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第20話 ニセカノのことを本気でかばったら、実質公開告白になってしまい、いちやく俺は時の人となる

「何だそれは? 俺は日和ひよりとキスをしてみろって言ったんだぞ? できないってことは、やっぱり付き合ってるってのは嘘ってことだな? そうなんだな!?」


「はい、俺はしきさんと付き合っていません。あれは全て嘘です」


 俺は素直に認めた。


 偽りの恋愛ではこれ以上押し通すことができなくなってしまったのだから、あとは識さんの気持ちをできるだけ真摯に話し、山田先輩の心に訴えかけるしかない。


 つまりはこれが、俺の切り札だ。


 俺の言葉に山田先輩は、にやりとした笑みを浮かべた。


 当然識さんはというと、作戦が完全に破綻してしまったものだから、落胆に肩を落としている。


 一華いちかにいたってはよく分からないが、どこかほっとしたような顔で胸に手を当てている。


 恋愛経験ゼロに戻った俺が、そんなに嬉しいのかよ……。

 人の不幸は蜜の味! みたいな?


「やっぱりな! おかしいと思ったぜ!」


 声を上げた山田先輩が、ゆっくり識さんへと近づく。


「日和、いこうぜ。どんな理由があったかは知らんけど、もうこいつとかかわらなくていいんだ」


「ちょっと待ってください」


 とっさに俺は、識さんと山田先輩の間に割り入る。


「彼女ではありませんが、識さんは俺にとって大切な友達です」


「あ? 何言い出すんだ? 急に」


「ここ数日ですが、識さんと出会い、二人で出かけ、言葉を交わし、色々なことが分かってきました」


「だから一体何の話を……」


 腕を伸ばし俺を除けようとする。


 その腕が俺に届くか届かないかといったところで、俺は声高々に言った。


「識さんはとても優しい人だと! その見た目に反し、とても温かい心を持っていると!」


「…………」


 腕を止めた山田先輩が、数瞬俺の目を見つめた。

 そして俺の言わんとするところを察したように、まるで話の続きを促すように、ゆっくり腕を下ろした。


 それからの数分間は俺だけの独擅場だった。


 待ち合わせに遅れた識さんが、実は横断に困っていたおばあさんを助けていたこと、そして一華に友達がいないことを伝えたら、俺以上に気持ちを察し、無言のうちに気にかけてくれたこと等、いかに識さんが優しいのかを懇切丁寧に並べ立てた。


「口で言うのは簡単です。しかしいざ現場に直面したなら、実際に行動に移せる人はどれだけいるでしょうか? しかも識さんはこれらの事実を、一切俺に話しませんでした。寝坊したとか適当な言い訳でごまかし、全くひけらかさなかったんです。これはもう完全に、誰かによく見られたいという承認欲求からではなく、ただただ人を助けたい、支えてあげたいという、どこまでも献身的な、愛に満ちた行動に他なりません!」


 ここまで言ってしまったんだ。

 もう全てぶちまけてしまえ!


 俺は力強く前に踏み出すと、山田先輩を見上げ、続けざまに説得の言葉を口にした。


「正直に言えば、初め識さんを見た時は、ギャルなのかな? やんちゃなのかな? と思いました。多分他の多くの生徒も、いわゆるスクールカースト一軍に属する彼女のことを、どこか畏怖の念と共に見ていると思います。でもそんなのはただの見た目です。単なる印象です! 顔がいいだけだとかおしゃれなだけだとかは、識さんのことを何も分かっていない浅はかなやつらが吐く、くっだらない戯言でしかありません。識さんのよさは、本当に尊い部分は、全部ここに」


 こぶしで自分の胸を打つ。


「詰まってるんですよ。俺は恋人云々ではなく識さんのことが好きです。尊敬に値する人物だとそう思っています」


 言い切ると、俺は小さく息をはき、ゆっくり顔を下ろした。


京矢きょうや……」


 呟くように言う、識さんの声が聞こえた。


「あんた……私のこと……」


 目が潤んでいる?

 顔が赤い?

 そうですよね……ごめんなさい。

 こんなこと人前で言われたら恥ずかしいですよね。

 でも全部全部本当のことだから。

 できれば他の人にも知ってほしいと、そう思っちゃったから。


「で、何が言いたいんだ?」


 そのままの格好で、山田先輩が聞いた。

 先ほどよりも、少しだけ声の調子を落として。


「つまり、山田先輩が識さんに惚れたのはとてもよく分かるということです。中学からの付き合いなんですよね? それは結構長い関係といえるでしょう。であれば識さんのよさを、この中の誰より分かっているはずです」


 山田先輩が頷いて返事をする。


 確認すると俺は、伝われという思いで、最後に次のように言った。


「識さんは何よりも人のことが好きです。誰も傷つけたくないんです。そのためならば自分の信念さえも、時に折ってしまえるぐらいに」


 言葉を受け、一歩二歩と後ずさる山田先輩。


 俺は息を呑んで、そんな彼を見守った。


「だ、だけど……」


 伝われ。


「でも……」


 頼むから察してくれ。


「俺は……」


 今の俺には、これ以上はっきり言うことはできない。


「やっぱり諦めるなんてできねえ!」


 ………………だめか。


 山田先輩の答えに、俺は力なく目を伏せ、その場に肩を落とした。

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