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第181話 真夜中のカーニバル2-26

「一華――」


 急いで駆け寄ると、俺は一華の肩に腕を回す。


 一華も俺へと腕を回すと、胸に顔を埋めて、ぐりぐりと押しつける。


「頑張ったな。偉いぞ。本当に偉い」


「ううう……きょうや~……」


「どうした?」


 胸から顔を上げると、涙に潤んだ目で俺を見る。


「わ、わわわ、私……奪われちゃった……」


「なにを?」


「初めてとか……大切ななにか」


「大丈夫だ」


 頭をなでなでする。


「だ……大丈夫?」


「相手は上田さんだ。美少女だ。穢らわしい男じゃあないから、ノーカンだ。むしろ与えられたといっても過言じゃあない」


「そ、そう……なの?」


 幼子のように首を傾げて、まるで答えを求めるように顔を近づける。


 汗の、匂いがした。

 俺の嫁一華と、女神上田さんの、二人の美少女の汗が混ざった、典雅のごとく麗しい汗の匂いが。


 俺はテントの存在に気づかれぬように一華を若干引き離すと、頷いてから答える。


「そうだ。きっと遠い未来に思い出すさ。十代のあの頃、上田さんと甘い行為をしたなあと。過去を慈しみ、心を温めるには、もってこいの思い出だろ?」


「う、うん……そう、かも」


「さあ、席に戻ろう。さっさとこのゲームを、終わらせてしまおうぜ」


 立ち上がろうとした俺を、一華が袖をちょんとつまみ、止める。


「ん? どうした?」


「あの……あのあの……」


「なに?」


 もう一度腰を下ろすと、俺は一華の目をのぞき込む。


 一華は俺と視線を交わしたあとに、「うう」と、恥ずかしそうな声を漏らしてから、頬を朱色に染めて肩をすくめる。


「……ぅ……きぃ……ん……して」


「え? なに? 聞こえない」


「だから……その……あの……」


「うん」


「上書き保存……して」


 上書き保存?

 上書き保存って、既存データを、変更したデータに置き換える、あれだよな。


 既存データを、変更したデータに置き換える?


 つまり俺が一華になんらかの行為をして、古い行為を打ち消す?


 それって――


「セックスか!?」


「違う!」


 顔を真っ赤にした一華が、両手で俺を突き放すようにぐいぐいと押す。


「ひゃっ、百歩譲っても、そこはキスでしょ!! セ、セセセ、セッ……なんて!」


「ごめん間違えた。キスなのか? でもお前、キスは……って、さっき」


「キ、キスでもない!」


「じゃあ上書き保存って、一体なんだよ」


「だ、だから……」


 顔を落として、前で手をもじもじする。


「い……言って」


「言う?」


「だから……私のこと……」


「ああ、そういうことか。当然すぎて、気づかなかった」


「と、当然……ふへ」


 長い前髪で隠れた顔に、にへらとした陰気な笑みが浮かぶ。


 だが、それがいいんだ。


 一華の本当のかわいさを知っているからこそ分かる、俺だけの愛着なんだ。


「じゃあいくぞ」


「う、うん」


「一華」


「う、うん」


「好きだぞ。本当に、大好きだ」


「はう……う」


 一華は拝むように前で手を握りしめると、目をばってんにして、顔を真っ赤にする。


「も、もう一回」


「ああ」


 俺は一華の頭を撫でて、軽く前髪を払ってから、ぐっと顔を近づけて、言う。


「一華、好きだぞ。一生、お前を守るから」


 興奮に頭がショートしたのか、ピヨったようにふらふらしてから、そのまま俺にもたれかかってくる。


「きょ……きょーやー」


 はあはあと息を切らした一華が、俺の服の胸の辺りを、両手でぎゅっとつかむ。


「す、好き。私も……京矢好き」



 あああああああああああ! 幸せだ!

 俺は今超幸せを感じている!


 愛だ!


 人にとっての真実心からの幸せは、愛する人と相思相愛になることなんだ!


 あああああああああああああ!

 あああああああああああああああああいあいあいあいあいああああ愛ああああああいあいあいああああっ!



 ふと上田さんを見るが、もう彼女は手でなんらかの数字を作っていなかった。


 なにかは分からないが、数えるのをやめたようだ。


 まあ、どうでもいいのだけれど。


 だってこの世界は、愛が全てなのだから。


 愛が、世界を救うんだ。


 愛は、地球を救うんだ。


 ……あれ?

 途端に嘘くさくなったぞ。

 じゃあこうしよう。

 愛の持つ力を信じて……おうふ。

 いかん。よけいに胡散臭くなってしまった。

 だったらこれならどうだ?

 愛は安心・安全な…………。


 やめとこう。

 これ以上はやめとこう。

 ともすればディープ・ステイトに、殺られるかもしれないから。


「うらやましいにゃー」


 突然の猫語に、驚いて顔を向けると、すぐ目の前にレイプ目の識さんの姿があった。


「うわあ! 識さん……いたんだ」


「いたにゃ。だって……」


 視線を落とす。


 つられて俺も視線を落とすと、そこにはしっかりと繋がれた手がある。


「罰ゲームは、まだ終わっていにゃいから」


 わ、忘れていたー――


 ということは、今の一華とのやり取りも、超至近距離で見られていたということかー。


 恥ずかしい。

 いや、見られたい。

 いやいや恥ずかしい。


「さあそろそろ戻るにゃ」


 識さんが、繋いだ手を引いて俺を立ち上がらせる。


 立ち上がると俺は、一華へと手をやり、同じように立ち上がらせる。


「きょ、京矢……ありがと」


「あ、ああ」

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