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血を操りしモノ  作者: 長月
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別れ


それから月日は流れ、まだ寒さの残る卒業式を一週間後に控えた夕方。想は日課のジョギングから戻り、玄関に入ると家の中に違和感を覚えリビングに急ぐと、そこには惨殺された母と祖父の姿があった。

「母・・・さん?・・・じい・・・ちゃん?」

想はふらふらと二人に近づきその亡骸を抱きしめ、涙を流す。

数分後、犯人の目星が付いている想は二人の血を飲み、静かに立ち上がり歩き出すと、テーブルの上に置かれたメモ用紙が目に入る。それに書かれた文字を読み、想は血濡れた格好のまま家を飛び出した。

(二人の仇は必ず取るから)


そこは馨と最後に会った場所だった。中に入ると馨は踊り場に座っていた。

「久しぶりだな。遅かったじゃないか」

「・・・母さんとじいちゃんを殺したのはお前か?」

「そうだ」

そう言い馨は立ち上がる。その言葉と同時に想は階段を駆け上がり、血操を使い攻撃を仕掛けるが馨はそれを避け、手摺に着地する。

「へぇ。瞬時に目の色を変え、力を使えるようになったんだな」

想は回し蹴りを繰り出すが、それを馨は後ろに飛び退き一階に着地する。その上から、回し蹴りと同時に放った血操が切り落としたシャンデリア落下する。。

「っと危ないなぁ」

と馨が辛うじてそれを避け、想を見上げると想は血操で剣を形作り、それに炎を纏わせ切りかかる。

「くっ」

馨は半身になり何とか避け、咄嗟にシャンデリアの後ろに距離を取る。想が床から剣を引き抜くと小さな灯が床を焦がしていた。想はその剣を馨に投げつけ走り出す。馨はそれを避け、想の動向に警戒する。すると左右から赤き槍が飛んで来るのが見えた。

(二つ同時に投げそれを曲げるだと?俺ですら緩やかに曲げるしか出来ないんだぞ?一体この数か月で何があった?)

馨は槍を両手で掴み、地面に突き刺し上方を見ると、想が繰り出す複数の赤い球が飛んでくるのが見え、後ろに飛び退き着地した瞬間、背中を押されたような衝撃にふらつき後ろを見ると、剣が刺さっているのが見え、胸元を見ると剣が貫いていおり膝を付く。

「ぐふっ。バカな・・・」

それは先ほど想が投げた剣だった。いくら自身から離れた血を操れるとはいえ、遠く離れたそれを体を貫くほどの高速でしかも方向転換させ飛ばすなど考えられない事だった。想は二本の槍を引き抜き投げつける、胸元を押さえながら立つ馨の両足の甲を槍が貫く。

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

想は馨の胸にある剣に手を触れ、吸収した。

「どうして俺の家族を殺した?」

静かに抑揚なく想は問い、馨は薄ら笑いを浮かべ答える

「幽玄を匿い続けたその断罪だ。まぁ、じじいの方が何十年も前に俺に歯向かい追放した奴だとは思わなかったが、どうしてあの国の記憶があるのかを聞くのを忘れたなぁ。お前は知っているか?小僧」

(なんだ?さっきとは雰囲気や声色、全て違う。何が起こっている)

想は馨の中身が変異した事に言葉を失い、一歩後退る。

「くっくっく。なんだ?俺が怖いのか?まぁいい。小僧、貴様はここで死ね」

馨の胸の傷が見る見るうちに塞がっていく。

「ぬぅ。なんだこれは、なぜ抜けん。ぐっ、この力は・・・この体だと分が悪いか・・・仕方ない。小僧命拾いしたな」

馨は槍を引き抜こうと両手で引っ張るがそう言い諦め、右手を想に向けると想の体はシャンデリアごと階段まで吹き飛ばされる。

「がはっ。なん・・だ‥今のは?」

片膝を付き、馨を見ると先ほどまでの雰囲気が消え、元の馨へと戻っていた。一瞬ふらついた馨は右足に刺さった槍に手をかけ、一気に引き抜き痛さで小さく声を上げる。

(どういうことだ?さっきの奴では無理だったのに、元の馨に戻ったら引き抜けた?馨、お前は一体・・・)

「ん?この匂いはまさか!想。この槍はまさか」

「あぁ、母さんの血だ。ここに来た時に付いていた俺の服の血が消えているだろ?」

立ち上がり服を伸ばしながら想は言う。

「ありえない!他人の血を操るなぞ」

「ありえるさ。俺はここに来る前に二人の血を飲んで来たからな。俺は体内に取り込んだ血を操れるんだ。こんな風にな!」

想が人差し指を上向きに曲げると、槍は液状となり槍へと再構築し馨に襲い掛かる。

「くっ」

馨の頬を掠め二本の槍は想の手に収まり消えていった。

「お前が殺した二人の力をもって、お前を殺す」

想は小剣を二本作りだし、馨に投げつけ自身も馨に向かう。休む間もなく襲い来る小剣を紙一重で避け、その隙に想は馨を蹴り飛ばす。

「面白いじゃないか」

馨は細身の剣を作り出し、迫りくる小剣の猛攻をなんとか捌くが、その攻撃にも徐々に慣れて来たのか反撃を繰り出す。

「血を流すことなく血操を使える事にも驚いたし、何より初めて血操をこんな風に使ったが、なかなか良いじゃないか。なぁ想。俺の国に来い。」

順応することで地力の差が出たのか、想は少しずつ押されだしていた。

「家族を殺すやつの元に行くわけが無いだろう」

小剣は折られ、再構築する暇もなく想はもう一本の剣を掴み応戦するも防御で手一杯になっていた。

「逆に考えろ。家族の事を心配せずに離れられるんだ。そう考えると気楽なものだろう?」

想の剣は弾かれ、壁に追い詰められた想の喉元に馨の剣が向けられる。

「一つ聞かせてくれ。さっきお前と入れ替わっていたやつは何者だ?」

「俺と入れ替わっていたやつ?何を言っている。俺はずっとお前と対峙していただろうが」

「なら、お前の足に刺さっていた槍が抜けなかったのは何故だ?」

「さっきから何を言っているんだ?仮に俺以外の誰かが俺の体を使ったとしても、それは俺の力の一つ。たまたまお前の槍とは相性が悪かっただけだろう」

馨の剣の切っ先が想の喉に突き刺さり、一筋の血を流す。

「もう一度聞く。俺の国に来るか、ここで死ぬか選べ」

「行くわけないだろ」

馨の背中に三本の剣が襲い掛かるが馨は一言「そうか」と告げ、舞うように剣を両断し最後に想の首を刎ねた。首が床に転がるのを見て馨は血操を解除し、倒れる想の肩に牙を突き立て血を啜る。

「悲しい味だな」

馨が玄関に向かい歩き出し、数歩進んだ頃体中の血液が逆流し、体中の至る所から血が噴き出し膝を付く。

(なんだ?なにが起こっている?くっ、息が出来ない。このままでは)

「そのまま死ね」

混乱と苦しみの中声のする方を振り向くと、そこには切り飛ばした首が繋がった想が立っていた。だがその姿は先ほどとは違い、髪は白くなっていた。馨がその姿を認識した瞬間、体は爆散し血肉の全ては燃える。想の姿は元に戻り気を失いその場に倒れる。

翌朝目が覚めた想は、壁や床に血痕が飛び散っているのを見て周囲を見渡す。

(これは馨の血か?一体気を失っている間に何があったんだ?いや、そもそも俺は死んだと思ったのだけど、なぜ生きているんだ?・・・まぁ、いいこの血は念のために消しておくか)

想は血を舐め、飛び散った血を集結させ炎で蒸発させる。

(途中からの記憶がないが馨がいないという事は何かがあって撤退したのか?どっちにしろ馨はまだ生きていると思った方が良さそうだな)

想はゆっくりと扉を開け、屋敷を後にした。


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