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第147話 京矢なんか大っ嫌い!

「それよりも、よかったではないか」


「よかった? なにが?」


「なにがって、両思いであったことがに決まっておろう」


「ん? 両思い? 俺とくるみが?」


「違う。どうしてそうなる。本当に最高だな」


 上田さんの言う『最高』は、世間一般で言う『キモい』で、大丈夫でしょうか?


「じゃあ誰と誰が?」


「決まっておろう」


 俺の手を取りぐっと引く。


「夏木京矢と」


 一華の手を取り立ち上がらせる。


「小笠原一華がだ」


 そして俺と一華を目と鼻の先で正対させると、何度か納得したように頷いてから、ぎゅっと手を握らせる。


「――え?」

「――へ?」


 俺と一華は同時に言い、また同時に上田さんへと顔を向ける。


「うむ。息もぴったりだ。相思相愛とはまさにこのこと。結婚式の仲人は、我が引き受けようぞ」


「きょ……京矢と、相思相愛。京矢と……け、けけけ、結婚……」


 ぼふんと頭頂から湯気を立ち上らせると、一華は顔を真っ赤にして、へなへなと崩れ落ちそうになる。


 俺はそんな一華を両手で支えると、床に崩れ落ちないようにソファへと座らせる。


「きょ、京矢……ありがとうけっこん」


 ありがとうけっこんってなんすか?

 言葉が変になっていますよ一華さん。


「上田さん、テキトーなことを言わないでくれる? ほら一華だってこんなに怒っている。顔を真っ赤にして」


「テキトー? テキトーではない」


「だったら理由を聞かせてくれよ。理由を。あるんだろ? 誰もが納得する理由が」


「理由理由って、そのような言い方をする時点で、すでに理由に心当たりがあるのではないか?」


「いや、本当に全然分からない」


「いやはやまったく」


 驚いたような顔をしてから、にっと白い歯を見せて不敵に笑う。


「夏木京矢は、本当にエロゲーの主人公みたいなやつなのだな」


 エロゲーの主人公??

 せめてそこはラノベ主人公って言ってくれよ!


「それで、どうして俺と一華が両思いだって思ったんだ?」


「長々と理由を話すのもいいが、それよりももっと簡単な方法があるが、どうする?」


 もっと簡単な方法?

 簡単な方法があるんなら、別にそっちでいいよな。


「じゃあ、その簡単な方法とやらで」


「では聞くぞ。夏木京矢は、小笠原一華のことをどう思っている?」


「は? どうって……別に……」


「別に、なんだ?」


「普通だよ。幼馴染で、家が近くて……そんな感じ」


「夏木京矢よ……」


 小さく息をはいた上田さんが、まるで意気地なしのクズを見るような眼差しで、俺を見る。


「貴様、実に見苦しいぞ」


 ぐぬぬ……どうしてそこまで言われなきゃいけないんだよ……。


 次に上田さんは、ソファに腰を下ろす一華へと歩み寄り、目線の高さまで腰を下ろすと、手を一華の腕にのせて聞く。


「小笠原一華よ、嘘偽りなく答えるのだぞ」


「――ひいっ」


 見るからに引いている。

 見るからに怖がっている。


 おい誰か上田さんの暴走を止めろよ!


「小笠原一華は夏木京矢のことをどう思っている?」


「わ、わた、わた、私は……」


「好きか嫌いか、愛しているか愛していないか、ヤレるかヤレないか……で、答えるのだ」


 おい! 最後のはなんだ!

 それは愛と関係ない場合もたくさんあるだろ!


「わ……わわわ、わたし……は……」


 震える声で、俺のことを見たり見なかったりを繰り返す。目に涙を浮かべながらも。


「声が小さい! はっきりと言え! 京矢のことをどう思っている!?」


「ひいいっ!」


「京矢のことをどう思っている!?」


「わたし……京矢のこと……」


 ……ゴクリンコ。


 一華は一体……どう答えるんだ?


 息を呑み、俺は次の一華の発言を待つ。


「きょ……京矢なんか大っ嫌い! 嫌い嫌い嫌い! 全然好きじゃない!」


 この時俺は、自分の中に起こった感情に、自分自身でびっくりした。

 すうっと、足元から地面へと、熱というか体温というか心が、抜けていったのだ。

 それは気のせいでもなくて勘違いでもなくて、確かな感情の変化だっただろう。

 その証拠にしばらく俺は、まるでエントロピーが増大し切り、熱的死を迎えた宇宙のように、なにも、本当になにも感じなくなったのだから。


 ほどなくして俺は呟く。

 ため息と共に、倦怠感を感じつつも。


「そうかよ。……まあ、そうか」


「――ちっ、ちがっ!!」


 なにを思ったのか、一華が俺へと手を伸ばしつつも勢いよく立ち上がる。

 しかし目の前に上田さんがかがんでいたので、そのままつまずき転んでしまう。


 上田さんに覆いかぶさる一華。


 ワンピースがめくれ上がり、下着をつけていないその美しすぎる御身が顕になる上田さん。


 一華の手はというと、ラブコメの神様の導きのままに、上田さんの柔らかい二つの胸に完全にあてがわれている。


「小笠原一華よ」


 優しげな笑みを浮かべた上田さんが、片方の手をそっと一華の頬へとやりながらも言う。


「我がほしいか?」


「へ……え?」


「我がほしいのかと聞いている」


 ちょっとなにを言っているのか分からないです。


「――ご、ごめっ!」


 急いで上田さんの上からどくと、一華はまるで怯えた小動物のようにソファのうしろへと隠れる。

 そして両手を背もたれにのせて口から上を出すと、申しわけなさそうにしょんぼりして、謝罪の言葉を口にする。


「し、しおん……ごめん」


「別に謝ることはない。それよりも小笠原一華よ、貴様怪我はしておらんか?」


「うん。だ、大丈夫」


「それはなによりだ」


 立ち上がった上田さんが、乱れた服を整えてから、自分にも怪我がないかを確かめる。


 どうやら上田さんにも怪我はないみたいだ。


 よかった。

 ……マジでよかった。

 その神聖な御身にかすり傷の一つでもついてみろ。

 マジで地球が壊れるぞ!

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