2 冒険者の意地っ張り
「あれでよかったの、サイサン?」
「仕方ないだろう」
ユミの問いかけにサイサンは情けない顔で笑った。
自嘲気味に。
「俺たちの力じゃメイシアに食わせてやれない」
「そうだけど」
「最初に会った時はラッキーだと思ったんだよ」
懐かしそうに空を見上げて、こんな晴れた日だったとか、そうでもなかったかもとか。あいまいな昔話を。
「小狡い先輩冒険者に騙されて、安い分け前で仕事させられてるメイシアを見た時に」
「報酬の一割と、骨ばっかりの肉もらってたんでしょ」
「普通なら捨てる部位だな。砕いて家畜のえさにするような」
正当な報酬を受け取れず、ただ量だけ買い込んだ食料に喜ぶメイシア。
世間知らずのバカな獣人。いいように使われていた。
サイサンは彼女に最低限の読み書きを教えて、まともな食事を与えた。後に後悔することでもあるが。
「一緒に冒険してみたら、俺なんかとは別格の本物の前衛だ。今日まで生きてこられたのはメイシアのおかげさ」
「私だってそうよ。マギーだって」
「う……ぶび……」
「もう、いい加減泣き止んでよ」
「だぁ゙ってぇ……」
「強がらないとさよならも言えないくらい好きだったくせに」
顔中べちょべちょにしながら歩くマギーに、ユミも目尻をそっとぬぐった。
「サイサンだって、そうでしょ。メイシアのこと」
「……あいつは、俺たちなんかとは違う。もっとずっと上の仲間を見つけて、もっといいものを腹いっぱい食うのがいいのさ」
「意地っ張り」
こんな田舎町の雑用係のような仕事をしている冒険者とは違う。
本物の冒険者。
未知の迷宮、人跡未踏の洞窟。あるいは災害級の魔物討伐をするような別格の存在。
いつもは役割分担として敵の攻撃を引き付けて、ユミとマギーを守ってくれていた。
それ以上によく食べたけれど、一緒にいて楽しかった。
そんな彼女を、いつまでも三流冒険者の自分たちに付き合わせていてはいけない。
食費のことを相談したら、メイシアは食べる量を減らしたかもしれない。それではまた彼女が自分たちに合わせることになってしまう。
メイシアを盾にしてもっと高難度の依頼を受ければどうか。
考えなかったわけではない。三人で考え、三人で首を振った。
自分たちの力不足でメイシアが傷ついたり、死んでしまったとしたら。耐えられない。
だからこうして、パーティからの脱退を強制した。
ギルド会館で声高に言ったのは、またつまらない冒険者がメイシアを利用したりしないように。
彼女を養えるだけの自信がある冒険者なら、きっとメイシアは相応しい仕事ができるに違いない。
「いつか」
「ぜっばい、ま゙だい゙っじょにぼうげんずるぅぅ」
「もう、マギーったら……」
ユミだって同じ気持ち。
今はすごく遠い実力差だけれど、きっといつかメイシアを支えられるだけの冒険者になって。
その時は、本当のパートナーになる。
ユミたちの戦いはまだまだこれからなのだ。
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