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第32話 俺の幼馴染は、教室にいても、やっぱりゲームの世界に引きこもる

 次の日の朝、俺は教室に入ると後ろのロッカーに自分の鞄をしまい、そのまま一華の席へと向かった。

 もちろん一華とは一緒に登校をし一緒に教室に入ったのだが……彼女はもう既にゲーム機を手に自分の世界に閉じこもってしまっている。


「なあ一華、せめて学校にいる時ぐらいはゲームするのやめたらどうだ?」


「何で? 別にいいじゃん」


 顔を上げると、一華は上目遣いで俺を見た。


 相変わらず髪はぼさぼさで、頭頂には跳ねるように寝癖が立っている。

 今は制服だからそれなりの格好にはなっているが、私服だとどうなっちゃうんだろうこの子……。


「何でって、よくないだろ? やっぱり同級生とおしゃべりするのが健全っていうか、普通だと思うし」


「じゃあ、大丈夫」


「大丈夫? 何が?」


「だって……だってだって、私には……」


 肩をすくめると、なぜか一華は視線を逸らす。


「京矢……いるから」


「え? あ、うん。俺は、いるぞ。……ていうか、そういうことじゃなくってだな」


 なんだか調子を狂わされた俺は、ぼりぼり頭をかいた。


「おはよ」


 こちらにやってきた純が、軽く手を上げながら言った。


「おお純、おはよう」


「小笠原さんもおはよ」


 一華にも挨拶する。


「!? …………」


 しかし一華は、いつも通り身体を強張らせうつむいてしまう。


 純とは何度も顔を合わせているはずだが、どうやらまだ挨拶すらできないらしい。


 はははと苦笑いを浮かべると、純は用件を口にした。


「京矢にお客さんきてるぞ」


「お客さん?」


 サムズアップで示された方向に視線を送ると、そこには識さんの姿があった。


 彼女は扉の枠に手を添え、早くこいとでも言うように手招きをしている。


「俺ちょっといってくるわ。純、一華のこと頼んだぞ」


「へ!? え? ちょっ……ま……まって……ま……」


 俺の発言に、一華は泣きそうな顔であたふたと手を伸ばす。


 話を振られた純は、困ったように俺と一華を交互に見ていた。


「識さんおはよう。朝からどうしたの?」


「あ、いや、ちょっとね」


 言いにくそうに前置きすると、識さんは後ろに流すように髪をすいた。

 まだ新しい日の光に綺麗な茶髪が麗しく輝き、彼女特有の甘い柑橘系の香りが宙に舞った。


「ちょっと、何?」


 続きを促すため、俺は識さんの言葉尻を復唱する。


「昨日帰る時、一之瀬さん今日は終わりだって言ってたよね?」


「うん、言ってた。それが?」


「テニス部の友達から聞いたんだけど、一之瀬さん、昨日あの後、どうやら各部活を回って部長への聞き取りみたいなことをしてたみたいだよ。何だっけ? 部活動活動実績報告書? みたいのを作るために」


「え? つまりあの後まだ生徒会の仕事があったってわけ?」


 首肯すると口を開く。


「結構遅くまで残ってたっぽいよ。暗くなっても、まだ生徒会室の電気ついてたみたいだし」


「何で俺たちに言ってくれなかったんだ? 分担すれば、もっと早くに終わっただろ」


「知らないけど……」


 不安そうな顔をすると、識さんは提案するように言った。


「ちょっと今から生徒会室いってみない? なんか私、一之瀬さんのこと心配なんだけど」


「そうだな……いってみよう」


 承諾すると俺は、識さんと二人で生徒会室へと向かった。

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