第16話 俺にニセカノができてから、幼馴染の機嫌が妙に悪いのは、一体なぜだろうか
週が明け月曜日。
気だるい午前の授業が終わり、ようやく昼休みの時間がやってきた。
友達同士で席を合わせ持参した弁当を広げる者、部活があるからとそそくさと教室を後にする者、はたまたイヤホンを耳に突っ込みぼっち飯に興じる者と、皆思い思いに時を過ごしている。
例に漏れず俺も、すいた腹を満たすため、弁当を手に窓際最後尾、一華の席へと向かった。
「一華、飯食おうぜ」
前の席があいていたため、椅子だけを拝借し窓に背を向け腰を下ろす。
「どうした? 食べないのか? 時間なくなっちゃうぞ?」
しかし一華は弁当には手をつけず、顔を落としピコピコゲームをしている。
ピコピコ、ピコピコピコ、ピコピコ、ピコピコピコピコ。
「おい一華、どうしたんだ?」
ピコピコピコピコ、ピコピコ、ピコピコピコピコピコピコ。
「一華、もしかしてお前、何か怒ってる?」
「……べ、別に、怒ってないしぃ……」
やっと口を開いたが、やはりどこか口調が重い。
顔も不機嫌そうだし……何かあったのか?
「おい一華、何かあったんなら言ってくれ。悩みがあるなら相談に乗るから」
「…………った?」
手を止めると、ぼそぼそ何か言った。
声が小さすぎてマジで聞こえない。
「え? 何?」
「……デー……ぅ……った?」
「は? 何だって? もっとはっきり言ってくれ」
耳に手を当て、一華の口元にぐっと近づける。
「だ、だから……」
「だから? はっきり言えよ」
「だから! デート! どうだった!?」
きーんと、耳の奥に反響する。
思わず俺は身をのけぞらせる。
全く……どうして声が極端に小さいか極端に大きいかのどちらかなんだよ。
俺は姿勢を戻すと、一度こほんと咳を入れてから答えた。
「ま、まあ、楽しかったぞ?」
「ふ、ふーん……。楽しかったんだ……」
「何だよその反応? あ、まさかお前、やきもち焼いてんのか?」
「――ちっ」
机に両手をつき、身を乗り出す。
「違うしっ! そんなんじゃないし!」
「じゃあなんだよ? 絶対イライラしてるじゃん」
「だ、だって週末、京矢が相手してくれなかったから、私……退屈だったし。京矢はお出かけ……しかも女の子と……」
「いや、そもそもそれは、お前があの日俺に女装なんて頼んだから――」
とっさに口を塞ぐ。
おっとあぶない!
これは言っちゃいけないんだった。
識さんとの関係が実は偽りというのは、現在進行形でトップシークレットだ。
「女装が、どうしたの?」
「いや……」
どうにかごまかさないと……そうだ!
週末に識さんが俺に言った、あの言葉を言ってみよう。
確実に気を逸らすことができるし、上手くいけば機嫌もよくなってくれるかもしれない。
俺は一華にぐっと顔を寄せると、おもむろに、結構真剣な眼差しで、言った。
「よく見ると一華って……」
「う、うん。何? 突然」
「普通に可愛いよな」
「…………へ?」
ボフンと、目に見えて一華の顔が赤くなった。
そして両手を自分の頬に当てると、潤んだ瞳をあたふたと彷徨わせた。
「え? ちょっ、きょうやー……からかわないで!」