表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/220

第21話 突然ニセカノからキスをされたんだけれども、どうしてそれを見た幼馴染が機嫌を悪くするのだろうか

 絶対にばらしてはいけないという約束を破り、あまつさえ最後の説得も失敗してしまった。


 ――契約不履行。


 現代文追試の替え玉、そして女子身体測定への侵入、これらを学校側に報告されても、俺は何一つ文句は言えない。

 おそらくそれ相応の処分を受けることになるだろう。


 停学か……あるいは退学か。


 たとえ退学にならなかったとしても、その後普通に学校生活を送れるとは到底思えない。


「日和はまだ誰とも付き合ってない。まだファーストキスもしていない。だったら諦められるわけがねえ。俺は中学の時からずっと日和のことが好きだったんだ。好きって気持ちは、絶対に誰にも負けない!」


 山田先輩の言葉を背景に聞きながら、俺は強く目を閉じ考えた。

 せめて識さんだけでもなんとかできないか、と。



 ――?



 先ほどまで沈黙していた教室に、ざわざわというざわめきが起こった。



 ――え?



 いや、ざわめきというレベルではない。喧騒だ。

 きゃーっという、黄色い声も上がっている。


 何だろうと目を開けると、そこにはゆっくり離れていく識さんの顔があった。

 遅れてやってきたのは唇に残る甘く柔らかな感触。


 ――え? ええ? えええ!?


 思い当たった事実に俺は、全身から一気に汗が吹き出す。


 まさか、まさかまさかまさか……識さんが、あの学校一の美少女が、この俺にキスをした??


「こういうことだから」


 もじもじした識さんが、俺と山田先輩を交互に見ながら言った。


「確かに私たちは付き合ってないけど、私が京矢のことを一方的に好きで、他の誰かが入り込む余地なんて、全然全くないから」


 識さんの公開告白に、生徒たちのボルテージが最高潮を迎えたのは、言うまでもない。


 うおおおぉぉぉ――――やりやがったあああぁぁぁ――! と叫ぶ男子。


 きゃあああぁぁぁ――――超きゅんきゅんしちゃうんですけど――! と手を取り合いぴょんぴょんする女子。


 山田先輩はというと、がっくり肩を落としシャツの袖を目に当てている。


 決定打を見せつけられた彼は、涙を呑んで撤退するしかないだろう。


 案の定彼は、何も言わず踵を返すと、悲愴感漂う足取りでそのまま教室から出ていった。


 えーと……この後俺は、一体どうすればいんすかね?


 すぐそばには、どこか落ち着かない様子の識さんがいる。


 とりあえず何か言わないとな。


 俺は識さんへと向き直ると、やっとの思いでからからに乾いた口を開いた。


「あ、あの、なんて言うか俺……今ちょっと状況を上手く理解できないっていうか……」


 すると識さんは、すーっと手を伸ばし俺の口に指を当てると、小さく首を振った。


 俺の目をのぞき込む識さん。


 識さんの目を見つめる俺。


 なるほど……そういうことか。

 これも識さんの作戦なんだ。

 平たく言えば、偽りの恋の延長戦なんだ。


 何も言うな、というその眼差しは、よけいなことを言ってせっかくの成果を台無しにするなという、無言のうちの訴えに違いない。


 俺は識さんから一歩退くと、理解したことを伝えるため、その場で一度だけ首肯した。


「放課後は、一緒に帰れないから」


 うんと言い頷く。


「じゃあ私、いくね」


 予鈴と同時に識さんは、半ば駆けるように教室から出ていった。


 遠巻きに見ていた野次馬たちも、皆各々の席へと戻ってゆく。


 俺も自分の席に戻るため、椅子を元の位置に戻すと、急いで弁当を片付けた。


「一華、お前も早くゲーム機しまえよ。先生きたら取り上げられるぞ」


 ――!?


 ぎょっとした。

 リスのように頬を膨らませた一華の顔が、すぐそばにあったからだ。


 どういうわけか目に涙をためており、握った手をぷるぷる震わせている。


「おい一華、どうした? 大丈夫か?」


「べ、別にぃ……」


「怖かったのか?」


「ち、違うし……」


「悪いな、巻き込んじゃって」


 撫でようと、俺は一華の頭に手を伸ばす。


 しかし一華はそれをはたくと、強く目を閉じ、叫ぶように言った。


「わ、私は! 京矢のこと好きじゃないし! ていうか嫌いだし!」


 ――な、何を言い出すんじゃこいつわ!?


「ちょっ、一華、ここ教室。皆いるから……」


「嫌い! 嫌い嫌い! 京矢なんか大っ嫌い!」


 そしてぷいっと顔を逸らすと、まるでふてくされたようにそのまま机に突っ伏した。


 山田先輩には胸倉をつかまれるわ、識さんには修正不可能な誤解を植え付けられるわ、一華からはなぜか嫌われるわ……何なんだよ! 踏んだり蹴ったりもいいとこだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ