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第103話 でこピタ!

「い……一華さんとでこピタ……はぁ……はぁ……」


 いけないいけないと、まるで頭から欲望を振り払うように、一ノ瀬さんが首を横に振る。


「し、仕方がないわね。や、やってあげるわよ。でも勘違いしないでよね。これはあくまでも夏木くんの妹さんの捜索のためであって、決してやましい気持ちとかでするものではありませんから。一華さんと私は、一生徒会長とその部下という関係であり――」


 ……聞いてもいないのになにやらべらべらと説明をし始めたぞ。

 もうそれがやましい心でってのの証明ですよね!?

 一華とでこピタができてラッキーっていう、下心の証明ですよね!?


「――と、いうことだから、一華さん……いくわよ」


「う……うう……ありさー……」


 うるうるした目で、一華が一ノ瀬さんを見つめる。


「大丈夫。大丈夫だから。全部私に任せてじゅるり」


 ……超、心配なのですが。


 一ノ瀬さんは一度手を離すと、顔にかかった一華の前髪を、指で優しく払った。

 そしてその手で自分の横髪をうしろへとさっと払うと、もう一度恋人つなぎをして、ゆっくりと、ゆっくりとゆっくりと、自分の額を一華の額に当てた。


 触れ合う手と手と、触れ合う額。


 おそらく二人は今現在、互いの体温を感じ合い、同時に交換し合っているのだろう。


 顔の距離はものすごく近い。

 ともすれば鼻と鼻が触れ合ってしまうのではないかと思われるほどの近接を極めている。


「い、一華さん……大丈夫?」


 一ノ瀬さんの気遣いに、目をつむり、強く口をつぐんだ一華が、こくりこくりと小さく頷いて応える。

 内股にした脚の、膝と膝を、恥ずかしそうにもじもじとすり合わせながらも。


「き、緊張で少し汗をかいてしまって……き、気持ち悪く、ないかしら」


「だ、大丈夫……大丈夫……だから……」


「さ、さあ! これでいいでしょ!? 早く描いてしまってちょうだい!」


「うーん……」


 しかし上田さんは、またもや、どこか満足できないといった表情を浮かべて、描き出そうとしない。


 一体なにがいけないというのだろうか。

 上田さんの真剣な眼差しを見るに、二人をおちょくるためにわざとじらしているようには見えないし……。


「うーんってなによ。まだなにか足りないって言うの?」


「すまぬ。なんか思っていたのと違った」


「は!?」


「というか、今の二人の姿を見ていたら、もっといいポーズを思いついた」


「なによそれ。じゃあ、もうこのポーズは、やめていいのね?」


「ああ。次のポーズを指示するから、一度こちらにきてくれ」


「分かったわよ」


 一ノ瀬さんは、どこか残り惜しそうに一華から手を離すと、なにを思ったのか両手でお椀を作り、自分の鼻と口に当てた。


 くんかくんかすーはーすーはー。


 え? ちょっ、一ノ瀬さん??


「へ? ありさ……なにしてるの?」


「なんでもないわ。さあ、いきましょう」


「……う、うん」


 二人は、腕を組み天井を仰ぐ上田さんのもとへと、歩き出す。


 というか今、絶対に一華の手汗を嗅いだよな。

 手の向こう側を見ることはできなかったけれど、絶対にぺろぺろしたよな。

 いや後者に関しては完全に俺の予想だから、なんとも言えないんだけどさ。


「さあ、次は一体なにをすればいいの?」


 一ノ瀬さんの問いかけに、沈思に耽っていた上田さんが、気づいたように顔を下ろす。


「そうだな……色々考えたのだが、やはりコスチュームにも状況が必要だよな」


「服に状況? 言っている意味が……」


 聞いているのか聞いていないのか、一ノ瀬さんが言い終わる前に、上田さんが一華へと歩み寄って、どういうわけか、まるではぐをするように、両腕を一華の背中へと回した。


「へ?」


 突然のことに、反応できない一華。


 そしてそのまま、上田さんは背中のチャックを下ろして、ガバっと、修道服を下ろした。


 な、ななな、なななななな、なななな、なにをしとんじゃーい!!


 かろうじて胸は隠れているが、水色のブラ紐のかかった、白くて華奢な一華の肩が、皆の前に顕になってしまっている。

 勢いが強かったためか、頭にかぶったヴェールがずれて、どこかふしだらな感じになってしまっている。


「――!?」


 とっさに前を押さえるが、残念ながら恥ずかしがる暇すらもない。


 上田さんは一華の手を取ると、そのままソファの方へと引っ張ってゆき、半ば強引に、乱れた格好のままの一華を、押し倒した。


「……し、しおん??」


 震える手で前を押さえた一華が、潤んだ瞳で、恐る恐る上田さんを見上げる。


「ほう。嬉しいな。我のことを下の名前で呼んでくれるとはな」


「な、ななな、なにを……するの?」


「安心しろ。悪いようにはしない」


 上田さんは、一華の潤んだ瞳を親指でそっと拭うと、ソファにたれた髪を手に取って、一華の顔にわざとかけた。

 そして服を持ち上げて右肩だけを隠すと、満足したように頷いてから、一華から離れた。


「小笠原一華はそのままで。服も髪も絶対にいじるな」


 命令口調で、一華に言う。

 それから上田さんは、一華のあられもない姿にぽかんと口を開けて放心状態に陥っている一ノ瀬さんへと、同じく命令口調で言う。


「なにをぼさっと突っ立っておる。早くこっちにくるのだ」


「へ? え? ええ……そうね。分かったわ」


 気づいたように身体をびくりとさせると、一ノ瀬さんは、上田さん、もとい一華のそばへと歩み寄る。


「それで私は、一体どうすればいいの?」


「簡単だ。まずは寝ている小笠原一華の上に覆いかぶさる」


「一華さんの上に、覆いかぶさる!?」


 恐れ多いとでも言わんばかりに、半歩、うしろに下がる。


「そしてぐっと顔を寄せて右肩をつかむと」


「顔を寄せて右肩をつかむ!?」


 驚いたように両手を挙げる。


「もう片方の手で小笠原一華のあごを、こうクイッとして」


「一華さんのあごをクイッとする!?」


 突風に煽られたように体をうしろへとしならせる。


「最後に、まるでもてあそぶように、いじわるな眼差しを小笠原一華へと向ける。これで完成だ」


 淫靡すぎる想像に、一ノ瀬さんのヒューズが飛んでしまったのか、彼女はへなへなと、その場にぺたんと座り込んでしまう。


 いや……さすがにそれは……。


 二人に、主に一華へと、助け舟を出すべく、俺は暴君上田閣下へと、進言する。


「上田さん、さすがにそれは、一線を越えているというか……」


「一線を? どこが越えているというのだ。大事なところは出ておらんし、別にキスもしていない。外野がなにかごちゃごちゃ言ってきたら、二人はじゃれ合っているだけだと言えばそれ以上はなにも言えない、そんなラインであろう。そもそも今の我の説明で一線を越えている云々とぬかす夏木京矢にこそ、なにか下心があるのではないのか? どうなのだ?」


 ううう……そう言われると、なにも言えねえ。


「あの……なんか……すみません……」


 なんかよく分かんないけど俺は謝ると、ちらりと、左肩をはだけさせた一華へと視線を送る。


「きょ……きょうや~……」


 一華の呼びかけに、俺は両手を合わせるごめんのポーズで応える。


 すまん! 俺の力不足だ!

 上田さんは、絶対に敵に回しちゃいけないタイプの人間だ!

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