表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/9

3 疎かにしたツケ



 ごはんが食べられない。

 それはつらい。たいそうつらい。


 メイシアだってわかる。サイサンやユミもお腹が空いたらとてもかわいそうだ。

 マギーなんて、きっとロクな物を食べられなかったから真っ平な体に育ってしまったのだろう。女の子なのに。


 食べ物がないから出て行ってくれ。


 獣人族の村でも昔はよくあった話だと聞く。

 聞くたびに、あまりの哀れさにメイシアは大泣きしたものだ。泣くとまたお腹が空く。不幸の連続攻撃。



 サイサン達が出て行った後、そのままギルド会館の食事処でいつものご飯を頼んだ。

 だけど、お金がないんでしょと言うおばちゃんの顔はいつになくつらそうで、やっぱり食べ物がないのはみんなが不幸になるのだと思った。

 出ていこうとしたメイシアに、これ捨てる食材だからと野菜の切れ端をくれた。


 しゃむしゃむと草を()む。

 草は好きではないけれど、何も食べないのはもっと好きじゃない。

 お金を払えないメイシアにおばちゃんがくれたのだ。その優しさに泣けて、草は薄い塩味がした。




 お腹が空いた。

 仕事をしないとお金が手に入らない。だけどお腹が空いて力が出ない。

 サイサン達と合う前はどうしていたんだったか。最近はサイサンが持ってくる仕事に行くだけだったから何をすればいいのかわからない。


 考えたら余計にお腹が空く。

 おばちゃんからもらった食べられる草を全部食べて、はぁぁと肩を落として町を歩いた。


 肉を売る店の方には行かない。余計にお腹が空くから。

 町の外で採ってきたのだろう果物を載せた荷車に引き寄せられてしまうが、どちらにしてもお金がない。


 中型の樺鹿(かじか)を木の棒に括りつけた冒険者二人が、門から肉屋の方に向かうのが見えた。

 うまそう。

 自分たちで食べきれないから肉屋に売るのだと思う。あれくらいメイシアなら朝飯前で平らげるのに。



「……お腹空いたなぁ」


 見送っていたらますますお腹が空いてきた。

 このままではいずれ動けなくなってしまう。


 どうにかしなければ。


「……あ」


 そうだ。お金だのなんだのと考えてばかりで簡単なことを忘れていた。

 自分で獲って食べればいいのだ。昔はずっとそうしていたのだから。


「なぁんだ、簡単じゃないの」


 そうと決まれば急がないと。

 メイシアは急ぎ足で門の外、魔獣の住処の森へと向かった。



  ◆   ◇   ◆



「うぅぅ……もう、ダメ」


 どれくらいの時間歩き回ったのか、覚えていない。

 まず、半日の半分くらい歩かなければ森に辿り着かない。

 近隣の木々は伐採されて町の建築資材になっているのだから。ついでに近場の魔獣も駆除されている。


 世界には危険がたくさんある。

 人間はその数と色んな道具で危険を排除するけれど、人間の生活を脅かす危険は少なくない。

 なるべく安全で水がある場所に町を作って、その周囲をならしてしまう。


 町を取り巻く田畑は町の偉い人が管理していて、農作業で働く人たちもいる。

 田畑で食べ物を作れる人たちは偉いなぁとメイシアは思う。根気よくたくさんのご飯を作るのだから。



 すぐ獲ってすぐ食べたい。

 メイシアだけでなく獣人なら大抵そう考える。狩猟民族だとユミが言っていた。


 狩りをする為に町を出たけれど、森に辿り着くまでにもう腹ペコ。

 今日は朝からサイサンの話で何も食べていない。おばちゃんからもらった草は別として。


 季節は秋。食材が豊富な時期。

 なのに……



「なんにもない……」


 とりあえず果実でもいいと思ったが、森の浅い部分にまともに食べられそうなものは見当たらなかった。

 町に荷車で運んでいた人たちがいた。彼らが先に収穫していったのだと思い出す。

 森の浅い部分から順番に。当たり前だ。


 獣の気配もない。

 これもまた、険者などが狩猟、駆除したのだろう。



 ちちち、と鳴く小鳥が木の枝に止まっていたが、小鳥の俊敏さはメイシアより少し速い。十分に近づく前に飛んでいってしまった。


 罠も何もなく鳥を捕まえるのは無理だ。

 ユミがいれば離れた場所から矢で貫いたはず。マギーなら魔法で爆散させただろう。それでは食べられない。

 メイシアは道具を使うのが苦手。魔法も使えない。自分の爪と牙は飛ばせない。



 腹を空かして辿り着いた森でも、簡単に食べ物にありつくことはできなかった。

 メイシア一人で森の奥は危険かもしれない。

 だけど戻るだけの体力も怪しい。戻ったところで何も食べられないのだし。


 そのままふらふらと森の奥に進んだ。

 進むうちに思い出す。人間の町に来る前のことを。



 ――メイシア、お前は人間の町に行きなさい。


 獣人族の村は小さい。大きくても百人くらい。


 ――大食の獣人の中でもさらによく食うお前には、この村は小さすぎる。


 ああ、そんな風に言われたんだった。


 ――何千、何万も暮らす人間の町なら、お前にも食べきれないほどの食糧があるはず。頼む、出て行ってくれ。


 メイシアのせいで村周辺の食べ物が不足する。だから出て行ってくれと。

 食べきれないくらいの食べ物という言葉を聞いてすぐに旅立ったのだ。遠慮せずたくさん食べられると思って。



 村長の言うことは本当だったけれど、食べるのにはお金が必要だった。

 お金をもらえる仕事を探すのは難しかった。もらったお金をちゃんと計算するのも頭がこんがらがった。

 サイサンが助けてくれたから、全部サイサンに任せてきた。


「ちゃんとお金数えて食べればよかった……」


 苦手だからと任せきりにしてきた罰だ。

 サイサンたちが悪いんじゃないと思うと余計に自分が情けなくて、お腹が空いた。



  ◆   ◇   ◆


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ