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第182話 真夜中のカーニバル2-27

 ところで、くじはあと何個あるんだ?


 気になった俺は、ソファに座ると、識さんにより差し出されたコーラをぐびぐびと飲みながらも、頭の中で整理してみる。


 まず、俺が書いた罰ゲームは三つだ。


・牛乳一気飲み

・手をつなぐ(一時間)

・丸一日猫耳メイド(語尾は「にゃん」か「にゃあ」)


 これらはもうすでに全部出たから、俺の書いたくじはもうない。

 次に分かっているのは、一番初めに書いた上田さんの罰ゲーム。


・次映画を再生して、登場人物が一番初めにしたことと同じことをする

・風呂で背中を流す

・キスをする


 次の映画をーと、キス云々は、もう出ているので、残るくじは二番目の風呂で背中を流すのみだ。

 というか背中を流すって……俺にとってはむしろご褒美じゃね? 流すのも流されるのも。だって俺以外は全員美少女しかいないわけだしさ。

 俺次わざと叫んじゃおっかな。割とマジで。

 あとは……そうだ。識さんが書いた三つも、もう全部分かっているよな。


・大好きな一華と恋人

・異性の誰かと、朝まで二人で添い寝

・異性の誰かに、朝までに十回好きと言う(本気っぽく。一気言いは厳禁)


 うん。こんな感じだ。間違いない。

 ん? 三つ目は……。


 ここで俺は思い当たる。上田さんが手で数字を作っていたのは、一華に対して俺が好きと言った回数だったと。


 なるほどそういうことか。あまりの幸せな気持ちに、そんなことすっかり忘れていたよ。

 だってそうだろ? 口にしなくても、身体から溢れ出す情熱のそれが、一華への愛を決定的に語っているのだから。

 これで、合計九つか。

 四人がそれぞれ三つずつ書いているから、全部で罰ゲームは十二個。

 あれ? ということは、あとは一華のみじゃないか?

 一華が書いた罰ゲームで、現在分かっているのは、確か二つ。


・ブラッシング

・あーん


 三つ目はまだ出ていないし、なにが書かれているのかも分からない。

 まあ、こんな感じか。

 ざっとまとめてみよう。


 残りのくじは残り二つ。

 一つは上田さんが書いた『風呂で背中を流す』と分かっているが、もう一方の一華が書いたくじについては、未だ不明。


 とはいえ、一華が書いた罰ゲームだ。おそらくはなでなでするとか、一緒にゲームをするとか、なんかそんな微笑ましい感じの罰ゲームに違いない。

 背中を流すが実質ご褒美なので……このゲーム、俺にとってはもう終わったといっても過言ではないな。

 それはそうとして……。


 今までの罰ゲームをまとめていて、一つふと気になったことがあったので、一華に聞いてみる。


「ところで一華」

「ふえ?」

「罰ゲームでブラッシングをした時に、お前急いでトイレに駆け込んだよな。あれってなにをしにいったんだ?」

「そ、そそそ、それは……」


 太ももに手を挟んだ一華が、もじもじと体を左右に動かす。


「き……聞かないでっ」

「お、おう」


 あれ? その答え方、逆に意味深じゃね?


***


 数カ月後――と、黒地に白の文字が浮かぶ。

 スクリーンには、今までの鬱屈とした雰囲気が、まるでなにかの夢であったかのように、青い空、白い雲、そして山肌に揺れる草木が、映し出されている。

 ハイキングだろうか。軽く登山用の装備を身に着けた二人の女性が、雑談をしながらも山を下ってくる。

 二人は木陰に腰を下ろすと、水筒を手に取り、一方はぐびぐびと、もう一方はおしとやかに、喉の奥へと流し込む。

 そろそろいこうかと、腰を上げたその時、背後に、大きなナタを持った男が現れる。

 悲鳴を上げる間もなく、首を切り落とされる女性。

 もう一方はとっさに走り出すが、すぐに捕まり、クロロホルムを湿らせた布を口に当てられて、眠ってしまう。

 ヒゲが顔を覆い、すっかりと風貌が変わってしまってはいるが、その男は……ハナの恋人、つまりは主人公だった。

 男はニヤリと不敵な笑みを浮かべて、枯れた声で言う。


『あっちはいらない。お前は合ってそうだ。ハナの器に。ハナの体に……』


***


「そろそろか……」


 ……え? 今上田さん、なにか――


「ウワアアアア! コレハ、ダメ、ナノダアアア。コワイ、ノダアアアア」


 うわあ……。これはひどい。超ヘタ。超棒。識さんよりも演技が下手だ。


「ええと……わざとだよね?」

「わざと? 夏木京矢は、一体なにを言っている?」

「いや、今の場面、別にそんなに怖くなかったし、というか叫び方がガチでわざとらしかったし」


 はあと溜息をつくと、上田さんが手を広げて、アメリカ人みたいにやれやれと首を横に振る。……いや、アメリカ人がそんな風に首を振るのかは知らんけど。


「夏木京矢は視野が狭いのう。人が物事のなにに対して、またどこに対して、恐怖心を抱くかは、人それぞれであろう。叫び方にしてもそうだ。恐怖に直面して、典型的な叫びを上げてしまう者もいれば、逆に無言になる者だっている。普通に声を出す者もいれば、パニックに陥り、片言になってしまう者だって、あるいはいるやもしれぬ。違うか?」

「違わないけれど……」


 声の上げ方はどうあれ、叫び声を上げた人が、その後すぐに冷静に分析なんてできないと思うのですが、それは……。


「……まあ、いいです。くじを引いてください」

「それでいいのだ。それで」


 上田さんはくじの袋に割り箸を突っ込むと、二つのうちの一つをつまみ、持ち上げる。

 ――が、取りこぼしたのか、袋から手を出す寸前で、一度動きを止める。


「取りにくいかにゃ?」


 腰を上げた識さんが、そっと、袋の下を手で支える。


「いや。問題ない」

「袋は私が持ってるにゃ。その方が引きやすいにゃ」

「すまぬな。というか貴様、メイドが板についてきたのではないか?」

「もったいないお言葉ですにゃ」


 くじを取り出すと上田さんは、まるで絡んだ糸をほぐすかのようにして、顔の前で広げる。


 残るくじは二つ。

 一つは上田さんの書いた、風呂で背中を流すやつ。

 もう一つは一華の書いた、多分ほわんほわんとしたかわいいやつ。

 さあ……どっちだ!?


 ――風呂で背中を流す

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