キャラ変
「そういえば、俺たちも自己紹介してなかったなあ」
強面の人が柔らかく笑う。私は知っているけれど、大人しく聞いておく。
「俺はデケン。そっちの赤い髪はマル」
「よろしくお願いします!」
今更ながらペコリとお辞儀をする。大きな身体に髭がトレードマークのデケンは寡黙な設定だった。いつも眉間にシワを寄せていた愛想の無い男。それが今は──。
「森のくまさんみたいですね。ギュってしてみてもいいですか」
「いいわけないでしょ」
両手を広げワクワクしながら言った私を即座に止めたイェナ。デケンは豪快に笑う。
「俺もダメなのか」
「逆になんでいいと思えるのか教えてくれる?」
真顔でデケンに掴みかかりそうになるイェナを宥める。このやりとりも容易くなってきた。
「デケンは怖い顔してるから近付かないように」
「お前が言うなよ、鉄仮面が」
不満そうに抗議したデケンは無視して私に「ね?」と念押しする。私は曖昧に頷いて次に赤髪のマルに目を向けた。目が合って頭を下げるとマルはフンッとそっぽを向く。
「マルは普通に半径3メートル以内に近付かないで」
「は?俺!?」
意味がわからないと怪訝そうにしたマル。私は近付きませんよと言うと何故かイラッとしていた。
「野蛮だから」
「殺し屋にだけは言われたくないけどな!!」
火を吹くように喚くマルを見て、フッと鼻で笑ったイェナ。彼は相手にしていないようだ。マルは生意気で意地の悪いイメージしかない。憎めない悪役としてコアなドMのファンが多い。実は弄りがいのあるキャラクターなのか。新しい情報を頭にインプットした。
そしてイェナは最後に黒騎士──フレヴァーを一瞥する。
「フレヴァーは5メートル以内禁止」
「いやです!」
すぐに抗議の声を上げる。デケンとマルはいいとしてもフレヴァーだけは許可できない。
「なんでフレヴァーだけ嫌がるの」
「イケメンだから!」
「お前らそろって失礼だな!!」
マルがまた怒鳴っているが、イェナと私はスルーすることにした。
納得のいかない顔をしているイェナとしばらく無言で睨み合う。でもすぐに私の一言で勝負は決まった。
「……嫌いになりますよ」
「……」
目を逸らしたイェナの負け。私は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「さすがだなあ、なっちゃんは。イェナを黙らせるなんてね」
「……フレヴァー、ナツに触ったら殺すから」
「……はい」
目をパチパチさせながら頷くフレヴァーに心底悶えながら、ふと一時期SNSでファンが願っていた“フレヴァーの中身が実はイケメン説”を思い出す。ファンの皆さん、その説は立証されました。
納得のいかない顔で拗ねるイェナの最大限の譲歩ににんまりしながら、親指を立ててグーサインを出す。イェナは深くため息をついていた。




