第43話 オフ会に参加したら、いわゆる直結厨だらけで、いきなり幼馴染の貞操がピンチなんですが
一華がファミレスに入っていってから大体五分ほどが経過。
そろそろいいだろうと思った俺たちは、あくまでも別グループという装いで店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。三名様でよろしいですか?」
「はい、三人です」
「ではご案内いたします。こちらへどうぞ」
「あ、いえ、あの……」
俺は店内を見回す。
――いた。窓側、西校の制服、一華。
瞬時に見極めると、俺は指をさして言う。
「あっちの席でいいですか? 窓側の」
「あ、はい。大丈夫ですよ。ではご案内いたします」
席に着くと、俺たちはとりあえずドリンクバーを注文してから、状況の把握に乗り出した。
参加人数は一華を含めて八人。
テーブルを引っ付けて、大人数で座れるようにしている。
俺たちとオフ会メンバーの間には仕切りのための磨りガラスがあるが、声は聞こえるし、廊下側に顔を出せばぎりぎり一華の様子も確認できるので問題ない。
ただ……。
「ていうか、一華以外全員男だよな?」
「ほんとじゃん」
ちらちら視線を送りながらも、識さんが応える。
「しかももっとぱっとしないキモオタ野郎かと思ったら、なんかチャラそうなやつとかいるし」
「なっつんさんとかいうのは女の子だって言ってたけど、きてないのか?」
「どうせネカマだったんっしょ? キモ」
「いや、ネカマだったらそもそもオフ会に誘わねーだろ」
ちょうど俺たちの疑問に答えるようにして、主催者と思われる男が声を上げた。
「えーちなみになっつんさんですが、急病でこられなくなったそうです。ついさっき、本人から連絡がありました。残念ですが、次回ということで」
一華はポケットからスマホを取り出すと、しばらく操作してから見るからに肩を落とした。
どうやら一華にも連絡はいっていたようだが、気付かなかったらしい。
なっつんさんに会いたいからということで今日この場に参加したのに、当の本人がきていないとなれば、一華の目的の大半は既に失われてしまったといっても過言ではないだろう。
となると、あとはゲームの会話だが……。
「ねえねえ、ハナさんって今高校何年生? あ、ちょっと待って、当てるから」
一華の隣に座る、チャラい男が言った。
ちなみにハナさんというのは一華のことのようだ。
こういう場だと、アカウント名で呼び合うのが礼儀なのだろうか?
「一年生でしょ? すっごく幼く見えるし」
一華は頷いて返事をする。
「マジかー。俺も去年まで高校生だったわー。なんか既に超なついんですがー」
「ていうかマジでリアルJKがくるとは思わんかったから、意外すぎなんだけど」
キョロ充っぽい男がにやにやしながら話に入ってくる。
「それなー。つかなっつんさんもハナさんと同い年ぐらいらしいじゃん? マジ拝みたかったわー」
「あーちょっと期待してたんだけどね」
「つかハナさんって彼氏とかいる? いや、深い意味とか全然なくって、ただ気になるっつーか」
「あー気になるね。今の高校生は色々早いとか言うし」
……ていうか、全然全くゲームの話なんかしてねーじゃねーか!
これ完全に出会い厨の集まりですよね!?
やれやれと首を振ると、俺は識さんに言った。
「これどうすんの? ていうか聞いてて不快なんだけど。あいつら大学生だろ? 大学生ってばかなの?」
「女の子もくるっぽいって聞いたから、私賛成したけど、これはねー……」
「あのー」
一之瀬さんがスマホを取り出しながら口を開く。
「警察に電話してもいいかしら? 下劣な男が、無垢で可憐な女子高校生をナンパしているって」
「ちょっちょっちょっちょっ、一之瀬さん落ち着いて」
「落ち着けるわけがないでしょ! 一華さんが、今まさに穢されそうになっているのよ!」
「いや、まあ、別に特別ってことはないっしょ」
頬杖をついた識さんが、ストローでジュースを飲みながら言う。
「うちらの知り合いでも、バイト先の大学生と付き合ってるって人結構いるし」
「なっ!?」
マジで? 一軍のギャル、まじパネェわ。
「ちょっと識さん、その方のお名前教えていただけるかしら? 明日にでも即刻除名しますわ」
「は? 教えるわけないじゃん? つかそんなんで除名してたらうちの学校生徒いなくなるよ?」
予想外にもこちらが険悪な雰囲気になってきた。
とりあえず話を一華に戻さなければ。
俺は二人に話しかけた。
「ちょっとあれ見てよ。あのチャラ男、ついに一華にボディタッチを始めやがったぞ」
「なんですって!?」
テーブルをはたく一之瀬さん。
「いちいちキレんなし!」とキレながら声を荒らげる識さん。
「お客様! お静かに願います!」と注意される俺たち。
一華に話題を戻しても、一向に険悪な雰囲気が払拭されない。
されないどころかむしろ激しくなってる!?
そんな喧騒をよそに、キャラ男がさらに一華へと詰め寄る。
「あれー? よく見るとハナちゃんって超可愛くね?」
首を振ると、一華は赤面してうつむく。
「いや、髪で顔隠れてて気付かんかったけど、マジで可愛いって」
そして図々しくも一華の髪をかき上げる。
「ポテンシャルヤバすぎ。原石っていうの? 感動だわー」
――げ、限界だ。
もうこれ以上は看過できない。
しかしどうする?
いきなり割り入って無理にでも引っ張っていくか?
でもゲーム内の関係もあるだろうし、早計な行動は控えるべきか?
そうだ。とりあえず一華にメールを送って、席を立つように促してみよう。
一華自身が自発的に帰宅する方が、まだましなはずだ。
俺はスマホを取り出すと、文章を打とうと画面を開いた。
「あれ? 小笠原さんだよね?」
耳に入ってきたのは、聞き覚えのある声――そう、俺の友達でありクラスメイトの、純の声だ。
とっさに顔を上げると、案の定そこには純の姿があった。
「どうしてこんな所にいんの? あ、えーと、そちらは……」
「純、どうした? 知り合いでもいたか?」
遠くから響く西校生の声。
そのままこっちへときそうな勢いだ。
一華一人に対して男が七人。
事情を知らない人が見れば、あるいは年上の男をはべらせる清純系ビッチに見えるかもしれない。
「昨日ファミレスでさー……」みたいな感じで、一華の悪い噂が広がるのは、おそらく当然の成り行きだろう。
純一人ならなんとか説明できる。
今手を打たないと……。
「あれって京矢の友達だよね?」
険しい顔をした識さんが、早口で聞いた。
「ああ、そうだ。名前は純。ちょっとやばいな」
「私に任せて」
言うと同時に、識さんは席を立った。
「あれ!? 純じゃん! ぐうぜんーっ!」
「え? ええと、識さん? 何で……」
突然現れた学校一の美少女、識さんに、当然純は驚いた顔をする。
「え、なになに? 皆きてるん? 合流しよまい!」
識さんは純の肩に手を乗せると、そのまま西校生がいるだろう方へと向かい無理やり引っ張っていった。
――セ ツ メ イ シ ト ク カ ラ。
去り際にした九回の目のぱちぱちは、きっとこのようなメッセージだったに違いない。
純の登場もあり、なんだか微妙な雰囲気になったオフ会は、その後めでたく一華への干渉も減り、数十分後には無事解散となった。




