウォームたちにより滅ぼされているため、いつか冬眠から目覚めた時、一人になる。


「亡くなった命は大きな損失、まことに残念だ。」


明初期の時代に転生し、青い肌の老人男性の外見と満洲族の衣装を着た中国人のマスターの任老太爺は神妙な顔で言った。


「ところで、ヘルムートよ、元凶である、あの品のない悪党はどうなったか?」


と女性のマスター、カーミラ女公爵が質問した。この女公爵は黒い髪の毛と魅力的な外見をしており、1100年代頃から存在しているにも関わらず、産業革命少し前の1700年代から初めて表舞台に出た、新勢力のマスターの1人。


「再生不可能な状態に追い込んだ。おそらく爆発に巻き込まれて、滅ぼされたと思う。」


ヘルムートが答えた。


「滅んでいるところ見てないのか?、ヘルムート?」


若いイギリス貴族の外見をしたマスター、ルスヴン卿が追求した。


「見てないです、ルスヴン卿。」


ヘルムートは正直に回答した。


「使えないカスだよ、お前は。」


怒りじみった白い顔で黒髪の30代男性外見のヴァーニー卿はヘルムットを罵った。


「この闇評議会一の戦士であるヘルムート君を説教しても良いが、侮辱は許さんよ、マルマデューク・バナーワース卿。。おっと、失礼、今は確かにフランシス・ヴァーニー卿だったかな?」


カーミラ女公爵がヴァーニー卿を威嚇した。


ヴァーニー卿が口を開き、上2、下2の計4つの大きな牙を出して、威嚇を返した。カーミラ女公爵の顎が割れて、口も含めて大きく開き、4つの鋭くて大きな牙でヴァーニー卿を睨んだ。


「いい加減に眷属の前で争いを止めろ。」


大きな怒号と同時に更に大きなテレパスが全員の頭に響いた。最古メンバーの1人、コリントのフィリノンの目は黄色く光り、左右に大きく裂けて開いた巨大な鋭い牙だらけの口で威嚇し、一瞬で新勢力のマスターたちを黙らせた。


「では、この大悲劇の元凶は滅ぼされたとみていいのではないか?皆さん。」


評議会の一番新しいメンバー、1930年代ホラー映画のハリウッド・スター俳優そっくりな東欧出身のアーカード卿が呑気そうに言った。


「私もそう思う。」


青色の皮膚とミイラのような外見をしたオルロック伯爵が話した。


「その意見に同意する。」


フランス人貴族のマスター、ジル・ド・レ卿のも声をかけた。


「同意。」


800年前から存在している東欧の中年男性外見をしたヨーガ伯爵も言った。


「そうですね。同意する。」


もう一人の人間擁護派の優しい顔のマルデュラック伯爵も話した。


「配下を信じる。あの転生した外道の気配は今も感じない。」


ノスフェラトゥ卿が締めくくった。


ロシア人主マスター、ボクレフスキー公爵、スダン出身でカリブ海を縄張りとしているマクシミリアン伯爵、古代アステカ文明の女性主マスター、地獄のサンタニコ女王、北極圏を那縄張りにしている灰色の処刑人と呼ばれているマーロー卿、古物商と残忍さで有名なカート・バーロー卿、及び最古メンバー4人のうちの3人、コリント人のフィリノン、エジプト人のセクメトとバビロニア人のアサックも同意した。その他、黙って聞いていた残りの評議会メンバーも最終的に同意し、議論を終わらせた。


系統・眷属による今回の悲劇について各報告が終わった後、評議会のメンバーがテレパスでのやりとりをはじめた。


午前3時前に会議が終了した。大きなモニター画面の小さな四角い画面が消え始めた。


「息子よ。元気か?」


ルスヴン卿は中山新一に聞いてきた。


「はい、父上。次回の夏季に一度ロンドンに行く。」


新一が答えた。


「母さんは君を待っている。」


優しく息子にルスヴン卿は声をかけた。


「母上によろしくを伝えください、父上。」


新一は父親に伝えた。


「わかった。そうする、では。」


とだけ答えて、ルスヴン卿はモニター画面を消した。


ヘルムートは先の戦いで切り落とした左腕が痛むと感じた。

会議が終わった直後に近寄ってきた宿敵のはずであるミナが彼の耳元に囁いた。


「もう敵同士じゃないからね。」


恥ずかしがりながら言った。


ヘルムートが特別に設置された仮眠用の太陽光を遮る特殊テントに彼女と一緒に入って、すぐ中から閉めた。


新一は上官である黒岩弥生に近づき、彼女の美しい顔を見て、何か言うとしたが、彼女は彼の口に指を置き、黙るような仕草を彼に見せた。


「これだけの大きな悲劇を見たから、私は今存在している証がほしい。」


と悲しく言いながら、弥生は新一にキスした。


2人も別のテントに入った。




元旦の朝方4時に全国民に向けて、元副大統領、現新大統領が声明を発表した。

今回の大悲劇は元大統領が暴走し、軍のクーデターを止めるため、闇市場で手に入れた核爆弾を怒りに任せて、起動させ、爆発を起こした。首都圏の市民の大半はその暴走に巻き込まれて、犠牲となった。経済破綻しているこの国は助けが必要となり、新政権は暫定的な政権であると明確にし、国の復興と民主主義への回帰を約束した。全国民を喪にし、必要物資、医療援助を各国に呼び掛けた。

この国を破綻させた極左政権の事実上終焉となった。


合衆国、日本国、ヨーロッパ連合、中国、ロシア、大ブラズィル連邦共和国、ラ・プラタ連邦共和国などすぐに支援する声明を発表し、人員も物資を出発させた。

歴史にはこの出来事を大ボリバル共和国・リベルタドル市大晦日の大悲劇と記録された。



大ブラズィル連邦共和国・アマゾン地帯

ジャブロー地区

2013年1月1日 夜中3時頃

ワトソン重工の特別研究所


ヘリコプター2機が研究所のヘリポートに到着し、隊員たちは元大統領が入っている血入り治療タンクを下ろしはじめた。

小島もヘリコプターから下りて、研究所入り口の近くに立っている2つの影を見た。

転化のおかげで強化された視力ですぐに誰なのはわかった。

一人は身長の高い、筋肉質の日焼けした肌の白衣着ている軍人っぽい40代前半の白人男性。もう一人は色白く、口ひげとあごひげを生やした若い20代の白人男性だった。


「おや、お久しぶりです、ジェイ・ヘイミッシュ・ワトソン博士とグレイ監査官。」


と声をかけた。


身長高い軍人風の男性、ワトソン博士はすぐに鋭い目で質問をした。


「荷は無事なのか?」


「はい。無事と言えば、無事ですが、闇の評議会の戦闘員にこっぴどくやられています。」


小島は率直に答えた。


「君たち全員は転化したか?」


若い男性、グレイ監査官は質問した。


「はい。2名は失敗しましたけど。」


小島は答えた。


「では、君たちは新人者ニューボーンになった、おそらく太陽光にはまだ抵抗がない。」


ワトソン博士が小島に話した。


「すぐに中に入り、転化後の初めての睡眠をとってほしい。」


ワトソン博士が付け加えた。


「血入りの治療タンクは転生者が出す脳波をブロックする機能もあるのだが、時間は限られている、早く培養層に入れないといけない、そうしないといずれ闇の評議会に大統領が滅んでないことがばれる。」


グレイ監査官が話した。


「早く、全員中に入って、休んでくれたまえ。」


ワトソン博士は命令口調で言った。


「はい。了解しました。」


軍人口調で小島は返答した。


ワトソン博士を含め、全員が中に入ったのを確認した後、グレイ監査官は電話を取り出し、ワトソン重工のトップに連絡した。


「会長の預言通りにことが進んでいる。」


と伝えた。


「言った通りでしょう。外れたことはないからね。」


微かなフランス語訛りの英語で電話の男はグレイ監査官に話した。


「それでは大統領の治療開始の確認をしてから、本日中に本社に戻ります、会長。」


グレイ監査官は話した。


「治療タンクで取ったデータの控えを先に送付するのを忘れないでくださいね、ドリアン・グレイ監査官。」


電話の声は指示した。


「はい、会長。」


不死者、ドリアン・グレイ、ワトソン重工監査官が答えた。






















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