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血を操りしモノ  作者: 長月
13/34

鏡源洞

「・・・んっ」

想が目を覚ますと、木目の天井が見えた。

(負けたか。やっぱり強いな。あれは一体どうなっていたんだろう?)

上体を起こしたその時、部屋の襖が開かれる音が聞こえ、そちらを向くと一人の男性が水の入った容器と吸飲みが乗った盆を持って入って来た。

「気分はどうですか?」

「少し、体が痛いぐらいです」

「当主のあの一撃を受けてそれぐらいで済むとは恐れ入りました。あっ、申し遅れました。私、士元しげんと申します。天地流の門弟をしております。先ほどの戦いに心を動かされ、想様のお世話役を名乗り出ました。何なりとお申し付けください。」

「あっ、そう言えば源じいちゃんの九字を相殺した時にちらっと見えました。あんな情けない所を見られて恥ずかしいですね」

想は照れくさそうに頬を掻く。


それから夕食を済ませた想は、源に呼ばれ源の部屋にいた。

「その力を使えるようになってからどれくらい経つ?」

源は茶を啜り、そう問う。

「大体、半年過ぎたぐらいだと思う。どうして?」

「半年であの力か。全く、末恐ろしい才能だな。基礎訓練は毎日欠かさずしている様にも見えるし、このままいけば次期天地流の当主にもなれるな」

「俺は別にそんな」

「分かっている。きっとお前は力を付け、直ぐにでも旅立ちたいのだろう。だが、その力の奥底にある得体の知れない力を制御出来なければお前は負ける。命を狙う相手との負けは即ち死だ。その力を制御するにはお前も気付かない奥底と向き合う事しかないだろう」

「向き合うってどうやって?」

「・・・天地家に代々伝わる一部の者だけが入れる場所がある。そこに行けば短期間で強くなれるが、失敗すれば最悪死が待っている」

「行くよ、そこに。強くなれるなら命も懸けるさ。いや、命を懸けずに手に入れた力だといざという時に発揮出来ない気がするから」

想は迷うことなく答える。

(この子は、決して命を軽んじている訳でもなく、ただそうしないと手に入らない事を理解している。この数か月で何度も死線を超えたからか、それだけ相手の力強大だからなのだろうな。・・・なら、儂も覚悟を決めんとな)

源は想の目を見据え答える。

「分かった。体が治れば向かうとしよう」

「体ならもう大丈夫だよ。だから、明日行こう源じいちゃん」

「明日?待て待て、いくら何でも慌て過ぎだ。しっかりと癒してだな」

「本当にもう治ったよ」

「本当に?」

「本当に」

「あれは一応、儂の全力なんだがもう治ったの?」

「うん」

そう言い、体を動かす想を見て源は衝撃を受け、固まる。

「そう言えば、最後の攻撃は一体どうやったの?」

「あれは幻影を作り出して、横に移動し儂が作った壁を切られた瞬間にお前の後ろに札を投げ、幻影が切られたと同時に後ろに幻影を作り出し、それに反応したがら空きの背中に一撃を入れたんだよ」

「そうだったのか。離れた場所に幻影を作り出せるなんて凄いね」

「離れたと言っても、単純に接地したと同時に現れるようにしただけだが、孫に褒められると嬉しいもんだ」

顔を綻ばせ、茶を啜る源。

(儂の全力が数時間で治るのか・・・もう歳だし衰えたとはいえ、少しショックだな。もう少し鍛錬の量を増やすか)


翌日。天地家秘伝の場所、鏡源洞きょうげんどうと呼ばれる洞窟に着いた二人は、入り口で立ち止まる。

「ここが鏡源洞」

そこは一見ただの洞窟に見えるが、ここに来るまでに三つの魔除けと人払いの結界があった事を考えると、ここはよほど重要な場所なのだと思いながら歩き出す想の背中に源は口を開く。

「想。ここは鏡の源と書いて鏡源洞だ、覚えておけ。そして、必ず帰ってこい」

想は無言で頷き中へと入る。中はこれと言って何もないただの一本道で、光源は無く想は携帯の明かりを頼りに数分ほど歩いた頃、開けた行き止まりに着いた。そこは壁が仄かに光り携帯の明かりが無くても十分に見渡せる場所だった。

(ヒカリゴケか?光源があるのはありがたいけど、何も無いって事は道を間違えたか?でも脇道は無かったように思えるけど)

そう思いながら広場の真ん中まで歩くと、突如目の前の壁から黒い影が現れる。想は咄嗟に身構え影を見る。影は右手に影で出来た剣を作り出し襲い掛かって来る。それを見た想の目の色は反転し、九字を切った後少し後退し血操で剣を作り出す。影は九字を物ともせずそのまま距離を詰め、剣を振り下ろす。

「ぐっ」

想は剣で受け止めるが、その力に少しずつ押される。

(力では向こうの方が上か。それなら)

想は一瞬脱力し、剣を傾けると影の剣は軌道がずれそのまま地面に突き刺さる。その隙に想は横に移動するが、影はすぐさま柄を握り直し剣を支えに想の腹部に蹴りを入れる。想は咄嗟にその勢いを利用し、大きく飛びその場から距離を取った。

(勢いを全部殺せなかった。あいつが柄を握り直すのが見えずに攻撃を繰り出していたら、もろに食らっていたな。九字も効かないし、あいつは強い)

影は剣を引き抜き、想を見た瞬間その姿は消え突如想の目の前に剣を振り上げた状態で現れる。驚く想は咄嗟に血操けっそうで壁を作り出し、後ろに飛び退くが影の斬撃はそれを容易く切り裂き想に迫る。

(何だよその力は)

想は剣を前に出し受け止めようとするが、斬撃はそれすらも両断しその切っ先は想の上半身を斜めに切り裂く。

(くそっ!避けるのがほんの少し遅れていたら今頃・・・)

服の隙間から流れる血を見て生唾を飲む。影は左手を想に向けると、黒い球が掌から射出される。想は横に飛び退き、新たに作った剣を影に振り下ろす。

(左からなら入る)

影は右手に持つ剣で斬撃を受ける。だが無理な体勢で受けたからか、想の剣は少しずつ影の頭との距離を縮めていく。その瞬間、剣は形を変え触手の様に想の剣に巻き付く。

「ぐっ、何だよこれ!くそっ」

引き抜くことが困難だと判断した想は血操を解き、自身の中へと吸収したと同時に影を蹴る。蹴られた影は数歩後退したが、その両手には細身の剣が握られていた。

(自在に変化させられるなんてまるで・・・そうか!鏡の源とはそういう事か。ありがとう源じいちゃん)

想は再び剣を作り出すが、その刀身は仄かな光を放っていた。

「俺の予想通りならお前の弱点はこの退魔の力だ。俺の九字では大したダメージは無かったみたいだけど、凝縮させたこの力ならどうだろうな」

両者は剣を構え、じりじりと距離を詰める。相手の体が攻撃範囲内に入った瞬間、両者は攻撃態勢に入る。影は左右の剣で首と腹を狙い、想は剣を横薙ぐ。両者の剣速は拮抗していたが、僅かに想が上回り影の剣は二本とも両断された。

「自身の身体の一部を影の力で強化する事で、さっきは突然目の前に現れたように見えたんだな。お前の戦い方は勉強になるよ。けど、今は互いの相性の差が出来ているから、簡単にはやられないぞ」

後ろに飛び退く影を想は掌から出した赤い球で狙い撃つ。影は大剣を作り出し、それを両断するが切られた球は瞬時に液状化し、影を飲み込む。数秒後、自身を包む全てを吹き飛ばした影は先程想がいた場所を見るがそこに想の姿は無く、赤く染まった周囲には誰もいなかったが頭上からの気配を感じた影は咄嗟に後ろに飛び退く。その直後、想の斬撃が床を穿つ。

想は影を見据え、剣を握り再び影に迫る。影は左手を想に向け黒い球を作り出すが、その瞬間赤き大剣が影の背中を刺し貫く。影が自身の胸から飛び出ているそれに目を向けたと同時に想の斬撃の気配を感じた影は、慌てて顔を上げるとそこには左手を前に向け、右手には黒い大剣を持った自身の姿が見えた。

「終わったか?」

消えゆく影を見ながら呟く。

(あいつが吹き飛ばした液状化した血操を、一瞬の隙を上手く突いて大剣で刺し貫けたな)

短く息を吐き、出ようと踵を返す。

(これはこれは、何とも珍しい力を持っていらっしゃる。鬼の様で鬼とは違う力と、それを滅する退魔士の力。それらがまるで陰陽の如く見事に混ざり合っているとは、いやはや驚きました)

「誰だ!?」

突如脳裏に聞こえる声に、想は周囲を見渡しながら声を荒げる。

(これは失礼。申し遅れました。私、安倍晴明と申す者。あなたの名前を伺っても?)

「俺の名前は早川想。安倍晴明を名乗る者よ、もしあなたが本当に本人だとするなら、なぜ生きている?そして、なぜここにいる?」

(今の私は魂だけの存在。最早、私の肉体はとうの昔に腐り地へと還りました。そして、なぜ私がここにいるのか?それに関しては何となくとしか言えませんな)

「何となく?なんだその答えは?ふざけているのか?」

(いえいえ、至って真面目に答えております。ですが少々言葉が足りなかったようですな。ここは私の力を引き継いだ者の治める場所。普段は京にいるのですが、何故か今日はここに来た方が良いような気がして遠路はるばるやって来たのです。ですが、それは正解だったようです。想殿、あなたは何のために力を求めるのです?)

「・・・どこまで信じて良いのかは分からないけれど、嘘を言っている感じはしないな。俺が力を求める理由は、母さんとじいちゃんを殺した馨を殺す・・・つもりだった」

(と言うと?)

苦しそうに言葉を紡ぐ想に晴明は優しく柔らかい声色で返す。

「仮に馨を殺したところで、報復が待っている。これだと同じことを繰り返しているだけで、状況は今より悪化するだけだ。でも、強大な力を持つ馨の元に行くには俺はもっと強くならないといけない。理想としては、話し合って馨を止める事だけれど、それが無理なら俺は馨を・・・」

(・・・なるほど、分かりました。では、この地での修業が終われば当主に私の事を聞きなさい。私の場所を知らないまでも、京での訪ね先の住所ぐらいは知っているでしょう。私はあなたの力になるために、ここに来たのだと思います。それでは想殿、京でお待ちしていますよ)

晴明の声は消え、辺りを静寂が包む。想は地面に手を当て自身の血を回収する。

(鏡源洞か。鏡に映った自分の源と戦い打ち勝つ場所。きっと昔は鏡が置いていたんだろうな。それにしても安倍晴明か・・・出たら源じいちゃんに聞いてみよう)

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