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第31話 もしかしたら生徒会は、現代社会に残る、奴隷制の余波なのかもしれない

 翌日の放課後、教室の前にて待ち合わせた俺たち三人は、その足で生徒会室へと向かった。


 今まで気にもしなかったが、どうやら生徒会室は南棟の二階部分にあるようだ。

 この辺りは職員室や校長室など、いわゆる学校の主要機関が集まる厳かな場所であるため、普段ほとんどの生徒は足を運ぶことはない。


 生徒会室の前に着くと、俺は「失礼します」と言い扉を開けた。


一華いちかさん! ようこそ生徒会室へ!」


 入室するや否や、一之瀬いちのせさんが駆け寄ってきた。


 当然一華は、怯えたように俺の背後に隠れる。


「あら、夏木なつきくん、いたのね。こなくてもよかったのに」


 こ、こいつ……。


 俺は苦笑いでやり過ごすと、鞄から入会届を取り出し、一之瀬さんに渡した。


 一華としきさんも同様に入会届を差し出す。


 受け取ると彼女は、書類に不備等がないかを確かめるため、その場で一度ざっと目を通した。


「大丈夫みたいね。確かに受け取ったわ」


 入会届を所定の場所にしまうと、一人ひとりに視線を送る。


「これであなたたちも、今日から生徒会の一員よ」


 そして手を差し出し握手を交わした。


 まずは一華。

 両手でしっかりとつかみ身を寄せる。

 やたらに時間が長い。

 そのまま抱き寄せるんじゃないかとひやひやする。


 次に識さん。

 片手でつかみ、互いに目を見て頷き合っている。

 フォーマルな握手だ。


 最後に俺。

 一之瀬さんは嫌悪の眼差しを向けると、そのまま俺の手をはたいた。


「――ちょっ、酷くね!?」


「私が穢らわしい男と握手するわけがないじゃない。立場をわきまえなさい」


 はいはい分かりましたよー。


 俺はふてくされて近くのパイプ椅子に腰を下ろすと、部屋の様子を確かめるため視線を巡らせた。


 壁に沿って並ぶ棚、積み上げられた書類、整然と並ぶ備品の数々。

 幾多にある引き出し、そして床に置かれたダンボールには、中に何が入っているのか誰が見ても分かるように、メモ書きされた付箋が几帳面に貼られている。


「結構、整理が行き届いてるんだな」


 何気なく、俺は言った。


「一人って聞いたから、てっきりめちゃくちゃかと思ったんだけど」


「当たり前じゃない。正確な仕事をするには、整った環境が必要なの」


 へー。

 性格はちょっとアレだけど、しっかりしてるんだな。

 こっちに関しては印象通りか。


 一華と識さんが席に着いたところで、上座に立った一之瀬さんが話し始めた。


「今日のところは初回ということで、簡単なミーティングをするわね。まずは生徒会の存在意義だけれど、これはもう学校側と生徒の橋渡し的存在といって差し支えないわ。学校側の決定を受け、生徒たちに反映する。生徒たちの意見を拾い上げ、学校側に交渉する、そんな感じよ」


 ほう……つまり中間管理職ってことっすか?

 うちの父さん中間管理職なんだけど、『中間管理職はマジで辛いわー』とかいつも愚痴ってるんですが、それは……。


「具体的な仕事の内容だけれど……全部よ」


「全部? それってどういうことなん?」


 識さんが聞いた。


「学校側から回ってきた作業を、なんでもかんでも全てこなすということよ。例えば会議の資料作成を頼まれれば、アーカイブされてる過去の類似資料に当たり、なんとかかんとか作り上げる。教育委員会に提出する報告書等の校正作業を頼まれれば、辞書を片手に赤ペンを走らせる」


「え? そんなこと生徒にやらせるのかよ」


 思わず俺は声を上げる。


「てっきり俺は、延々とホッチキスをカチカチやり続けたり、会議ごっこをして何かをやった気分になったりと、そんな感じだと思ってたんだが」


「何よそれ? そんな組織に意味があるの?」


 いや、ないですが……。


 いらぬことを口走ったと察した俺は、その場に顔を落とし黙り込む。


 一之瀬さんは続けた。


「他にも色々あるわ。教材・備品の発注。領収書の管理・保管。経費の清算業務。来客応対と日時調整。学校設備の保全・補修。外部業者の手配・打ち合わせ。PTA総会など、会議のリハーサル、及び本番。保護者からのクレーム対応。年功行事における各種手配・運営。外向きの活動においての外部機関への交渉・手配。部活動予算配分決定見積書作成のための、内部調査及び部長への聞き取り。入学希望者勧誘のための、中学校への宣伝活動、及び根回し。それから……」


「ちょっ、ちょっと待った!」


 多すぎて、これ以上聞いても仕方ないと思った俺は、とっさに一之瀬さんを遮った。


「さっきから聞いてると、なんか生徒会の仕事じゃなさげなものも入ってた気がするんだけど。例えば領収書云々って、どちらかといえば経理課の仕事だろ?」


「経理課でもするわよ。でも生徒会でもするの。つまりその仕事が学校側に属しているか生徒側に属しているか、その線引きで仕事が割り振られるの」


「ば、ばかな……」


「ばかみたいでしょ? でも誰かがやらないといけないの。学校のために……生徒たちのために」


「つかさー」


 テーブルに肘をついた識さんが、神妙な面持ちで言った。


「一之瀬さんは今まで、それを全部一人でやってたわけ? 普通に考えて無理じゃない? 放課後だけで終わるもんなん?」


「だから……」


「だから?」


 俺は首を傾げる。


「だから休み時間を全て生徒会の仕事に当ててるのよ」


 ――は?

 今なんて言った?


 視界に映る一之瀬さんの顔が、わずかに霞む。

 と同時に先日純の言った言葉が蘇ってくる。


『休み時間になると一人どこかへいってしまうらしく、一之瀬さんが他の誰かと話しているところを誰も見たことがないんだってさ』


 何だよ、そういうことかよ。


 そんな行動を取る一之瀬さんを、皆は不審がっているようだけど……なんてことはない。

 全ては皆のためだったんじゃないか。


 確かに自分の勝手で男子の成員を全員排除したのは一之瀬さんに非があるかもしれないが、それを差し引いても彼女の行いは賞賛されてしかるべきだろう。


 同じようなことを思ったのか、先ほどから息を潜めていた一華が、おずおずした様子で口を開いた。


「す、凄い。一之瀬さん……ほんとに凄い」


「一華さん!」


 感激したのか、目を輝かせた一之瀬さんが、一華の手をぎゅっと握り締める。


「ありがとう! 本当に嬉しいわ!」


「――っ!? あ、あの……その……。きょうや~」


 泣きそうな顔で俺へと助けを求める一華。


 やれやれと首を振ると、俺は一之瀬さんをなだめるためにも、質問の言葉を口にした。


「で、俺らの割り当ては? 生徒会ってなんか色々役職があるんだろ? 生徒会長補佐とか、あと書記とか」


「そうね、当面は皆私のサポートをしてもらうわ。適性を見極めてから、後日役職を割り当てるといった具合に」


「そんな感じね。了解」


「あ、あと最後にもう一つ」


 テーブルに置かれていた手帳を手に取ると、一之瀬さんはぱらぱらとめくり言う。


「今週末の金曜日の放課後、あけておいてもらえるかしら?」


「放課後? 何かあるの?」


「水泳部からプール清掃の依頼がきたの。来月にはプール開きだから、そのためね。大丈夫よ。もう水は張ってあるし、あとは通路とか水道とかその辺りの清掃のみだから、そんなにハードじゃないわ」


 ハードとかそういう問題じゃなくて、そんなことまで生徒会がやるのかよ……。


 げんなりすると俺は、ポケットからスマホを取り出しスケジュール帳に予定を打ち込んだ。


【タイトル:プール清掃 場所:校内プール 開始:6/28 16:00 終了:18:00】


「じゃあ今日のところはこれで終わりね。帰宅してもらって構わないわ」


 席を立つと、一之瀬さんは出入り口へと向かい扉を開ける。


「私これから顧問の所へ人員補充完了の報告にいくから。本格的な活動は明日からということで」


 俺たちも席を立つと、そのまま生徒会室を後にした。

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