第126話 男共の公開処刑
「『七月二十七日。パンケーキを食べて、さあ帰ろうと駅に向かうと、そこであいつ、信じられないことを言い出しやがった。「なっつんさん私に怒ってる? どうして怒ってるの?」って。耳を疑ったし。昔あったことを忘れたのかって。まあこれには理由があったんだけど、とりあえず次は過去のこと語ります。続く』」
読み終えて、しばらくそのままの格好で固まってから、ふと気づいたように、隣に座る一華へと顔を向ける。
時計回りに読むのであれば、次は一華の番だ。
しかし、あの過去の話を、一華に先陣を切って読ませるのは……。
「ちょっと待って。話をまとめるから」
床に直接座っていた細谷が、テーブルにひじをついて、ゲンドウポーズをする。
もちろん眼鏡は白く光っている。
「二十六日の昼に、同じギルメン同士であるなっつんとハナが、どこかの駅で待ち合わせて、実際に会った。そしたら偶然にも、なっつんは夏木の妹さんで、ハナは小笠原さんで、二人は近所の知り合いだった。二人は過去になにかがあって、お互いがお互いをとても嫌っていたけど、小笠原さんは、仲直りをしようと夏木の妹さんに歩み寄った……みたいな感じでいい?」
「うむ。とりあえずは、それで合っているであろう」
満足したように頷くと、上田さんは赤い髪をさっと払い、その美しい青い瞳を細谷へと向ける。
「細谷翔平よ、ほめてつかわすぞ」
「もったいないお言葉です」
さっきも思ったけど、この二人、完全に王とその家来みたいな関係になっていないか。
まあ、別にいいけど。
「して小笠原一華よ」
「――はっ……はひぃっ!」
「次は貴様の番であるぞ。さあ、読み上げるのだ! それが我々に隠し事をしたことに対する、贖罪となろうぞ!」
「ふええ……わ、分かった……」
ぐすんと鼻をすすってから、一華は弱々しい声音で、ツイートを読み上げ始める。
「『七月二十七日。ここからは過去の話。まずはっきりさせておかないといけないことがあるんだけど・・・私にはお兄ちゃんがいるんだけど、私・・・お兄ちゃんのことが好き! 大好き! 本当に好き! この好きはライクじゃなくてラブの方。つまり愛してる! 続く』
ふええ……」
はい! とりあえず一つばれました!
夏木家の兄妹がちょっとおかしいと、クラスメイトにばれました! とほほ……。
「うむ。これは世に言う、ブラザーコンプレックスというやつだな!」と、上田さん。
いや! いちいち明言しなくてもいいから!
「夏木くんの妹さんは、よく分かっているのです。夏木くんの素晴らしさを」と、山崎さん。
恥ずかしいからやめたげて!
「夏木、お前うらやましすぎだろ」と、細谷。
は? 細谷お前なに言ってんの?
妹に愛の告白をされて嬉しいわけがないだろうがよ!
というかなにこれ?
当初はくるみの行方を探るだけのはずだったのに、気がつけばなんかしらんけど俺への精神攻撃になっているのですが?
実の妹の兄への告白、このツイートで終わりですよね?
まさかこのあともヘミングウェイの小説みたいにだらだらと告白が続くわけじゃあないですよね?
フラグだったのかもしれない。
残念ながらくるみの告白は、しばらくの間続くことになる……。
「じゃあ次は僕だね……」
くるりとパソコンの画面を自分へと向けた細谷が、さっとツイートへと目を通す。
「……え? これって、声に出して読んでいいの?」
「うむ。早くするのだ。皆待っておるぞ」
「いや……でも……しかし……」
「とろいぞ! 腹をくくらんか!」
「も、申しわけありません! すぐにでも……!」
びしっと敬礼をすると、今度こそ読み上げ始める。
「『七月二十七日。京矢・・・京矢が好き。』」
はい個人情報漏れましたー。
というかマジでこういう場に本名書いちゃだめでしょ!
理性で位置情報は切れるのに、どうして感情爆発は抑制できないんだよ。
……これは帰ったらおしおきだな!
あと男である細谷からこんなことを言われるのは、マジで気持ちが悪い。
「『好き好き大好き。今も京矢を求めてる。京矢のことを思うだけで、体がこんなに熱くなって・・・どうしようもない! もう本当にセックスしたい! ●に京矢の●を突っ込んでほしい!』
おええ……なんかこのツイート一人称がなくて、本当に夏木に言っているみたいな気分になってやばかったんだけど」
それはこっちのセリフだわ!
ほら見ろ! 細谷が気持ち悪いことを言うから、毛穴がぞわぞわってなっちまったじゃあねえか!
おええええー……。
「じゃあ次は山崎先輩ですね」
細谷が、膝立ちをして、テーブルの反対側に座る山崎さんへと、ノートパソコンを向ける。
「お願いします……って、山崎先輩?」
細谷の言葉に、俺も山崎さんへと視線を送る。
するとそこには、自分自身を抱き、頬を真っ赤に紅潮させる、山崎さんの姿があった。
どうやらなにかに興奮しているみたいだ。
うっとりとした目をしながらも、はぁはぁと息を切らしている。
「ええと……山崎先輩? 大丈夫ですか?」
「はぁはぁ……眼鏡キャラの細谷くんが受け……イケメンの夏木くんが攻め……はぁはぁ……はぁはぁ……」
「ひいっ!」
尻もちをついた細谷が、まるでくまにでも襲われたかのように、一気に壁際まで後退する。
「や、山崎先輩って……まさかあれですか? 腐ってるんですか?」
「はいなのです」
うっとりとした、そのままの表情で答える。体をくねくねしながらも。
「最近は男女のラブコメにはまっていましたが……やっぱり男同士は最高なのです」
「つまり先輩は、今僕が読み上げたツイートで、想像したと?」
「はいなのです。ごちそうさまでしたなのです」
「ぎゃあああー!」
ぎゃあああああああああー!!
だ・い・じけ・ん~♪
「なにを騒いでおる」
まるで阿呆を見るような眼差しで、野郎である俺と細谷へと交互に視線を送りながらも、上田さんがやれやれといった雰囲気で鼻から息を抜く。
「別に減るものでもあるまいし。想像ぐらい、いくらでもさせてやればよかろうに」
減るから!
超減るから!
精神とか、なんかライフストリーム的なものが、ごりごり削られるから!
「そんなことよりも山崎鈴よ。次は貴様の番であろう。早く読み上げるのだ」
上田さんがびしっと指をさして山崎さんに言う。
というか山崎さんは上級生ですよ? 先輩ですよ?
そこのところ忘れていませんか?
大丈夫ですか?
……まあ確かに、ちんちくりんで、ものすっごく幼くは見えるけれども。
「分かっているのです。そんな命令するような言い方をするななのです」
ぷんぷんと頬を膨らませながらも、先ほどと同様に、床に膝をついてテーブルに身を乗り出す。