みつあみ
「──それで、結論がこれ?」
「ナツ一人にさせられないだろ」
私は今、イェナが用意したマントのフードを深く被って、アロチームのメンバーとともに闘技場のリングを目の前に立っている。
「でもここが一番危険じゃない?」
「俺が守るからある意味ここが一番安全だよ」
「……まあ、ボクたちもいるしねぇ」
拉致されたことでVIPルームの警備の信用はゼロ。再びあそこで観覧させてもらえるわけもなく。普通の観客席はイェナが断固拒否した。
そして彼が出した結論は──アロチームとともに出場選手側で見守ること。原作ファンとしてはまたとない機会だ。喜ばしいことではある。だけど、あの誘拐事件からイェナの過保護さがかなり増していた。少しでも離れようものなら過剰に反応してトイレにまで付いてこようとするのだ。ちょっとやりすぎではないかとも思うけれど、もうあんな怖い思いはしたくないから甘んじて受け入れている。
選手入場の際はイェナが私に腕を差し出して「掴んどいて」と何故か腕を組んでの登場。恥ずかしがる私に
「フード被ってるから誰かわからないでしょ」
なんて言うけど、前回のことでイェナが密着を許す相手など私以外いないことは会場全体が気付いている。なんでも腕を離したら私は殺されるらしいので(イェナの得意技:脅し文句)、言われた通りぴったりとくっついていた。
「……ところで、今日は三つ編みなのかい」
「……ナツにやられた」
イェナの長い髪が後ろで一つに三つ編みしてある。今朝、彼が長い髪を鬱陶しそうにかきあげていたのを見て私がアレンジさせてもらったのだ。
「ボクにとったらキミが大人しく“やられてる”のが想像できないんだけどね」
私が鼻歌まじりで嬉しそうに髪を触るからか、イェナは大人しくされるがままになっていた。私にしか見せない、無防備な姿だろう。
「……キミ、他人に髪の毛一本すら触られるのを嫌がるじゃないか」
「ナツはいいの」
「あ、そう……」
ジトッとした目でイェナを見る。彼自身は全く気に留めることなく編み込まれた髪を撫でていた。意外と気に入ってくれたみたいだ。
今日は四回戦、敵もどんどん強くなってくる──のが漫画の王道展開なのだが、この人たちには通用しない。今回も黒騎士が全勝し、時折降りかかってくる粉塵や爆風からイェナが守ってくれたため、VIPルームでいるより本当に安全なのかもしれないと思った。
「──今回も、楽勝でしたね!」
リングを降りた黒騎士にハイタッチを求めると、鎧で表情は見えなくても分かるくらい恥ずかしそうに応じてくれた。
「さ・わ・る・な」
黒目がちな瞳がゴゴゴ……と音を立てて迫ってくるようだ。イェナの迫力に私と黒騎士は思わず後退りをした。
「また最短記録更新しちゃったんじゃない?お疲れ、フレヴァー」
アロが黒騎士の肩をたたくと彼はコクンと頷く。それすら可愛い。
「ああ、この後は確かイウリス達の試合だね。見ていくかい?」
「もちろんです!!」
秒速で答えた私にイェナは複雑そうな顔をしていたけれど、それは無視して入場口へと向かう。イェナの腕を離したら殺されるのでぐいぐいと引っ張ったら大人しくついて来てくれた。
「……惚れた弱みだねえ」
「めんどくせぇ……」
アロの呟きやマルの文句は私の背中には擦りもしなかった。




