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闇夜が訪ねてくる(1作目・完結)  作者: マックス一郎
感染編
17/35

悲劇の来訪

核攻撃が迫る中、リベルタドル市からそれぞれの避難先へ向かう大統領を抱えた小島隊とヘルムット。

リベルタドル市 大ボリバル共和国首都

2012年12月31日 23時25分頃

中心部より5キロメートル、スクレ市境周辺

ヘリコプターとの合流地点


小島は明るくなった夜空を見ていた。

自分の目が明らかに夜を明るく捉えていた。これは転化の恩恵と自分で納得した。

今日起こったこと、全ては預言通りになったので、改めて創設者ファウンダー兼預言者プロフェットであるワトソン重工のトップの預言の正確さに心底驚いていた。


預言の中でも核攻撃について書かれており、おそらくはその通りになるだろうと思っていた。

大統領は専用の血入りタンクに入れられて、今は損傷を受けた体をゆっくりと再生していた。

闇の評議会の凄腕戦闘員にこっぴどくやられていたため、大統領は深い眠りに入った。


避難用の巨大HC.6ヘリコプター2機が着陸し、4人の隊員はタンクを中へ運んでいた。

残りの隊員は6台のストライカー装甲車に爆発装置を付けたり、合流地点の周囲を警戒し散らばって注意深く警備をしていた。


小島は大統領が深い眠りについてたので全隊員に小瓶に入っている透明液体をすぐ飲むように命令した。これもワトソン重工のトップの指示だった。今夜飲んでいる分と昨日飲んだ分を含めてこれからずっと1日1回、飲まなければならないものであると厳重に命令されていた。その液体には味はないものの、感覚的に薬に思えて、好きではなかった。自分の分を飲んだら、昨夜、まだ転化前に予防として飲んだ分との違いはすぐにわかった。転化直後に頭の中に感じていた一種の軽い不快感の感覚がほぼ消えた。これから行くワトソン重工のジャブロー研究所の研究責任者の説明によると干渉を受けず、自分の考えは読まれないが、相手にそのことを悟らせない、相手のテレパスによる明確な命令がクリアに伝わる、相手には単調な思考しか読まれない、要約するとその透明液体は自分たちを大統領の支配能力から守る血清だった。


ジャブロー研究所の全研究員、警備員、民間事務員の人間ウォームたちも、その液体を常に持っていて、転化者同様、1日1回飲まなければならない決まりとなっている。

この時のため、この転生劇のため、ワトソン重工が数十年前から準備していたのは明白だった。


「それでは出発しましょう、皆さん。」


小島が隊員に声をかけた。


全員はヘリコプターに乗り始めたところ、突然近くの林からアンデットの大群が現れ、押し寄せて来た。感染爆発アウトブレイクが始まって、1時間数10分でここまで広がって来たのを

隊長である小島は正直に驚いていた。

合流地点に向かう途中の道でアンデット化したこの国の民衆を多く見かけたが、まさかここまで来るのは予定より遥かに早かった。


「皆さん、撃ちなさい。」


小島が隊員に命令した。


「全員、アンデットの頭を撃って!!」


副官の田原の怒号が聞こえた。


全隊員が一斉に撃ち始めた。大群の先頭にいたアンデット数体は倒れていた。それでも林とその横にある舗装されてなかった道にも現れはじめ、自分たち押し寄せて来た。

民間人、警察官、軍人など入り交じり、自分たちのいる場所を目指して、襲ってきた。


小島がアンデットの大群の中に異色の存在を見かけた。綺麗な赤いドレスを着ていた長い黒髪の女性。アンデットのような灰色をしていたが、口から1本の触手テンタクルスファングを出してた。明らかに他のアンデットより早く動き、飛んでくる弾丸を軽くかわしてた。

創設者ファウンダー預言者プロフェットであるワトソン重工のトップから以前聞いたことはあった。稀に転化の際、発生する失敗種、喰種グールと呼ばれる存在だ。


小島が育った日本の東北地方の伝承の中に屍食鬼ししょくきとも呼ばれていた。

彼は推測した、マスターである大統領に餌食されていれば、素質がある者ならば恐らくすぐに転化し、食物連鎖の頂点の存在になっていたであろうとの結論に至った。思考能力のないアンデットに噛まれたため、その素質が無駄となり、中途半端な存在になった。


「田原君、ちょっと、あれは私が討ち取るよ。」


と言いながら、小島は狙いを定め、何発か撃った後、赤いドレスの女性喰種グールの頭がぶっ飛ばされて、倒れた。


避難用のヘリコプターに全員が乗って、チヌークHC.6の機体後部ドアが閉められ、離陸を始めた。

キャビンドア部とその対面の脱出用ハッチ部、機体後部のカーゴランプ上に設置してあったブローニングM2重機関銃に隊員が配置され、自分たち目掛けに集まってくるアンデットの大群を撃ちはじめた。ある程度高さと距離を稼いだところ、小島が装甲車に仕掛けた爆発物リモコンのスイッチを押した。6つの大きな火柱が上がり、明るい夜を更に明るくしていた。

ヘリコプター2機はジャブロー研究所への進路を取った。


約15分後、ジャブロー研究所方面に飛んでいたところ、小島はある違和感を感じて、真剣な表情で隊員に命令した。


「何かにつかまりなさい!」


と命じた。

全員が命令に従った直後に熱い核爆風がヘリコプター2機に直撃した。

幸いある程度距離を稼いだため、大きな揺れで終わったが、自分たちが離れたリベルタドル市首都圏のあったところに核爆発の巨大な2つのキノコ雲が立っていた。



リベルタドル市 大ボリバル共和国首都

2012年12月31日 23時30分頃

リベルタドル市-ボリバル・スクレ空港間の高速道路


ヘルムートは大急いで空港方面の高速道路でパトロールカーを飛ばしていた。

驚いたことに高速道路は空いてた。首都圏から逃げる市民で溢れかえると思ってたが、そうではなかった。

皆、感染爆発アウトブレイクに突然襲われ、逃げる暇もなく、アンデット化したのではないかと思った。いくつかのアンデットの集団を見かけたが、車に乗っていたおかげで襲われずに済んだ。


片手で運転するのは意外に難しく、苦戦していた。それでも連続的に近距離瞬間移動を使うよりは楽だった。あの系統能力が便利な分、使い過ぎるとすぐサースティーきを増幅させる。

マスターテレパスで聞いたところによれば、この国の官僚や政府関係者の生き残りと闇の評議会の救出部隊がボリバル・スクレ国際空港に集まっている。


高速道路を運転していると先に大勢の影が見えた。高速道路を歩いて、自分目掛けに迫って来てる。

発生して一時間以内にリベルタドル市首都圏に感染が広がったと思った。

このまま前から迫ってくるアンデットの大群に突っ込んで、近距離瞬間移動で空港に向かう他、逃げる道がない。


考えているうちに、大きなエンジンの騒音と強烈な光に照らされ、車を止めて、上空を見た。

ボリバル解放空軍、1機の攻撃ヘリコプター、ロシア製Mi-24が高速道路上に着陸した。

大きな横ドアが開いて、見覚えのある顔が下りて来た。

東欧出身の合衆国在住の開祖ファウンダーで闇の評議会の一番新しいメンバーのアーカード卿の右腕のウィルヘルミナ・“ミナ”・ハーカーだった。


このイギリス人女戦士と20世紀初めから数回衝突したことがあった。あの開祖ファウンダーの眷属の中で古株の1人であり、まだ長寿者エルダーと呼べる者ではなかったが、頭と機転が良く、ソード、ナイフ、拳銃の手慣れだった。


「お久しぶり、ヘルムートさん。第一次湾岸戦争の時以来ですね。」


いたずらっぽい笑顔を浮かびながら、ミナは言った。


「何故ここに?」


ヘルムートが聞いた。


「闇の評議会の要請であなたを迎えに来た。急いでこれに乗って、感染爆発(アウトブレイク)を阻止するため、核攻撃の決定が出されて、すぐリベルタドル市首都圏から避難しなければならない。」


ミナが真剣な表情でヘルムートに伝えた。


「でも人間ウォームたちはどうなる?」


ヘルムートは質問した。


「自分でも気が付いたと思うけど、全員は助けられないの。あの感染爆発アウトブレイクの凄まじいスピードを今のうちに止めないと、近隣国及び世界に拡散する可能性がある。」


とミナが答えた。


「わかった。」


と言いながら、ヘルムートがヘリコプターに乗った。


そして攻撃ヘリコプターはボリバル・スクレ空港方面へ飛んで行った。


15分後、闇の評議会が手配したロシアの潜水艦から発射された核弾頭入りミサイル2機がリベルタドル市首都圏上空で爆発し、残ってた人間ウォームたち、アンデットの大群諸々を一気に消し去った。


後の歴史がこの悲劇をリベルタドル市大晦日の大悲劇と呼ぶこととなる。































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