第12話 6月15日土曜日、午前10時からの初デート(幼馴染はノーカンで)
翌日、俺は約束通り十時に駅前にやってきた。
休日とあってか駅構内には落ち着いた雰囲気が漂っている。
同じように待ち合わせをするいくらかの人々が、あちらこちらに散見される。
付近を一通り歩いてみたが、識さんの姿はなかった。
おそらくまだきていないのだろう。
連絡を取ろうかと思いすぐにスマホを取り出したが、思い直してやめた。
なにも急かす必要はない。
もう少し待てばくるかもしれないんだし。
ほどなくして、外の交差点にて識さんの姿を確認した。
重そうな荷物を肩に背負い、おばあさんの手を引く、そんな識さんの姿を――
一体何をしているのか? 考えるまでもない。
横断に困っていたおばあさんを、識さんが手助けしてあげているのだ。
横断歩道を渡り終えると、識さんは荷物をおばあさんに返し、笑顔で手を振り別れた。
「おまたー」
早足でやってきた識さんが小さく手を振りながら言った。
「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃったね」
「いや、別にいいよ」
「実はさ……」
先ほどの、交差点での一件を話してくれるのかな?
俺は頷いて応える。
「朝寝坊しちゃってさー。休みの日とか、普通昼まで寝てるじゃん?」
「え? ……ああ」
言わないんだ。
……なるほど。
印象とは違う、識さんの新たな一面を垣間見た気がして、なんだか俺は心が温かくなるのを感じた。
移動を始めて数分後。
何か話さないとなと思った俺は、とりあえず識さんの服装をほめることにした。
「しき……日和、私服可愛いじゃん」
言いながら俺は、今一度識さんの格好をじっくりと見てみる。
胸元の開いた白のTシャツにカジュアルなレディースジャケット。
パステルカラーのスカートは、ジャケットの硬い雰囲気にある種のエッセンスを与えるようにふんわりしている。
足元はアンクルストラップのシューズだ。
すらっとした脚に、とてもよく似合っている。
正直もっとギャルギャルしい、深夜のクラブとかにいそうなチャラい格好でくるんじゃないかと思っていたため、これはいいギャップであった。
「へー。京矢、ちゃんとほめてくれるんだ」
「そりゃ、まーね」
「てっきり恥ずかしがってスルーするかと思った」
「だってまあ、本当に可愛いと思ったから」
「で」
「で?」
「一体どこがそんなに可愛いの?」
えー何このノリー……。
「ほれほれ言ってみ」
「う、うーん……」
正直、どこが? と聞かれても困ってしまう。
だって全てが完璧すぎるから。
「全部、かな?」
「全部って、そんな人いないっしょ」
目の前にいるから困ってんだよ!
「まあいいや。じゃあ次は私の番だね」
その場に立ち止まると、識さんはあごに手を当て、俺の全身をまじまじと見た。
「よく見たら夏木って……」
ごくりんこ。
緊張が走る。
だって識さん、容赦なさそうなんだもん。
「まあまあかっこいいよね」
「え?」
女子からそんなことを言われたのが初めてであったため、俺は嬉しいのか恥ずかしいのかはたまた否定したいのか、よく分からない気持ちになってしまう。
俺がかっこいい?
一華とはいつも一緒にいるけど、そんなこと一回も言われたことないぞ。
……あ、でも、俺も一華に可愛いって言ったことないな。
うーん……うーん……。
たじたじになる俺をよそに、識さんが続ける。
「よく考えたら、女装が完璧にできるって、イケメンの証拠だよね」
「女装のことは、もういいから」
「あと背が高かったら、申し分なかったんだけど」
がっくり肩を落とす。
背が低い……それは俺の一番のコンプレックスだ。




