1 縁の切れ目
「メイシア、出て行ってくれ」
「な……」
パーティリーダーを務めるサイサンの突然の勧告に、メイシアは頭が真っ白になった。
「なんで、そんな……」
「俺たちのパーティの……お荷物なんだ。重荷なんだよ」
冒険者ギルドの待合ロビーで、向かい合うメイシアとサイサン。サイサンの後ろに立つユミとマギーはメイシアの視線から逃げるように俯く。
四人パーティの中、メイシア以外の三人は同意しているということか。
「なんで……あたし、いつも体張って戦ってるじゃん。昨日だって」
「ああ、そうだな」
「だったらどうして?」
「お前がいなければ、俺たちはもっと上を目指せる」
「あたしが獣人だから……」
メイシアは獣人族の戦士。体力と攻撃に特化した前衛。
騎士のサイサンはメイシアのフォローをしながら指揮を取り、ユミは斥候と投擲武器を使う。マギーは優れた魔法使いだ。
バランスの取れた四人パーティとしてうまくやってきたのに。
獣人の社会的地位は低い。
道具を使うことが苦手な獣人族を見下す人間は多い。
けれど誰より体を張った仕事をしてきたのに。
「あまり言いたくなかったんだが、知りたいなら言うよ」
サイサンがテーブルに紙を広げた。
たくさんの数字が書かれた紙。
「これは?」
「最近の俺たちパーティの収入と支出を計算してみたんだ」
冒険者として仕事の採算を計算した紙。
「これは俺たち全員の報酬。お前の分の金も俺が管理している」
「ああ」
メイシアは計算が得意じゃない。財布などを持って歩くのも邪魔なのでサイサンに預けっぱなしだ。
「今年に入ってから全部の収入がこっち。支払いがその横だ。どうなっている?」
「数字がたくさん?」
「その通り、支払いの数字の方がたくさんだ」
計算が苦手なメイシアだってそれがどういうことかはわかる。
よくないこと。お金が足りない。
「ユミの矢を買う金もないから拾い直して、マギーの魔術杖も折れたのを使っている状況でこれだ」
「知ってるさ。だからあたしが前線で」
「で、その支出の横に書いてあるのが――お前の食費だ」
「?」
なるほど。
そういえばお腹が空いてきた。いきなり追放なんて言われて難しい数字を並べられたのだからお腹が空く。
「どうなっているか、わかるか?」
「うーん、ちょっと少ない?」
「パーティ全体の出費から比べたら、ちょっと少ない。その通りだメイシア」
褒められた。
一緒に組んで冒険者になってから三年。数字が読めなかったメイシアもずいぶんと賢くなった。
「お前の食費が、出費の八割……」
「九割でしょうが」
「マギー、やめなさいってば」
サイサンの言葉にかぶせたマギーをユミが宥めた。
ふんっと顔を逸らすマギー。ああ、周期的に機嫌が悪い時期なのだ。
「すまん……そうだ、メイシア。お前の食費が九割を占めている」
「きゅうわり?」
「あー、ええと。だからだな。一〇〇〇ココの報酬のうち、九〇〇ココはお前の食事代で消えてるってことだ」
「一〇〇ココ残るってこと?」
「ぶっ殺すわよあんた!」
「やめてマギー!」
包帯で巻いて繋いだだけの頼りない魔術杖を振り上げたマギーをユミが抑えながら、ギルド館内にいる他の冒険者や職員に何でもないと頭を下げた。
ここで問題を起こせば冒険者資格はく奪。下手をすれば牢屋行き。
牢屋で食べるご飯はきっとおいしくない。
「言ってしまえばメイシア。俺たちは赤字で、もうお前を食わせていけない」
「……ご、ごはんが……食べられない……?」
「ああ、そうだ」
サイサンがテーブルの上で拳を握り、小刻みに震えながら頭を下げた。
「頼む、出て行ってくれ」
こうしてメイシアは慣れ親しんだパーティから追放され、ついでに一文無しになった。
何も悪いことをしていないのに。
◆ ◇ ◆