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血を操りしモノ  作者: 長月
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父幽玄


そう言った男の右手の爪が見る見るうちに伸び、それが想の喉元に突き刺さる寸前。天窓を突き破り何者かが降りてきた。割れたガラス片が突き刺さり悶える者達の中で月光の中に降り立つ影。

「想。大きな怪我はないか?」

それは父幽玄の姿だった。幽玄は戸惑いながらも首を縦に振る息子の様子を確認し、直ぐに助けると言い自身の腕を爪で切り裂いた。その爪は自分を襲ってきた奴らと同じで自在に伸縮していた。

(まさか父さんはこいつらの仲間?いやでも、助けてくれているし・・・まさかこの前言っていたのは本当の事なのか?そう言えば、あいつら俺の血を舐めていたな。だとするとこいつらが吸血鬼?)

想が思案している間に、幽玄は流れた自身の血を鎌のように変形させる。下腕部に元からあったように同化したそれで幽玄は吸血鬼達に切りかかる。切られた相手は傷口から放射状に広がる光に包まれ消えた。また、離れた相手には鎌の一部を液状に変化させ血を飛ばし、浴びた相手は苦しみながら絶命した。幽玄が想の方を見ると、後ろから吸血鬼が襲い掛かっているのが見え、走り出し回し蹴りを叩きこむ。想の後ろに吸血鬼がいるのを確認した幽玄は、想を驚異的な跳躍力で飛び越え、吸血鬼の胸に蹴りを入れ、着地と同時に喉を鎌で切り裂く。立ち上がり、睨みつけるその姿に吸血鬼達が怯んだのを見た幽玄は血を飛ばし、それを避ける吸血鬼達のその間を幽玄は椅子ごと想を持ち、部屋を飛び出す。

幽玄は玄関前で椅子を下ろし、想の拘束を解き鎌を消し外に出ようと扉に手をかけるが、扉はガタガタと音を立てるだけで開かなかった。

「閉じ込められたか」

幽玄はそう言い手を離すと、想は扉に唯一ついている鍵を回し開けようとするが開かず、何度鍵を回し開けようとしてもガタガタと音が鳴るだけだった。

「無駄だ。恐らく結界を張られているのだろう」

その言葉に想が扉から手を放し、幽玄の方を向くと目の前には数十人の吸血鬼がいた。

「なん・・・だよこれ・・・」

先ほどより何倍もの数の吸血鬼達に、想は恐怖から後退り扉にぶつかる。

「安心しろ。お前は俺が必ず守ってやる。親父の仕事をよく見ておけ」

と幽玄は振り向き、親指を立て笑顔でそう言った。

「さぁて。息子が見ているんだ。相手してやるから、死にたい奴だけかかってこい。」

その言葉に徐々に迫っていた吸血鬼達は走り出し、一斉に襲い掛かる。

幽玄は想に向かい掌を向け、吸血鬼達に向き直りもう片方の腕を切り裂き、掌を合わせる。掌を離すと両手は赤い刃で覆われていた。幽玄はそれを構え、吸血鬼達に立ち向かう。その刃は吸血鬼達の体をいとも容易く切り裂き、まるで研ぎ澄まされた真剣で紙を切るかの如く何の抵抗もなく吸血鬼達の体は両断され、消滅していった。

流石の幽玄も一人では数の力を押さえる事は叶わず、何人かは想に襲い掛かって行きそれを見た幽玄は慌てて声を上げる。

「しまっ・・・」

二人の吸血鬼が鋭利な爪を立て、想の喉元と腹部を狙い、想は咄嗟に両腕で頭を守る。

「ぎゃあぁぁ!」

館内に響く悲鳴。だが、悲鳴を上げたのは想ではなく吸血鬼達の方だった。想はその声に腕を下ろし恐る恐る見てみると、片腕が無くなり腕を押さえ蹲る吸血鬼達の姿だった。

「なんてな。想には防御魔術をかけているから、下手な攻撃したら吹き飛ぶぞ」

そう言い、いつの間にか現れた幽玄は痛みと恐怖で引き攣る吸血鬼達の首を刎ねる。

「言っただろ?お前は必ず守るって」

「はは・・・」

想は安堵からか、それとも目の前で首が飛ばされ消えていく吸血鬼の姿に恐怖したのか、脚の力が抜けへたり込む。幽玄は息子のその姿に優しく微笑み、再び吸血鬼達に向き合う。

「やっぱり数が多いと面倒くさいな。よし、お前らにはとっておきをお見舞いしてやる」

幽玄は両手の刃を解き、足元で消えゆく吸血鬼の心臓を抉り取る。そしてそれを頭上に掲げ握りつぶすと、幽玄の血と混ざった血が放射状に辺りを赤く染める。

「これはお前たちを死へと誘う赤き雨。苦しみの果てに眠れ」

それを浴びた吸血鬼達の悲鳴が館内に響き渡る。それでも一矢報いようと襲い掛かる者は幽玄に蹴り飛ばされる。やがて血の雨が止むと、そこには苦悶の表情を浮かべ絶命した吸血鬼達と、赤く染まった床にただ一人幽玄だけが立っていた。

幽玄はふぅと息を吐き想の方を向き、笑顔で帰るか。と言い歩き出した刹那、幽玄の動きが止まる。突如その周りを血で出来た円が囲み光を放つ。

「くっ、これはまずい。想!母さんと親父にこの事を」

急激にその円は収縮し幽玄ごと消える。

想はその一瞬の出来事に呆然とし、目の前には崩れ落ちていく吸血鬼達の死体が広がっていた。想の脳裏に父との会話が思い浮かぶ。

(お前が選ぶ道がどんなものであれ、俺はお前を応援するからな)

想の頬を一筋の雫が伝う。目の前には先ほどまでの惨状が無かったかのように、死体も血も全て消えていた。

「父さん・・・」


数時間後。家に着いた想は母にただ一言、父は自分を庇って死んだことを伝え自室に入りベッドに倒れ込む。リビングからは泣き崩れる母の声が聞こえたが、どこか他人事のように想は聞こえ、そのまま眠りに落ちた。


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