3分後にキスをする
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わたしはトコという。
もちろんあだ名だ。
ワンルームのアパート。
小さな丸いちゃぶ台を挟んで、わたしはテツさんと顔を突き合わせている。
テツさんから別れ話を切り出された瞬間、3分後にキスをしようと決めた。
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「テツさんとわたしは恋人未満です。だからこそ、これから楽しくなるんですよ?」
「かもしれへんけど、とにかくトコちゃんとはバイバイしたいんやわ」
「自分はフリーターだからとか、まだそんなことを気にしてるんですか?」
「そのとおり。はーい。こちらからは以上でーす」
「勝手に話を終わらせないでください」
「俺さ、ひとを殺したことがあんねん」
「言うに事欠いていきなりなにをおっしゃるのか」
「何人も殺したんやよ」
「だったら、お縄についていないのはどうしてですか?」
「俺はうまくやるニンゲンやさかいねぇ」
「わかりました。いいでしょう。殺人鬼、ばっちこいです」
「しかも、ネクロフィリアなんやけど?」
「かなりイイ感じです。メチャクチャどきどきします。って、ああぁっ。もう1分経過です。わたしの体内時計は正確無比なのですよぅ」
「なんや急いでんのん? ちゅうか、もう21時やもんね。高校生は店じまいせなあかんね」
「まだ営業します。帰りません」
「最近の女子高生って、みんなトコちゃんみたいな感じなん?」
「愚問ですね。わたしみたいにかわいいコ、そのへんで見かけますか?」
「いや、見た目のことやなくて――」
「外見は大切です。イケメン万歳です」
「本気でそない思てるん?」
「さあ、どうでしょうね」
「ここに来て煙に巻くんかぁ」
「わたしは変幻自在なので」
「そんなトコちゃんに朗報です。きみにはもっと素敵なひとが見つかるはずやよ」
「ほぉら、とどのつまりはそういうことじゃないですかぁ。テツさんは性格に問題があります。卑屈なんです。だからむやみやたらに他人を突き放そうとするんです。くり返します。自分を卑下するのは感心しません」
「リアルに人殺しやったら、どないするんさ?」
「それでもいいと言ってます。二十歳の屍体性愛者。しびれるほど素敵です」
「ホンマにぃ?」
「嘘なんてつきませんよ。って、あああああっ。もう2分過ぎちゃいましたよぅ」
「せやから、なに急いでるんさ?」
「主導権、渡してもらってもいいですか?」
「うん。どーぞぉ」
「やっぱりテツさんのことが大好きです。以上、取り急ぎ」
「取り急ぎ?」
「起立してください」
「帰る気になった?」
「なってませんよ。いいから立ってください」
*****
座布団から「よっこいしょ」と腰を上げたテツさんに、わたしはすかさず近寄った。
向き合う。
ここからどう攻めようかと考える。
急げ急げ。
時間がない。
――と、白くて冷たい指が首に巻きついてきた。
「きれいな首やねぇ。サイコーやわぁ。メッチャ殺したいわぁ」
テツさんってば、うっとりした顔で妖しく笑ってみせる。
ダメだダメだ。
ほんとうにもう時間がない。
なりふりかまっていられない。
一度決めたことは貫き通さなければならない。
わたしはそういう女のコだ。
「テツさん」
「なんやろ」
「殺すならキスをしてからにしてください」
「……」
「ダメですか?」
「……ええよ」
顔が近づいてくる。
近づいてくる近づいてくる。
近づいてきて、チュッとキスをされた。
おたがいに微笑み合ったところで、オッケー、ジャスト3分っ!
さあ、殺される。
殺される殺される殺される。
きっとわたしは、このひとに殺してもらうために生まれてきたんだ。
首の締めつけが徐々に徐々に強くなる。
静かにそっと、強くなる。
なんとも言えない甘美な感覚に、わたしは喘いだ。
「絶対に屍姦してくださいね?」
最後にそうお願いした。
きちんと言えたので満足した。
穏やかな気持ちで目を閉じた。
凡庸な人生を送るくらいなら、愛するひとに扼殺されるほうがずっといい。
「おやすみ、トコちゃん」
テツさんの長い指が、わたしの細い首に、いよいよぎゅっと食い込んだ。




