第41話 夏の制服は、美少女を神の領域にまで昇華させる、SSRの期間限定激レアアイテム
帰りのホームルームは、おそらくどの生徒にとっても胸躍る瞬間だろう。
かったるい授業から解放されて、束の間の自由を手に入れることができる、そんな輝かしい時間帯であるわけだから。
だが残念ながら俺は違う。
いやむしろこれからが本番といっても過言ではない。
運動部並みに厳格な、生徒会の活動が待っているのだから。
「つか三組ホームルーム長すぎ。私超待ったんだけど」
一華と共に教室から出ると、そこには夏服に衣替えをした識さんが、壁にもたれるようにして待っていた。
ボタンの開いた半袖シャツに、緩められた胸元のリボン。
短すぎるスカートからはすらっとした健康的な生脚が伸びているのだが……正直に言えばもう少しだけ控えていただきたいというのが男子諸君の総意だろう。
目のやり場に困ってしまうから。
茶色に染められた髪も、太陽に輝くハートのピアスも、露出の増えた識さんの格好にとてもよくマッチしている。
対する一華はというと……。
「あれ? どうして小笠原さんカーディガンなんて羽織ってるん? スカートも中途半端に長いし」
「あの……私、寒がりだから」
「そんなこと言ってー、ただ恥ずかしいだけっしょ? ほれほれ脱いでみー。素材は抜群にいいんだからさ」
カーディガンへと手を伸ばした識さんが、脱がそうとぐいぐい引っ張る。
「い、いや……」
「ほれほれーほれほれほれー」
「や、やめ、やめ……」
「せっかくの夏服、見せないともったいないって」
「ううん。あ……あの、私……」
「私?」
「は、恥ずかしい……から」
なんだ。やっぱり恥ずかしいんじゃあないか。
ほどなくして、危機を察した一華が、袖をつかむようにして俺の背後に隠れた。
「ところで一華、どうしてまた生徒会にいってもいいなんて言い出したんだ? あんなに嫌がってたのに」
生徒会室に向かう途中で、俺は一華に聞いた。
「だって……京矢が一人でもいくって言うから」
「ん? 俺が生徒会にいくことが、一華のいく理由にはならないだろ?」
「だって、だってだって、あんな密室に、二人とか……」
「まあ確かに二人とか、作業量的に厳しいのはあるけど」
「ちがっ……まあ、いいけど」
なぜか膨れる一華。
首を傾げると、次に俺は識さんへと同じ質問をした。
「識さんはどうして? 放課後とか忙しそうじゃん? ほら、いつも一緒にいるグループと、付き合いとかもあるだろうし」
「だから……分かるっしょ?」
心なしか識さんも膨れる。
そしてぐっと俺の耳元に口を寄せると、ぞわぞわするような囁き声で言った。
「それに……約束したじゃん。小笠原さんに友達ができるよう協力するって」
「お、おう。確かに言った。なんて言うか……ありがとう」
「どういたしまして」
にかっと笑みを浮かべると、識さんは後ずさるようにしてゆっくり俺から離れた。
――一華が思いもよらぬことを言い出したのは、生徒会の仕事が終わりまったりタイムに突入した、そんな時であった。
「きょ、京矢に相談……あるんだけど」
「相談? 何だよ、急に改まって」
「え、えーとね、そのね、実はね……」
「え? なになに? 相談なら私も乗るし」
椅子にもたれかかりスマホをいじっていた識さんが、身を乗り出すようにして話に入ってきた。
「あ、う……京矢に相談、だから……」
「なに水臭いこと言ってんの? うちらもう友達じゃん? 何でも話し合える仲っしょ?」
「と、とも……友達……」
赤面して、恥ずかしそうに肩をすくめた一華が、脚の上でもじもじ指を絡める。
おや? 意外とまんざらでもないのかな?
一華が識さんと初めて言葉を交わしてから大体二週間。
もしかしたら少しずつではあるが慣れてきているのかもしれない。
……これはいい傾向だ。
「相談なら、私も乗るわよ」
お盆に人数分の紅茶を持った一之瀬さんが、こちらに歩み寄りながら言った。
「だって私も、一華さんとは、お、おおお、お友達なんですから」
「亜里沙はいい。……友達、違う」
ずごーんとした顔で膝を折ると、その後に「ありさ……ふふっ、呼び捨て……」と一人でぶつぶつ呟き、ゆがんだ笑みを浮かべた。
多分一華は蔑むために『さん』をなくして、ばかにするためにわざと下の名前で呼んだのだろうけど……完全にご褒美になっていますよ。色んな意味で。
「で、相談って一体何なんだ?」
話を戻すために、俺は今一度聞いた。
「うん。あのね……オフ会に、出てみようかなって思って」




