表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/220

第134話 夏木くるみが見た光景

「『ここで一度要点をまとめます。私は京矢、つまりはお兄ちゃんを愛している。そして結婚している。近所に住むハナは京矢にべったりで、そんなハナがうざくて昔喧嘩をした。そんで先日ギルメンに会ったら、偶然にもハナだった。次からはようやく、先日のデートの最後に、なにがあったのかを語ります』」



「『駅で別れる時に、ハナが私にこう聞いてきました。「どうして京矢に近づいちゃいけないの?」って。私それで、本当に頭にきちゃったんです。過去のあのこと、絶対に忘れるわけがないし、だったら忘れたふりをしているに違いないって』」



「『だからはっきりと言ってやりました。京矢のことが好き! 愛してる! だからお前が目障りだって。・・・でも勘違いしないでください。私だってもう中学生です。でかい口をたたいても、無理だって分かっています。京矢の前でもう言っちゃいけないんだって分かっています。だからこれは、単なる強がり・・・』」



「『もうこれっきりにしようと、そう思いました。あとは心の奥底に本当の気持ちをしまいこんで、わざと仲の悪いふりをして、どこにでもある普通の家庭を演じようって、そう思いました。ていうかこの歳で気持ちを伝えちゃったら、おかしいどころか、家にいられなくなって、家庭崩壊すると思うから』


……ふむ。どうやら夏木くるみは、意外にも分別をわきまえた、常識人のようだな。お兄ちゃん好き好きセックスしたいツイートを見るに、とんだ変態メンヘラビッチかと思ったのだが」



 変態メンヘラビッチって……いくらハーフ美少女上田先生だからって許さんぞ!


 つか変態はどこからどう見てもあんただろ!

 そのワンピースの下、今もノーパン・ノーブラのくせに!



「『ここからなんです。信じられないことが起こったのは。ハナが駅に入っていって、私はどこかで時間を潰そうとしたんですが、そしたらチャラい三人組に絡まれちゃって・・・。断ってもしつこく声をかけてくるし、最後には腕をつかまれて、無理にでもつれていかれそうになって・・・』」



「『脳裏に、すごく怖いイメージがよぎりました。狭い部屋に連れ込まれて・・・みたいな。でも、誰も助けてくれない。だから私、思わず叫んだんです。お兄ちゃん助けてって。自分でもびっくりでした。無我夢中で叫んだ人が、お兄ちゃんだったんですから。ああやっぱり好きなんだなあって・・・』」



「『でももちろん、京矢は助けになんてきません。声が届くわけがないし、こんな所にいるわけがないから。でも突然、私の腕をつかんでいた男が、勢いよく地面に倒れました。もしかして本当に京矢!? って思って振り向くと、なんとそこにはついさっき別れたばかりの、あのハナがいたんです』


……ほう。妹を守るために、屈強かもしれない男三人に立ち向かうとは……夏木京矢、あっぱれだな。なかなかできることではないぞ」



「なかなかできることではない? 上田さん、なにを言っているの?」


 理解できなかったのか、上田さんが小首を傾げて先を促す。


 そんな上田さんを見ると、俺は箸を置いてから口を拭い、胸を張って言う。


「身を挺して妹を助けないお兄ちゃんが、この世にいるわけがないだろ!」


「ふむ。夏木京矢……貴様もなかなかに気持ちが悪いのう。まあ、先に進めるぞ」


 あれ? これって普通じゃあないの?

 気持ちが悪いものなの?

 あれ?

 あれれ?



「『どうしてハナが? 私あんなにひどいことを言ったのに・・・。もう本当に、わけが分かりませんでした。そうこうするうちに、目の前でハナがぼこぼこにされて、服がずれて、髪がずれて・・・気がつけば、さっきまでハナだった人が、女装した京矢になっていたんです』」



「『もう本当に、なにがなんだかわけが分かりませんでした。本当に、世界がおかしくなったっていうか、ずれてしまったっていうか、本当にそう思いました。今でもあの衝撃的な感覚をはっきりと覚えています。ごめんなさい。うまく説明できないです。夢みたいっていうか、そんな感じ・・・』」



「『ようやく冷静になれたのは、三人のチャラ男がいなくなって、そのぼろぼろになった女装京矢と二人っきりになってからでした。その女装京矢は、間違いなく私のお兄ちゃん、京矢だったんです。つまり京矢は、女装をするとハナとそっくりになる・・・そういうことです。嘘じゃありません。信じてください』」



「『ここで私は、ある事実に行き着きました。先ほどハナに、京矢のことが好きだ! 絶対にセックスしてやる! と宣言してしまったことに。ハナは女装した京矢でした。つまり私は、絶対に知られてはいけないお兄ちゃんに、正面切って堂々と、セックスしたい宣言をしてしまったわけです』」



「『以上です。その後は急いで逃げて、部屋に閉じこもって、今にいたります。正直、今後どうしようか迷ってます。家にいられるの? でもどうやってって、悩んでます。もしも京矢に気持ち悪いとか、そんな拒絶されるようなことを言われたらと思うと、本当に死にたくなるんです。これからどうしよう・・・』」



 パソコンの画面から顔をそらして、どんぶりを両手で持ち上げると、上田さんはラーメンの残り汁をごくごくと、一気に飲み干した。

 そしておしぼりで口の回りと手を丁寧に拭うと、手を合わせて小声で、「うましものを食した……感謝」と言い、満足げに小さく息をはいた。


「して、大体我の予想通りであったな」


「そう……だね」


「どうした? 食欲がないのか? あまり食が進んでいないようだが」


「いや……」


 箸を置くと、俺は恐る恐る上田さんを見て、顔色をうかがう。


「それで……どう思った?」


「そうだな、夏木くるみが家出をしたのも、致し方ないと、そう思ったかな」


「いや、そうじゃなくって……俺の女装について」


「ああ、そっちか」


 上田さんは腕を組むと、一瞬からになったどんぶりの底へと目を落とす。

 しかしすぐに顔を上げると、なんでもないように答える。


「いや、特には」


「え? 特にはって……本当に? だって女装だよ?? 変だと思わない? 気持ち悪くない?」


「いや、全く」


「……どうして?」


「どうしてって……」


 天井を仰ぐと、指先でくるくると横髪をもてあそぶ。


 今度は少し迷っているようだ。

 先ほどよりも、答えるのに時間を要している。


「多分、我にいくにんかのレイヤーの友人がいるからであろうな。キャラになりきる、という点においては、根本的には同じであろう。つまり夏木京矢は、悪魔キャラになるか、動物キャラになるか、人間の女キャラになるかで、単に三つ目を選んだにすぎないということだ」


 ようは、一人の人間がコスプレをして、色んなキャラになりきるのを、上田さんは目の前でたくさん見てきた。だから慣れている……ということなのだろう。


 上田さんから見れば俺の女装なんて、単に一人の人間がコスプレをして、一華になりきっているだけ、ということになるみたいだ。


 ……とりあえずは、よかった。上田さんの心が広くて。

 てっきり「気持ちが悪い」とか、「吐き気がする」とか、「死ねばいいのに」とか、そんな悪態をつかれるかと覚悟していたから。

 上田さんみたいな超絶美少女に、そんなことを言われた日には、マジで死にたくなっちゃうからな。


 ……いや、意外といいのか?


 美少女にさげすまれるのって、意外とありなのか?

 どうなんだ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 色々爆弾発言繰り広げられてたものの妹サイドの心情とかがはっきりしたのはよかった [一言] ひょっとしなくても京矢Mに目覚め始めてる??ww さて、行き先に関しての情報がわかるといいね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ