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血を操りしモノ  作者: 長月
15/34

当主石田奏影


翌朝、石田家当主充ての手紙を受け取った想は見送りに来てくれた皆に挨拶をし、天地家を発つ。新幹線に乗り、昼前に石田家に着いた想はチャイムを鳴らす。

「はい」

「天地源からこちらに来るように言われた早川想です。ご当主に取次願えますか?」

「少々お待ちください」

少しすると、玄関の扉が開かれ中から女性が出てきた。

「お待たせいたしました。当主よりお話は伺っております。こちらへどうぞ」

と案内され向かった先は、少し離れた場所に建てられた道場だった。

「当主が中でお待ちになっております」

と女性は頭を下げ右手で中へと誘う。靴を脱ぎ、一礼して中へ入ると背中を向け正座している人が見えた。

「なんか武道をやってんの?」

男は背を向けたままそう言う。

「いえ、何も。何故でしょう?」

「簡単や。中に入る前に一礼してから入ったやろ?普通はせぇへんで」

(!何故分かったんだ?ずっと背中を)

「背中を向けてたのに何で一礼したのかが分かるか?って所か?」

そう言い、男は立ち上がり振り返る。

「答えは衣擦れの音と、大気の流れや。お前が早川想、天地のじいさんの孫やな?」

「申し遅れました、天地源の孫の早川想です。大気の流れを感じ取れるとは凄いですね。あなたが石田家の当主である石田奏影そうえい様ですか?」

「せや。俺が石田奏影や。そんな堅っ苦しい話し方は疲れるさかい、普通に話してくれてええよ。で?俺は天地のじいさんから孫が来るから話を聞いてくれって言われただけやけど、用件はなんや?」

想は奏影に預かっていた手紙を渡し、鏡源洞での事を話す。

「ふーん。なるほど、ほな一回手合わせしよか」

奏影は手紙を置き、そう言う。

「戦う?何故です?」

その言葉に奏影は笑顔を崩さず答える。

「東ではどうか知らんけど、うちは完全実力主義や。せやから若い俺が当主をやっとる。魑魅魍魎共が跋扈しとるからかも知らんけど、強き者が偉い。これが西の石田流や。って事で、晴明様に会わせられるほどの実力があるんかどうか見させてもらおか」

と、奏影は構える。

「・・・分かりました」

想は目を閉じ短く息を吐き、ゆっくりと瞼を上げると瞳の色が反転しており、奏影を見据える。

(目の色が文字通り変わった。なんやあれ?あれが手紙に書いてた吸血鬼と退魔士の力の融合か)

「行きます」

想は瞬時に距離を詰め、血操で強化した拳を繰り出すがそこに奏影の姿は無く空を切る。

「まぁまぁの速さやな。ほんで?次はどないするん?」

想は後ろにいる奏影に掌を向け赤き球を射出する。

「俺を飲み込めるぐらいの質量をこの一瞬でか、おもろいやんけ」

奏影は袖から数枚の札を取り出し、投げつける。張り付いた札は徐々に燃え広がり燃え尽きる。

(あれから熱を感じひん所を見ると、熱を外に出ぇへんように内包してるか、触れた所だけ急激に温度が上がるのかやな。これは久々に本気出してもええかもな)

奏影は素早く印を結び詠唱する。詠唱が終わったと同時に奏影は赤い球に呑まれる。

(やっぱり液体やったか。どういう原理で熱を生み出したんかは知らんけど、札が着いた瞬間に一瞬波紋が広がったのを見てて良かったわ)

徐々に赤い球は煙を上げ蒸発していく。

(水中で蒸発させられるだけの熱量を生み出すなんて、信じられない。そもそも、退魔士と吸血鬼には相反する力が働くから、影の様に瞬間的にそれを上回る力を出さないと突破出来ないと思っていたのに。どうしてあれほどの強大な力が持続的に発揮出来ているんだ?何か別の力を使っているのか?)

徐々に消えていく赤い球を想は驚きながら見る。

「恐ろしい力やなぁ。死ぬかと思ったわ」

全てを蒸発させ、言葉とは逆に焦りを感じさせない笑顔で奏影は言った。

「ほな、次は俺の番やな」

奏影は高速で印を結び詠唱する。

「久々の出番や。心ゆくまで遊べ」

と、奏影の後ろから純白な虎が現れる。

「召喚?そうか、退魔士以外の力を使ったのか」

「なんの事や?これも退魔士の力の一つやで?ただ、俺のは我流やから正確には違うんかも知らんけどな!」

虎は牙を剥き想に駆け出す。

(召喚が退魔士の力?なら、蒸発させられたのは我流だからか?どちらにせよ脅威に変わりは無いか)

想は剣を作り出し、虎の爪を受け止める。数秒の膠着の後、虎は噛み付こうとするが想はそれと同時に力を抜き、虎の体勢を崩す。その場で一回転し、虎の隙を突き横から切りつける。

「へぇ(体捌きもそうやけど、剣を上手いこと使うとる。けど、虎の瞬発力を舐めたらあかんで)」

振り下ろした体勢の想の首元に噛みつこうと虎は襲い掛かる。想は剣を手放し、咄嗟に左腕を出し首元を守るが、虎の牙は徐々に食い込んでいく。

(ぐっ、攻撃を受けても怯まず距離を取る事もせず、直ぐに攻撃に転じただと?早すぎだ)

「ギブアップかー?今やったらその傷も早よ治んでー」

想は笑い、短剣を作り出し虎の目を突き刺す。

「ギブアップなんてしませんよ」

虎は咆哮を上げ、たまらず距離を取る。突き刺さった短剣は液状化し、虎の血と共に顔を伝い顎からぽたぽたと零れ落ちる。想は手放した剣を拾い穴の開いた腕から流れる血を舐めとる。

(なんやあれ?力が上がっただけやなく、傷口が塞がっていくやと?どんなでたらめな力なんや)

虎は息を乱しながらも、想に駆け寄り爪と牙で攻撃を仕掛ける。

「これ以上の攻撃は無意味です。止めさせてください」

避けながら想は話す。

「たかだか、目を一個潰したぐらいで余裕やな。ほな、これやったらやる気出るか?」

奏影は札を口元に近づけ、高速詠唱をし虎に投げつける。すると、見る見るうちに虎の傷は塞がり全快し、虎の勢いは増す。

「忠告はしましたからね」

そう言い、想が距離を取り右手を向けると虎の動きは止まり次の瞬間、爆散する。

(おもろいやんけ)

奏影が指を鳴らすと、虎の体は一片も残らず燃え尽きる。

「終わりでいいですか?」

「今のはただの前座や。本番はこれからやで」

奏影は高速で印を結び詠唱を唱え、言い終わったと同時に想の前から姿を消し背中を蹴る。

「ぐっ(後ろ?全然見えなかったぞ)」

想は回し蹴りを繰り出すが、空を切り次の瞬間目の前に奏影が笑いながら現れる。

「遅いで」

奏影の拳が想の顔面を捉える。体制を崩した想に奏影は前蹴りを繰り出すが、それを寸での所で避けた想に高速で繰り出される拳が襲い掛かる。

「がはっ」

吹き飛ばされ、息を切らせ奏影を見据える想。

「この程度かいな。白虎を倒した方法はよう分らんけど、まぐれやったんか?晴明様に会いに来たんならこの程度の力じゃ会わされへんで?」

(白虎の何倍も強い。それに回復が間に合わないだけじゃなく、力が落ちていく感じだ。まさか一撃一撃に退魔士の力を?)

「どないした?もう終わりか?殺す気で掛かって来な俺には勝たれへんぞ」

とゆっくりと歩み寄る奏影。

「分かりました。この力はまだ制御出来ていないので、死なないでください」

目を閉じ、力を練り上げる。

(さっきより数段に力が上がっとる。いや、まだ上がりよる。こんな強大な力を制御出来ずに使うとか、あほちゃうか。いや、発破をかけたんは俺か。まぁええ、久々の死合いや。楽しまな損やな)

奏影は高速で印を結び詠唱する。その間に想の髪は徐々に白く染まる。ゆっくりと目を開けた想は奏影を見据える。その爆発的に膨れ上がった力に奏影は崩れた笑みを浮かべ、身震いした次の瞬間。想は瞬時に奏影の眼前に現れ、頬、腹、顎の順に三連撃を加える。

「がはっ!(身体の全てを強化してんのに全く見えんかった。なんやそれ)」

奏影は吹き飛ばされた勢いを利用し、距離を取り印を結び詠唱すると後ろから白虎と燃えるような朱い羽根の巨鳥が現れる。

「この二体は朱雀と白虎。所謂、四神ってやつや。まぁ、俺の力では本物よりも力が劣るこの二体しか使役出来んけどな」

二体は想に向かい、奏影はその隙に再び印を結び詠唱を唱える。

想は鋭い牙を剥き出し襲い来る白虎の顎を蹴り上げ、同時に背後から飛んでくる燃える羽根を血操で作った壁で防ぐ。吹き飛ぶ白虎の影から現れた奏影は剣を振り下ろす。想は蹴り上げた足を勢いよく戻し、その勢いを利用して後ろに飛び避けるが脇腹を切っ先が掠める。

(よっしゃ、後は毒が回ればこっちのもんや)

奏影がそう思った直後、想の回し蹴りが剣を折り、次いで驚く奏影の顔を蹴り上げる。

(あの一瞬でこんなに的確に攻撃出来るとかバケモンか)

その直後、後ろから炎を纏った朱雀が血操の壁を突き破り突進してくる。嘴が想の項に当たる寸前、想の手が嘴を掴み止めていた。朱雀はその腕を蹴るが想は物ともせず、左手を刃の様な鋭利なもので覆い朱雀の首元に振り下ろそうとした瞬間、背後から白虎が想の項に噛みつく。

鼻血を拭き、起き上がった奏影はその光景に目を奪われる。白虎の口からゴキっと鈍い音が聞こえた直後、想の左手が朱雀の首を切り落とすが想の首は真横に倒れていた。想の左手から血操は消え朱雀の首を落した想は、自身に牙を突き立てる白虎の頭を掴み前方に投げ捨て、首を元の位置に戻し白虎の元へと歩き出す。

(んなあほな。首を折られて何事も無く動いとる。目の前の光景が信じられへん)

白虎は駆け出し、咆哮と共に複数の分身を作り出すが想は印を結び、一言「オン」と言うと、分身体は全て消え自身の右下腕に鎌作り出し、振り下ろすとその速度に白虎は反応出来ず両断され霧散する。次に鎌を消し、奏影に掌を向け二つの赤黒い球を放つ。

奏影は二つの球を避け、袖から取り出した札を握りしめ「オン」と言うと瞬時に剣へと変化し想へと切りかかる。

(発動待ちの状態で用意しといて助かったわ。免許皆伝の実力その身で感じ取れや)

奏影は強くなるために剣術を習い、僅か一年で免許皆伝になる程の実力で剣の天才と言われていたが、想は全ての斬撃を指で止めていく。

(あり得へん!この剣は俺が振るえば岩ですら豆腐みたいに切れるんやぞ?それを本気で振るってんのに毛程の傷も付けられへんどころか、指で止めるとか漫画か)

一瞬の隙を突き、想は奏影の鳩尾に蹴りを入れる。

「がはっ」

動きが止まったその瞬間、想の拳が顔面を打ち抜く。吹き飛ばされた奏影は落ちた剣を拾わずにすぐさま立ち上がり、印を結び詠唱する。想は両手に作った小剣を握りしめ走り出す。想の剣が詠唱の終わった直後の奏影を捉えたと思われたが、奏影の姿は揺らめき消える。

直後、後ろからの気配を感じた想は振り返り、剣を構えると奏影はこちらに向かい走って来ていた。想が突きを繰り出そうと構え直したその時、突如手に力が入らなくなり剣を落す。足は震え動く事も出来ず棒立ち同然の状態で奏影が目の前に迫る。

「これが石田流の奥義や」

奏影の掌底が想のがら空きの鳩尾を打つ。衝撃が突き抜け一瞬想の体が浮き上がり、そのまま奏影の体に倒れ込む想。次第に髪の色が元に戻っていくのを見ながら、奏影は想を床に寝かせ横に座り小さく息を吐く。

(危なかったー。俺が作った攻撃を受けた瞬間に相手の背後に移動する身代わりの術がこんな形で役に立つとは思わんかった。効果は後二回。それまでに毒が回らんかったら負けてたで。こっちの攻撃は悉く効かんかったから、最後の攻撃が効いて良かった)

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