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第2話 いざ替え玉で定期考査に臨んだはいいが、やっぱり女装が気になって仕方がない

「時間です。始めてください」


 教壇に立つ教師のかけ声により、現文の追試が始まった。

 教室内には答案用紙を返す音、そして氏名を記入するペンの音が一斉に響き渡る。

 俺こと夏木京矢も、そんな追試を受ける哀れな生徒の一人であった。


 ――ただしとある女の子、小笠原一華の、『替え玉』として、ではあるが……。


 幾分長すぎる黒髪、赤いリボンのついたブレザーの制服、プリーツのスカートに黒のニーソ。

 一見女の子にしか見えないその人物こそが、何を隠そう現在の俺の姿だ。

 自分で言うのもなんだが、完璧に女装できているといって差し支えないだろう。


 俺は深呼吸をすると、ペンを取り、例に漏れず氏名の欄から記入を始めた。


 1年3組14番 夏木京矢


 いかんいかん! ついいつもの癖で自分の名前を書いてしまった。

 これじゃあ試験の替え玉が即バレじゃないか。


 俺は入念に消しゴムをかけ文字を消すと、新たに別の人物、つまりは女装姿本人の名前を書き込む。


 1年3組3番 小笠原一華


 よし、これでオッケーだ。

 あとはできすぎず、できなさすぎずのちょうどいいぐらいで解答欄を埋め、帰宅すればミッション終了だ。

 幸い俺は、現文が得意ときている。


 しかしそんな思いとは裏腹に、試験は順調にはいかなかった。


 別に問題が難しいとかそういうわけではない。

 単に女装からくるある種の不快感が、問題への集中を妨げるのだ。


 ……き、気になる!


 長いウィッグを触りながら、俺は思う。


 額にかかる髪が気になる!

 頬に触れる髪が気になる!

 目の前に垂れる髪が気になる!

 とにかく長い髪が気になって仕方がねえっ!

 もしかして焦りから脂汗でも出てんのか?

 肌に引っ付いてくる感じが超うざいんですが!

 つか女子共はよくこんなのに耐えられるな。

 俺が女だったら、まず間違いなく衝動で丸坊主にしちゃうね。


「小笠原さん」


 気になるといえばあとこれ! スカート!

 何これ? 変態なの? 妙にスースーするし、はいてない感じでエロすぎなんだけど!


「あのー小笠原さん」


 あ、でもこれ、久しぶりにトランクスをはいた時に感じるあれに似てるかも。あれ? パンツはいたっけ? っていうあれに。

 ……つか誰か呼ばれてるぞ。

 早く返事しろよな。


「ちょっと小笠原さん!」


 ――はっ! 小笠原って、今の俺のことじゃねーか!


 顔を上げると、そこには試験監督であり、また俺のクラスの担任でもある教師、りりこ先生の姿があった。


 ふわっとした内巻きカールにビジネスライクな女性用スーツ。

 童顔であるため一見分からないかもしれないが、こう見えても立派なアラウンドサーティーだ。


 何か言わなければと思った俺はとっさに口を開く


「っ――」


 ――が、すかさず両手で覆った。


 あ、あっぶねー。

 見た目はごまかせているが、声までは変えられない。

 今返事をしていたら完全にアウトだった。


 俺はけほけほ咳をすると、女の子らしく小首を傾げ、りりこ先生に応えた。


「先ほどから妙に落ち着きがないようですが、どうかしましたか?」


 首を横に振る。他にやりようがない。


「……そうですか」


 上から下へと、りりこ先生が舐めるように俺を見る。

 おそらくカンニング等の不正行為がないかを疑っているのだろう。


 ちょっ、そんなにまじまじ見られたら、女装がばれ……。


 だらだらと腋の下を伝う冷や汗。

 ばくばくと早鐘を打つ心臓。


 圧倒的な緊迫の後に、ようやくりりこ先生が教壇へと戻っていった。


 あ、あぶなかった。

 よく考えたら定期考査の替え玉って普通に重罪だよな。

 ばれたら無期限の謹慎か、あるいは停学か……。


 とにかくこの試験を乗り切るんだ。

 そうすれば一華との約束を果たせる。

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