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血を操りしモノ  作者: 長月
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使い魔契約

翌朝、奏影の案内で人払いの結界が張られた社の中に足を踏み入れる想。

「あれ?奏影は入らないのか?」

「昨日の話から考えると、晴明様は想だけに用があるみたいやし、昨日言った通り俺らはここに晴明様がおられるって事ぐらいしか分からん上に実際あった事があるわけやない。会ってみたいけど、そこはさすがに空気読むで。まぁ、俺はここで待ってるから行って来い想」

分かった、と想は頷き中へと入る。少しすると奏影が扉を閉める音がした。中は照明も無く天井から射す陽光だけが光源だった。突き当りに着くと棚に陰陽図が置かれていた。想は他に何も無いことを確認し、それに手を伸ばすとどこからともなく声が聞こえた。

(お待ちしていましたよ想殿。先日よりも随分と強くなられたようですね。ですが、あなたの悲願を達成するにはまだまだ力が足りないでしょう。約束通り、力をお貸しする前に二つ質問をよろしいですかな?)

「負けたばかりで、強くなったと言われても複雑な気分だな。それで質問はなんだ?」

(先ず一つ目は、その指輪をどこで手に入れたのですかな?)

想は指輪を見つめ、愛おしそうに掌で覆う。

「これは、母さんとじいちゃんの遺品整理していた時に見つけたんだ。着けた方が良いような気がして着けている。でも、これがどちらの物なのか分からない。ひょっとすると父さんの物かもしれない」

(・・・では、次の質問です。私は天地家と石田家の限られた場所しか行き来出来ない身なので、ずっと助けることが出来ません)

「それは仕方ないよ。助言をくれるだけでも、俺にはありがたい事だし」

(それだと、一時的なものでしかないのです。なので、これは提案に近いのですが私を使い魔にする気はありますか?)

「使い魔?それはあなたが魔物化すると?」

(いえ、確かにそう捉えるのも無理はないですが、使役の仕方は恐らく想殿が思っているものとさして変わらず、ただ使い魔が魔物ではないという点だけが違うのかと思います)

少し考え、想は口を開く。

「つまり、契約をして指示通りに動かし、逆らえば何らかの方法で強制出来るという事だと?」

(そうです。理解が早くて助かります)

「・・・あなたの考えが分からない。仮に使い魔になれば、ここから離れる事になる。そうなれば、あなたを信仰している天地・石田両家はどうなるのです?それに俺が日本ではない場所で死んだ時はあなたどうなるのです?そもそも、そこまでして使い魔なんて制約のあるものになるメリットはなんです?」

(優しい方ですね想殿は。私がこの世に留まっている事を知る者は恐らく想殿ぐらいでしょう。その両家も私の系譜に連なる者として崇めているだけでそれ以上でもそれ以下でもありません。したがって、私の存在の有無は重要ではないのです。ですが、気になるのならば石田家の当主に私がいない事を伝えるぐらいでよろしいかと。次に、想殿が異域之鬼となった際はその瞬間に契約は切れ、使い魔は元の場所に戻ると言われています。勿論、想殿が死後の事を契約に入れた場合はそれに準じませんが。そして利点は私自身があなたの力になりたいからです)

「・・・気持は嬉しいけど、そこまでして貰っても俺は何も返せない」

(・・・ふむ。確か、当世ではボランティアと言う無償の奉仕活動があるそうですが、想殿はボランティアを受けて言葉での礼以外に何かを返すのですか?)

「ボランティアで助けられる状態なら、状況にもよるけど他には返せないかも知れないな。・・・分かった。それがあなたの負担にならないと言うのなら、俺の使い魔となり力になってくれ」

(ええ。勿論ですとも。それでは想殿、その指輪を前に出し私の言葉を繰り返してください)

想は、分かったと頷き右手を前に出す。

(我は汝の力を求める者なり)

「我は汝の力を求める者なり」

(我が願いに呼応し共に往かん)

「我が願いに呼応し共に往かん」

指輪が光を放ち出す。

(我が名は早川想。汝、安倍晴明の主である)

「我が名は早川想。汝、安倍晴明の主である」

光は強さを増し辺りを包む。数秒後、ゆっくりと目を開け徐々に焦点が合うと目の前に烏帽子を被った白い着物を着た中性的な顔立ちの者がいた。

「想殿。ここに契約が完了して御座います。これよりこの安倍晴明、あなた様のお力になりましょう」

と晴明は片膝を付く。

「安倍晴明?えっ、何で姿が」

晴明はゆっくりと立ち上がり、微笑みを浮かべる。

「遠慮なく晴明とお呼びください。私が実体化出来るのは、それだけ想殿の力が強いという事です。私自身、こんなにはっきりと実体化出来るとは思っていませんでした。体にだるさなどの不調は感じますか?」

「分かったよ晴明。体は特に変化は感じないな」

「そうですか。不調を感じたらすぐに仰ってくださいね。それにしても想殿は私が思っていた以上の力を秘めていらっしゃるようで」

「力は分からないけれど、何か感じたら言うようにするよ。ところで晴明、どうしてこの指輪の事を聞いたんだ?」

「その指輪には強い魔封じの力が込められており、使い方次第では妖達を強制的に隷従させられる可能性を秘めているからです。勿論、自分よりも弱くないと効果は発揮されませんが」

想は指輪を見て生唾を飲む。

「そんな力がこの指輪に・・・」

「なに、恐れる事はありません。その指輪のおかげで使い魔の案が浮かんだのです。それに普段はその指輪の中に入っていれば、想殿の力を消費する事もありますまい。要は使い方ですぞ」

晴明はそう笑顔で話す。


社を出た想は、外で待つ奏影に事情を説明する。

「晴明様がその指輪の中に?嘘を吐くとは思わんけど、俄かには信じがたい話ではあるな」

「あはは、俺もそう思う」

怪訝な顔の奏影に想は笑いながらそう返す。

「あなたが石田家の現当主ですかな?」

晴明は指輪の中から声だけを発し、奏影はその声に即座に片膝を付き、顔は下を向いていた。

「はっ!石田奏影と申します!」

「事情は想殿から聞いた通りです。私がいなくても何も変わらないとは思いますが、留守は頼みましたよ奏影殿」

「この石田奏影、当主の名に恥じぬよう晴明様の眠るこの地を命懸けで守り通す事を誓います」


その夜、石田家に戻った想は夕食を済ませ部屋で晴明と話す。

「これからだけど、どうすれば良いと思う?」

(そうですな。やはり、戦力強化が優先課題になるかと)

「それは誰でも良いのか?」

(相手が、想殿の使い魔になる事を了承すればですが)

「そうか。それなら、共に戦いたい者がいるんだけどどこに行けばいいのか分からない」

(それは、私の様に過去の人物ですか?それとも今を生きる者?)

「過去の人だな」

(それならば、その者の縁のある地に向かうと良いでしょう。思念が残っていれば対話ぐらいは出来るでしょう。中には思念ごと消えた所謂、成仏をした者もいるのでそこは運ですが)

「なるほど。ところで、俺は晴明とどんな契約をしたんだ?)

(おや?もうとっくに理解しているものかと思っておりましたがまだですか。私との契約内容は、想殿の悲願達成までの力添えです。私から求める物は何もありません。なんせ、私の自己満足みたいなものですからな)

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