大嫌いなひと
「本当に変わったわよね」
恥ずかしくなって俯く私にアインはそう言った。それは彼女がイェナのことをよく知っているというニュアンスを含んでいる。
「昔からお知り合いなんですね」
私がそう言うと、アインは半目で白目を剥きそうな勢いだ。何か嫌なことを思い出したらしい。
「……まあね。私は極力関わりたくないんだけど」
「あまり仲が良くないんですか?」
「大っ嫌いよ」
「え!?」
私の問いかけに即答したアインは苦虫を噛み潰したような顔で私の肩に手を置き「あいつの恋人だなんて……ご愁傷様」と呟いた。
そんな、同情されるようなことはないんだけど。
「でも……随分と柔らかくなってて驚いたわ」
イェナの交友関係は詳しく知らないが、基本的に仕事絡みが多い。仕事中のイェナしか知らないのなら、今の彼とのギャップはすごいと思う。
「私はね、イェナに呼ばれてここに来たの」
「え……?」
「あなた、この間怪我したんでしょ?治癒能力者は自分自身を治せない。だからあなたが怪我をした時に治療する人が必要だって」
突然のカミングアウトに私の口は開いて塞がらない。
原作ではイウリスチームも医務室に何度か運び込まれたが、確かにアインのような美人の女医はいなかった。コロネが治癒能力で治していたことも大きな理由ではあるのかもしれないが。
「この大会では基本的に生きるか死ぬかのデスゲーム。選手がここに来るのは死体ぐらいなもんよ。だからここには気休め程度の手当てができる看護師しかいない。それに気付いて、あなたが怪我した時に肌に傷一つ残さないような治療ができる人を呼び寄せたのよ。わざわざあのイェナが!」
最後の言葉を強調して、信じられないとばかりに首を横に振る。
「私はイェナが大嫌いよ。イェナも私のこと嫌いだと思う。だけど、私たちはお互いの力だけは信用してる」
本当にあくまでも仕事だけの関係なのだろう。「かなりの報酬を出してくれるって話だしね」とウインクする。
アインの心底嫌そうな顔を信用していなかったわけではないが、この超絶美人がイェナにとって特別な人ではないと分かり少しだけ安心した。
「……そう、なんですか」
ふにゃっと力の抜けた笑みをつくると、アインは問題なし、と呟いて私に服を着せた。
「あいつ、あなたのことが相当大事みたい」
自分でも充分すぎるほど感じるが、他人から言われるのとはまた違う。そのむず痒さに身体の中がざわざわした。
「……私も、アインさんのように唇を通せば治癒能力を上げられるでしょうか」
ふと湧き上がった疑問。イェナは滅多に私の治癒能力を必要としない。イェナに傷をつけられるような敵は滅多に存在しないからだ。それほどに彼は強い。
だが、そんなイェナが突然瀕死の状態になったとしたら?目の前で大怪我をしたとしたら?私の力がどれだけあるのかは分からない。限界まで力を使ったことなどないのだから。元の世界がどれだけ平和だったのか思い知らされる。
「うーん、これは人によって相性があるからねえ……できないことはないと思うけど、やめた方がいいと思うわよ?」
「どうしてですか?」
アインが私の顔をじっと見て、ふっと笑う。
「イェナだけならいいけれど、他の人を救える場面があれば今回のように迷わず駆け寄ってあなたは口付けるでしょ?それをあいつが許すと思う?」
「あ……」
「だからもっと別の方法を考えなさい?」
自分にそれだけの力があったら、きっと今回だってサリーに口付けていただろう。けれど、アインと唇を合わせただけでも嫉妬するのに相手が他の男なら?──せっかく私が治しても、イェナがすぐにあの世に送ってしまいそうだ。




