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血を操りしモノ  作者: 長月
16/34

石田家

「ん・・・」

目が覚めた想は布団から起き上がり、負けた事を悟る。

(負けたか。体は動かせなかったけれど、意識はあったから分かる。最後、力が入らなくなったのは恐らく毒の類。となると、脇腹を掠めたあの時か。あれだけの力があっても、あの段階で先を見据えての攻撃か・・・完敗だな)

その時、扉が開く音がし想は視線を移す。

「おっ?気ぃついたか。気分はどうや?」

「完敗したのが分かっていっそ、清々しい気分です」

「そうかそうか、落ち込んでないならそれでええ。辛気臭いのはかなわんからな」

奏影は明るくそう返し、持って来た盆を置きコップに水を注ぎ想に渡す。

「ありがとうございます」

「吐き気とかは無いか?正直に答えや?」

「普段と変わらないですね」

(こいつマジか。あの技は人間が受けると即死か、内臓に深いダメージを与えるんやぞ。首の骨といい、まさかそれも治ったんか?)

想は立ち上がろうとするが、ふらつきその場に尻餅をつく。

「あれ?突然めまいと吐き気が・・・すみません。もう少しだけ横になっていても良いですか?」

「かまへんよ。何日でも横になっとき(焦ったー。せやんな、ダメージは残ってるわな。その程度っていうのは驚きやけど、ちゃんと効いてて良かったわ。これですたすた歩かれたら、流石に凹むで)」

「何日もって大袈裟な。多分、数時間程で治りますよ。それより、何か安心した顔してません?」

「気のせいや。心配してるからわざわざ水持って来たんやで?まぁ、ゆっくりしとき。なんかあれば呼んでくれたら、うちのもんが来るさかいな」

「ありがとうございます」

奏影は立ち上がり、部屋を出る。

(数時間で回復?二日酔いやないんやから、それは内臓にダメージが残っとる証拠や。多分、お前が思っとるより症状は重いと思うぞ想)

数時間後、奏影が夕食を食べようと仲間達と共に座っていると後ろから声が聞こえた。

「美味しそうですね。ご一緒しても?」

「かまへんかまへん。飯は大勢でわいわい食うた方が美味・・・い。はぁ!?」

振り向いた奏影は声の主の姿に驚きの声を上げる。

「あれ?やっぱり駄目ですか?」

申し訳なさそうに言う想に奏影は慌てて返す。

「い、いや。別に一緒に食うのはかまへんけど、もう回復したんか?」

「おかげ様で」

「さ、さよか。清々しい笑顔やな。まぁ、適当に座り(んなあほな!なんやそのでたらめな回復力。内臓修復に数時間?いくら吸血鬼の力を有してるとはいえ、あり得へん)」

想の着席を見て奏影はその場にいる門弟達に告げる。

「今座ったそこの少年は、天地流の当主の孫で名前は早川想や。晴明様に会うためにわざわざ来てくれたみたいや」

その言葉に門弟達の視線が好奇心から、敵対心へと変わる。

「因みに、実力はもう見させてもうた。俺が破壊掌を使わざるを得んかったって言うたら意味は分かるな?」

その言葉に門弟達からゴクッと生唾を飲む音が聞こえる。

「それを受けて数時間でピンピンしとるんや。お前らの攻撃なんざ即座に回復されてそのまま反撃くろうて終わりやからな。間違えても対戦しようなんて思うなよ?」

「奏影さんの破壊掌を受けて生きてるだけでも驚きやのに、それを数時間で回復って俄かには信じがたいよな」

そう言い、ざわつく門弟達。

(分かる!当事者の俺が一番驚いとるんや。そら、聞いただけならそう思うわな)

再び視線が想に集中するが、その目は驚き・疑い・恐怖など様々な感情を向ける。

「毒で動けず無防備になったところで受けたので、相当効きましたね」

と笑いながら話す想だが、門弟達は一様に驚き奏影に詰め寄る。

「そ、奏影さん。妖にも滅多に使わない毒攻撃を彼に使ったんですか?」

「せや、妖用のきっついのをな。それでも、使うタイミングがもう少し遅かったら負けてたのは俺や」

その言葉に門弟達は絶句し、固まる。

「ほら、もうええやろ。石みたいに固まっとらんと早よ席に戻り。折角の飯が冷めてまうで」

その言葉に席に戻る門弟達。食事を摂りながらも想は門弟達に質問攻めにあう。

「お前ら、そんなに質問攻めにしたら想が飯を食われへんやろ」

門弟達は口々に想に謝り食事を再開する。想は解放されたことに安堵し、箸を取る。

食後に寛ぐ想の元に門弟達が集まり、再び質問攻めが始まる。

「お前らは街頭に群がる蛾か。想は門弟やなくて客やぞ、もうちょっと遠慮せんかい」

「す、すみません」

「ったく。すまんな想。ところで、明日の事で話があるから疲れてるとこで悪いけどちょっと来てくれるか?」

「い、いえ。皆さんと話せて楽しかったですから大丈夫です。それじゃあ、皆さんおやすみなさい」

と軽く頭を下げ部屋を出る想。

「お前ら、高校卒業したばかりの子にあないに気ぃ使われて、ええ大人が恥ずかしないんか?」

と扉を閉める奏影。


「ここは俺の私室やから、遠慮せんと寛いだって。それより、うちのもんがしつこくて悪かったな」

「いえ、全然しつこくなかったですよ」

「ほんまかー?」

と笑いながら疑いの眼差しで想を見る。

「す、少しだけ」

「あっはっはっは。せやろ?あのしつこさを修行に向けてくれたら、あいつらももうちょっと強くなれんねやけどなぁ」

「それで奏影様。お話というのは?」

「様も敬語もいらん。今回俺が勝ったのはたまたまや、お前があの力を制御出来る状態なら負けてたのは俺やしな。でもまぁ、次の対戦は無いで?俺が負けるからこのまま勝ち越させてもらう」

「勝ち越しは良いですが、敬語も?でも年上で助けて貰う立場でそれは」

「出来ひんねやったら、助けへん」

そう言い、子供の様にそっぽを向く奏影に想は呆気に取られ諦めたように溜息を吐く。

「分かりました。いや、分かったよ奏影」

その言葉に奏影は笑顔で想を見る。

「分かってくれたなら何よりや。ここは実力主義やし、俺は優れたもんに年齢や出自は関係ないと思っとるからな。っと、肝心の話がまだやったな。明日の朝に晴明様の元へと案内するから準備しといて」

「分かった。・・・・って、話ってそれだけ?」

「そうや。あの場所で言うたらまたあいつらがはしゃぎよるからな。それに、俺も聞きたいことや話したいことは山ほどあるんや。先ずはそうやな。それだけの力があって、力を得て何をするんや?手紙には目的のために力を欲してるってぐらいにしか書いてなかったから、詳しくは知らん。せやから教えてもろてええか?」

想は事の顛末と目的を話す。

「・・・そうか。まだ若いのに、えらいもん背負ってもうたな。でも、その馨っちゅう奴を殺すのを躊躇ってるのを見ると、未だ友達と思っとるって事か?」

想は頷く。

「馨にも事情があるんだと思うし、それにあの時のあいつに操られている可能性も・・・」

「なぁ、想。お前、好きなやつはおるんか?」

「はっ?な、なんだよ突然。いないよ」

奏影の突然の質問に驚きながらそう答える。

「なんやおらへんのかいな。それやったら、戦いに行くのに片道切符を持っていくようなもんやで。こいつに会うために帰らなあかん。だから絶対に生きて帰る。その気持ちが無いと死が軽く感じてまう」

「・・・」

想は死んでもやり抜くと思っていたが、その言葉に核心を突かれた気がして言葉が出なかった。

「ほな、大事な人は?すべてが終わって、会いに行きたい人は?」

「それなら、友達や源じいちゃん、奏影にも会いたいしなにより死んだ母さんとじいちゃんに笑顔で報告したい」

「なら、それを最終目標にするんや。ほんで、帰って来たらうちに来い。二人で石田流を大きくしようやないか」

「何言ってるんだよ。どうせ大きくするなら天地流だろ?」

笑いながら返す想。

「あっはっはっは。確かにそうやな。そう言えば、友達って女か?」

「えっ?まぁ、そうだけど男もいるよ」

「男はどうでもええ。ちょっとその子について詳しく聞かせたってんか」

面倒くさい雰囲気を感じ取り、はぐらかそうとする想だが奏影はしつこく食い下がる。

(門弟達に言えないぐらいしつこいじゃないか。でも、帰って来るのが最終目標にするか・・・確かに、命と引き換えにでもって片道切符を握りしめていたな。ありがとう奏影)

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