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アンラベルオペレーション  作者: 羊野ruth
3/16

chapter.3

 閉まることのない崩れた扉から建物の中に踏み入ると、もとはロビーであったらしい薄暗い広場に出る。久しく使われた形跡のないテーブルがそこかしこに砂にまみれて転がっており、掠れた文字で『TICKET』と書かれた看板も、どこからか落ちて床に張り付いていた。


「ああ!まったくお前らどこに行ってたんだよ!?外でなんかずっとやり合ってるのになかなか帰ってこねえしよぉ!」


 無造作に横たわっていた椅子につまずきながら、騒々しい音を立て、部屋の隅から転がるようにして駆け寄ってきたのはカタルだ。明るい茶色に染めた頭に加え、耳にいくつものピアスを開けた若者で、いかにも軽薄そうな外見を持つ彼だが、大声でまくしたてる姿は一目でひどく怯えていることが分かる。

 そんな彼の様子に、ヨウもアルコも驚く。ここを出発する時、最後に見た彼の印象と、今の様子ではあまりにかけ離れているからだ。


「お前そんなキャラだったっけ……?」

「何が!?わっかんねーよ!」


 ヨウのジャケットに掴みかかってくるカタルの手は震えていた。彼もあの耳鳴りと変化を経験したのだろうか。不安と恐怖心に支配され、完全に冷静さを欠いているようだ。

 ヨウの襟元を握り締めたまま、戻ってきたばかりのヨウとアルコを交互に見比べる。その目にはやはり戸惑いが色濃く映っている。


「そういうお前らも全然違うってか……ああもう!何がどうなってんだよ!」

「カタル、ちょっと落ち着きなよ。あたしたちは仲間なんだから」


「お前たち、何をしている」


 カタルの震える肩にアルコが手を置き、宥めようとしたところ、もうひとつの声が割って入った。それは非常に機械的で、一切の感情を持たずにただ響くのみで、アルコの心配そうな声よりも、カタルの混乱した声よりも聞きなじみがあった。

 アルコと共にここを出発する前、カタルもこのような調子で話をしていた筈なのだが。


「ジンリン、俺たちは今戻ったところだ。カタルが外でやり合っていたって言ってるけど、何かあったのか?」


 アルコに宥められて少し緩んだカタルの手を下ろさせ、声が響いた方へと問いかける。『SCREEN 2』と書かれた入り口から歩み出てきた背の高い女性は、焦点の合わない視線を三人の方へと向け、虚空を見詰めたままヨウの問いに淡々と応じる。


「特別なことは何も起こっていない。他ユニット同士の戦闘がこの近辺で行われていただけだ」


 嘘を吐いている後ろめたさも、真実を伝えているという自負も、何も感じられない声音だ。ジンリンの話し方は、ただ認識している事実をそのまま音声にして、相手に伝達するためだけの無機質な声だった。


「ここに戻ってくるときに、死んだ人が入ってるカプセルを見たの」

「し、死んだ人……!?」


 青ざめた顔でアルコを見るカタルなど眼中にない様子で、問いの発信源に反応するようにして、ジンリンはヨウからアルコに視線を移して答える。黒曜石を思わせる彼女の黒の瞳には、ヨウたちが抱いたような戸惑いや恐怖の色は混じらない。


「分からない。しかし、今し方伝達された情報によれば、それらがコフィンシステムと呼ばれるものだろう」


 彼女から返ってきた答えは意外なものだった。それはこの場で待機していた筈のカタルも同様で、ジンリンに視線を移し素直に疑問を口にした。


「……伝達された?どこから?」

「カタル、あんたジンリンと一緒にいたんじゃないのか?」


 なんで知らないんだ、と言外に伝えれば、ヨウを睨んで噛み付くように言った。


「外にいる奴らがいつ襲ってくるか分かんないだろ!ジンリンが奥で何か調べてる間、俺はこっちで見張り番してたんだよ」

「カタルの言っていることは事実だ。お前たち、三人とも情緒が不安定なようだが、カタルがなぜそうなったのかは分からない」


 身も蓋もなく事実だけを付け加えるジンリンの言葉に、そらみろとでも言いたげにカタルはふんと鼻を鳴らした。その様子をやはり気にすることもなく、ジンリンは続ける。


「情報の発信源は分からないが。SCREEN2のホールへ来い、見れば分かる」


 誘うよう踵を返したジンリンのヒールが、剥き出しとなったコンクリートの上を歩む音が響く。それに従い後にヨウが続けば、アルコに、カタルと続いてくる。




 ロビーよりも更に暗いシアタールームの中へと入っていけば、大きなスクリーンが垂れ下がっている。密に並ぶ座席は、そのほとんどが長らく使われておらず、元の臙脂色が霞む程に埃が降り積もっている。一方で、最前列の座席のいくつかは埃が払われており、そのひとつに先を行っていたジンリンが腰を下ろした。

 暗い室内でスクリーンに煌々と映し出されている文面を見て、ジンリンに続いていた三人が皆それぞれ足を止める。


『以下の内容がアップデートされました。

・中央区域の開放

・一部禁止区域の開放

・アンプルの支給停止

・全区域マップ表示ツールの追加

・コフィンシステムの追加

 対象が致命的な傷を負った時点でコフィンが出現し、内部で冷凍保存され活動終了となる。

・エラーの修正

 いくつかの不具合を修正。』


「通信機器として使えるものがないか探っていたが、その途中、突如ここに表示されたものだ。このアップデート内容の他に、ボックスヤード全域のマップも見れるようになっている」


 スクリーンに釘付けとなっていた意識が、ジンリンの声によって呼び戻される。シートに腰掛けた彼女は手にしたリモコンを操作し、画面を切り替えた。すると、歪な楕円形をした簡素な地図が表示される。

 何によってか、おおよそ八つの区域に分けられた楕円は、一部の区域に加え、外周を囲むように斜線で埋められていると共に、「禁止区域」と記されていた。左下にある赤い点も含め、まるで楕円の中に閉じ込められているような印象を受ける。


「この赤い点が示す地点が我々の現在地ではないか。そこから北西の方角にあるここが、おそらく中央区域」


 禁止区域も含め七つの区域に囲まれるようにして、楕円の中心部に位置する区域があった。一目で中央区域と言う言葉が指すエリアと分かる。そのエリアに斜線はない。

この地図が事実のもので、ジンリンの示す場所が中央区域と言うなら、ここからそう遠くはない筈だ。そこにあるという『扉』の存在をまず確かめるのならば、一刻も早い方がよいのではないか。『扉』を開けるには他を制圧しなければならないと聞いているが、そうしなければならない理由も、『扉』についての詳細も分からないのだ。何より、争いは避けて通れるならその方がいい。

 そう、ヨウが口にしようとした時だった。カタルがスクリーンに視線を遣ったまま、雑に頭を掻きむしりながら先に嘆いた。


「アンプルの支給停止……って、俺たちこれからどうやって生きていくんだよ」


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