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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

3分後にキスをする

作者: XI
掲載日:2022/03/09

*****


 わたしはトコという。

 もちろんあだ名だ。


 ワンルームのアパート。

 小さな丸いちゃぶ台を挟んで、わたしはテツさんと顔を突き合わせている。


 テツさんから別れ話を切り出された瞬間、3分後にキスをしようと決めた。



*****


「テツさんとわたしは恋人未満です。だからこそ、これから楽しくなるんですよ?」


「かもしれへんけど、とにかくトコちゃんとはバイバイしたいんやわ」


「自分はフリーターだからとか、まだそんなことを気にしてるんですか?」


「そのとおり。はーい。こちらからは以上でーす」


「勝手に話を終わらせないでください」


「俺さ、ひとを殺したことがあんねん」


「言うに事欠いていきなりなにをおっしゃるのか」


「何人も殺したんやよ」


「だったら、お縄についていないのはどうしてですか?」


「俺はうまくやるニンゲンやさかいねぇ」


「わかりました。いいでしょう。殺人鬼、ばっちこいです」


「しかも、ネクロフィリアなんやけど?」


「かなりイイ感じです。メチャクチャどきどきします。って、ああぁっ。もう1分経過です。わたしの体内時計は正確無比なのですよぅ」


「なんや急いでんのん? ちゅうか、もう21時やもんね。高校生は店じまいせなあかんね」


「まだ営業します。帰りません」


「最近の女子高生って、みんなトコちゃんみたいな感じなん?」


「愚問ですね。わたしみたいにかわいいコ、そのへんで見かけますか?」


「いや、見た目のことやなくて――」


「外見は大切です。イケメン万歳です」


「本気でそないおもてるん?」


「さあ、どうでしょうね」


「ここに来て煙に巻くんかぁ」


「わたしは変幻自在なので」


「そんなトコちゃんに朗報です。きみにはもっと素敵なひとが見つかるはずやよ」


「ほぉら、とどのつまりはそういうことじゃないですかぁ。テツさんは性格に問題があります。卑屈なんです。だからむやみやたらに他人を突き放そうとするんです。くり返します。自分を卑下するのは感心しません」


「リアルに人殺しやったら、どないするんさ?」


「それでもいいと言ってます。二十歳はたちの屍体性愛者。しびれるほど素敵です」


「ホンマにぃ?」


「嘘なんてつきませんよ。って、あああああっ。もう2分過ぎちゃいましたよぅ」


「せやから、なに急いでるんさ?」


「主導権、渡してもらってもいいですか?」


「うん。どーぞぉ」


「やっぱりテツさんのことが大好きです。以上、取り急ぎ」


「取り急ぎ?」


「起立してください」


「帰る気になった?」


「なってませんよ。いいから立ってください」



*****


 座布団から「よっこいしょ」と腰を上げたテツさんに、わたしはすかさず近寄った。

 向き合う。

 ここからどう攻めようかと考える。

 急げ急げ。

 時間がない。


 ――と、白くて冷たい指が首に巻きついてきた。


 「きれいな首やねぇ。サイコーやわぁ。メッチャ殺したいわぁ」


 テツさんってば、うっとりした顔で妖しく笑ってみせる。


 ダメだダメだ。

 ほんとうにもう時間がない。

 なりふりかまっていられない。

 一度決めたことは貫き通さなければならない。

 わたしはそういう女のコだ。


「テツさん」

「なんやろ」

「殺すならキスをしてからにしてください」

「……」

「ダメですか?」

「……ええよ」


 顔が近づいてくる。

 近づいてくる近づいてくる。

 近づいてきて、チュッとキスをされた。


 おたがいに微笑み合ったところで、オッケー、ジャスト3分っ!


 さあ、殺される。

 殺される殺される殺される。


 きっとわたしは、このひとに殺してもらうために生まれてきたんだ。


 首の締めつけが徐々に徐々に強くなる。

 静かにそっと、強くなる。


 なんとも言えない甘美な感覚に、わたしは喘いだ。


 「絶対に屍姦してくださいね?」


 最後にそうお願いした。

 きちんと言えたので満足した。

 穏やかな気持ちで目を閉じた。


 凡庸な人生を送るくらいなら、愛するひとに扼殺されるほうがずっといい。


 「おやすみ、トコちゃん」


 テツさんの長い指が、わたしの細い首に、いよいよぎゅっと食い込んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)すごいインパクトを残す作品ですね。単純に読めば恋愛サイコホラーだと思うんですが、そうでない考察もできるといえばできるんですね。これはテツもトコもどっちも狂気。 [気になる点] ∀・)…
[良い点] なるほど、所謂「殺し愛」と「殺され愛」なのですね。 客観的に見れば惨劇だけれど、当事者達にとっては納得の結果で満足している。 まさしくメリーバッドエンドですね。 「こういう愛の形もあるんだ…
[一言] まさかの結末に、ジャンルはホラー?と確認してしまいました。
2022/03/26 22:54 退会済み
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