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第3話 追試のあとに身体測定があるとかって、一体全体どういうことでしょうか

 なんとか答案用紙を埋めた俺は、ペンを置くとその場に脱力した。


 点数は大体七十点前後といったところだろうか。

 なんといっても現文の苦手な一華の答案だ。

 これぐらいの点数でちょうどいいだろう。


 俺は自分の仕事ぶりに満足しつつも、気が付けば頬にかかる邪魔な髪をしゅっしゅしゅっしゅと何度も何度も払っていた。


「ちょっとあなた!」


 突然のりりこ先生の怒声に、俺は思わず肩を跳ね上げる。


「あなたよあなた!」


 りりこ先生は続けると、教壇から下り、力強い歩調でこちらへと向かいやってきた。


 ――え!? 俺!?

 まさか……まさかまさかまさか、今ので女装がばれた??


 人生オワタ……と絶望的な気分になる俺をよそに、りりこ先生はすぐ脇を素通り、背後にある教室出入り口の前にて立ち止まった。


「ちょっとあなた、ここで何をしているんですか? 今は追試の最中ですよ?」


「分かっています」


「分かっているならどうして」


「新聞部の取材です。追試の様子の撮影にきました」


 追試の取材って……新聞部、やりたい放題だな。


 触らぬ神に祟りなし。

 俺は両肘をつきうつむくと、存在感を消すためその場に息を殺した。


 試験が終了を迎えたのは、それから間もなくであった。


 緊張の糸が切れたのか、皆どこか朗らかな表情を浮かべているように見える。

 だがこれだけは言える。

 この中で一番この瞬間を待ち望んだのは他でもない俺であると。

 最も歓喜しているのは替え玉をやり抜いたこの俺であると。


 さて、メッキが剥がれないうちにさっさと家に帰ってこの煩わしい女装を脱ぎ捨てるかな。

 そしてこんなお願いをした一華に言ってやるんだ。

 ねちねちと不平不満の数々を。


 だが、そんな俺の思いも、りりこ先生により発せられた次の発言により、無残にも打ち砕かれてしまう。


「では男子は下校してください。女子はこのまま保健室の方へと移動し、先日プリントにてお知らせしました身体測定を受けてもらいます」


 ――え!? はい!? 身体測定?


 俺は口に手を当てると、定まらない視線を宙に漂わせつつも、つい先日のことを思い出した。


 そういえば女子にだけ配られたプリントがあったな。

 あれは今日この日の身体測定のお知らせだったのか。

 つか一華のやつ、完全に忘れてやがったな。


「追試のない人たちはもう先にやっていますので、急いでください。違うクラスでも構いませんので、着いたら後ろから順に受けちゃってください」


 何の配慮なのか、うちの学校は男子と女子、違う日に身体測定が設けられている。

 今までは特に気にすることはなかったが、まさかこんな形で弊害が訪れるとは……さすがの俺も予想できなかった。


 ぞろぞろと教室から出ていく生徒たち。

 当然女子生徒たちは保健室の方へと進んでゆく。

 もちろん保健室にいくわけにはいかない。

 つまり俺の選択はこうだ。


 ――逃げるぞ!

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