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第9話 彼女の理由と俺からの答え

「実は私、今上級生の先輩にしつこく交際を迫られてるんだよね。何度も断ってるんだけどなかなか諦めてくれなくってさ。じゃあどうしたら諦めてくれるんだろうって私一生懸命考えたわけ。そしたら思いついたんだ。他に彼氏を作っちゃえば、さすがの先輩も諦めてくれるだろうって」


『で、その相手が俺ってこと?』


「そう」


『でも別に俺じゃなくてもよくない? 識さんモテそうだし、他に男友達だってたくさんいるだろうし』


「そう見える?」


 無条件に首を縦に振る。

 他に答えなんてありはしない。


 だが識さんはこれに答えなかった。

 微かに口元に笑みを浮かべると、話を先に進めた。


「夏木を選んだのは、絶対に裏切らないから。いや、絶対に裏切れないから」


 ごろんと体を反転、覆いかぶさっている状態から添い寝の状態へと体勢を変えると、スマホを取り出して、女装姿の俺を写真に収める。

 シャッターの音はしなかった。

 おそらく無音カメラとか、そういった感じのアプリを使ったのだろう。


「この写真、日時と、そんでもって多分場所までも、しっかりと記録されてるから」


 人質……ってわけか。


 俺は額に手を当てると、強く目を閉じる。


「途中で降りたらばらすから。あと期間限定だって他の誰かに気付かれてもばらすから」


 抜け目ねー。

 あと印象通り嫌なやつじゃないかー。


 俺は溜息をつくと、スマホを操作し返事の文章を打った。

 言わずもがな、承諾の文章を。


『分かった。俺は識さんに協力する。先輩が諦めるまでは、とにかく恋人の振りを続ける。だから今日のことは絶対に秘密でお願いします!』


 返事を確認すると識さんは、「オッケー。じゃあ契約成立だね」と言い俺の手を取った。

 そしてそのまま間髪を容れずにベッドから飛び出すと、カーテンを払いのけ、まだ女子たちが着替えている魅惑の園へと飛び出した。


「りりこ先生」


 扉の前に立っているりりこ先生へと話しかける。


「小笠原さんだいぶ体調よくなったっぽいんで、私途中まで送ってきますね」


「え? あ、はい。じゃあ、よろしく頼むわね。といいますかあなたたちって、仲よかったんですね」


「そうなんですよー。うちら実はズッ友なんです」


 演技なのか証明のためなのか、識さんが前からぎゅーっと抱きつき、俺の頬にすりすりしてきた。


「あらあらまあまあ」


 俺の理性は死亡した。

 ぷすぷす――

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