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第6話 女装姿で女子身体測定に侵入してしまった俺は、そこでベッドという名のサンクチュアリにたどり着く

「ちょっと明美! あんたまた胸が大きくなったんじゃない?」


 ――無心……無心……無我の境地。


「結衣超肌綺麗じゃん! 触ってもいい?」


「きゃっ、ちょっとやめてよ! くすぐったい!」


 ――なむあみほうれんだーらなんとかなんたらー……。


「優香下着エロすぎじゃない!? ほんとこの子エロいわー」


「えーこれぐらい普通だよー」


 ――…………。


「ムダ毛どうしてる?」


「え? てきとーかなー」


「ちょっと見せてよ。下の……」


「ちょっ! だめ!」


 ――無理!

 無理無理無理!

 無心とか年頃の男子には酷すぎる!

 俺悟りの境地とか啓いてないから!


 つか、どうしてこんなにいい匂いがするんだ?

 保健室ってもっと薬臭かったはずだぞ。

 ここは何だ?

 お花畑か?

 天国か?

 あるいは……。


 頭がぼーっとしてきた俺は、気が付けば足元にあったカゴに足を引っかけていた。


 い、いてえ……。


 またもや盛大に転んでしまう俺。

 立ち上がろうと床に手をついたその時、ふわりと俺の頭上を何かが覆った。


 何だろうと手に取ると、それは女子の制服だった。

 どうやら今しがた引っかけたカゴは、脱いだ制服を入れておくためのカゴであったようだ。


 しかしあれだな。

 なんかこれ、まだ生温かいぞ。

 ……まさか、ぬ、脱ぎたて?


「あ、あのー……」


 はい?


 すぐそばにいた女の子が、恥ずかしそうな声音で俺に言った。

 彼女は体操着で前を隠し、震える手で俺から何かを取ろうとしている。


「それ、返してください!」


 それ?

 それって何だ?

 制服?

 ……いや、そういえばさっきから、俺の手の中に……。


 手を開くと、そこには何かふわふわした布の塊があった。

 そしてそれは俺の手の動きに合わせ、まるで朝日に開く花びらのように、ゆっくりと広がった。


 女の子のパンツ!?

 しかもやはり生温かい!


 ど、どどど、どーしてこんなもーのがー??


 きょどりまくる俺からパンツを奪うと、彼女は顔を真っ赤にし、聞いてもいないのに説明を始めた。


「体重……少しでも減らしたかったから」


 女子の体重に対する執念、マジパネェっすわ!


 色々トラブルはあったが、ようやく魅惑の園を抜けた俺は、身体測定を進める保健の先生のもとへとなんとかたどり着くことに成功した。

 あとは薬か何かをもらいこの場から退室すれば終了だ。


 俺は体調不良を伝えるため、保健の先生の背後へと、慎重な足取りで回り込む――


 えっ?


 とっさに目を伏せる。


 い、いいい、今のって……。


 手に持たれたメジャー。

 服をまくり上げる女子生徒。

 そう、世に言う胸囲測定である。


 も、もうだめだ……。

 今ので俺は限界を向かえてしまった。


 一歩二歩と後ろに下がると、背中に冷たい壁がぶち当たる。

 八方塞がり、四面楚歌、絶体絶命。


 もうこのまま座り込んでしまおうか。

 もうこのまま目を閉じてしまおうか。


 そんな極限状態の俺の目に映ったのは、希望の光――天井から垂れる、白くたなびくカーテンであった。


 ベッドか!


 心の中で叫ぶと、俺はそれが意味するところを熟考した。


 保健室などにある医療用ベッドは四方がカーテンに囲われていることが多い。

 つまりはあそここそが唯一のシェルター。

 心的攻撃から身を守る、絶対のサンクチュアリ。


 気が付けば俺は、ふらふらした足取りでベッドへと向かっていた。

 そしてたどり着くとしっかりカーテンを閉め、まるで恐怖から身を隠す小動物のように、制服姿のまま布団の中に潜り込んだ。


 ブレザーにしわがつくかもしれない。

 スカートのプリーツが乱れるかもしれない。

 一華には悪いが、今はそんなものに構っている余裕はない!


 数分後、少し落ち着いた俺は、布団から出ると周囲の音に耳を傾けた。


 まだ身体測定は続いているようだが……大丈夫だ。

 このままここにいて、人がいなくなった時点で気分がよくなったと言い帰宅すればいい。

 あと十数分ここにいれば、ことなきを得る。


 だがそんな思いとは裏腹に、事態は思わぬ方向へと転がってゆく。

 突然、何者かにより、しゃーっとカーテンが開けられたのだ。

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