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君は世にも奇妙な婚約者  作者: 向日ぽど
オルフェンの塔<前編>
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VIPルーム

 

 開会式終了後、イェナはすぐに出口へ向かって歩き出す。

「もう、せっかちだなあ」

 呆れて笑うアロがその後ろをついていく。開会式の後は予選が行われるが、彼らのチームは本戦出場が確定しているため参加する必要はない。


 一刻も早くナツの元へ行きたいとばかりに足早に進むイェナだったが、突然その足をピタリと止める。

「……おや、あれは」

 アロが同じように立ち止まって、視界に彼らを映すとニヤリと笑った。

「……げ、兄貴」

 イェナの進行方向からこちらに向かって歩いてくるのは、イウリスが率いる主人公パーティーだった。

「やあ、イウリス。ちゃあんと強くなってきたかい?」

「うるせえよ、変態」

 アロはイウリスのチームを一人一人見渡す。それぞれが確実に強く成長しているのを目の当たりにして、舌舐めずりをする。

「ノエンにフェブル、アプリ。そして──セリス。誰一人逃げずにここまで来たこと、褒めてあげるよ」


「……“セリス”?」

 イェナがその名前に反応する。セリスも呼ばれた自分の名に怪訝そうな顔をした。

「私に何か?」

「いや……どこかで聞いた名前だったから。気のせいだよ。じゃあね、ノエン。せいぜいオレたちとあたるまで死なないように」

 そう言って再び歩き出す。元々他人に興味のないイェナ。大事な恋人が“好きだ”と言っていた男が目の前にいたことに気付かずに颯爽とノエンたちの横を通り過ぎていった。





「あ!イェナ様!お帰りなさい!」

「うん、ただいま」

 フランと共に、イェナの帰りを指定された場所で待っていた。長い脚を存分に使って大股で歩いてくる恋人に、飛びつくように駆け寄った。


「式中、寝てたでしょ!私の目は誤魔化せませんからね」

「だって退屈にも程があるから」

「そうやって試合中も寝ないでくださいよ?」

「つまらない相手ならあり得るかな」

「もー!」

 そんな軽口をフランが微笑ましそうに見ている。イェナの後からゆっくりと歩いてきたアロは性懲りもなく私の頭を撫でようとしてペンダントの制裁を受けていた。


 イェナが私の肩を引き寄せて、アロから距離を取る。

「今から予選があるんだけど見る?」

「イェナ様たちも戦うんですか?」

「いや、オレたちは招待されてる特別枠だからね、予選には出ない」

 そう言われて、そういえば予選にアロチームはいなかったな……と思い出す。セリスに夢中であまり気にしていなかったけれど。


 そしてハッとする。

 これは──主人公パーティーもといセリスを見るチャンスではないか。

「見たいです!!」

 血を見るのはまだ慣れないけれど、運が良ければ怪我をしたセリスを治療してお近づきになれるかもしれない。そんなゲスい計画を企てて挙手すれば、イェナが私の手を取って歩き出す。

「VIPルーム、取れると思うから」

 風に靡くイェナの長い髪からいい香りが漂ってくる。私は笑いを噛み締めて彼の後ろ姿を目に焼き付けた。




 VIP席は通常の席とは違ってガラスで守られた豪華で安全な場所だった。

 原作でもアロチームが占領して、ここから高みの見物をしていた。イェナと一緒でなければ来ることができなかったところだ。ソファやテーブルまで置いてあって、頼めば食事も用意してもらえるらしい。

「……予選には、ノエン様も出られますよね」

「うん」

「無事に勝ち上がってほしいです」

 ガラス越しに見下ろした闘技場。そこで集まっているのは予選に参加する大勢のチームだ。予選ではブロックごとに分かれ、勝ち抜き戦で対戦する。

 イウリスチーム……もとい主人公パーティーはもちろん本戦に勝ち上がってくる。それは確実ではあるものの、心配なものは心配だった。イェナは少し不服そうだったけれど。


「……もしオレがノエンとあたったら、ナツはどっちを応援するの」

「……それは」

「ま、オレが勝つけどね」

 自分が聞いたくせに私が答えるのを遮るイェナ。私への配慮だったのかは分からないけれど……思わず吹き出して「足をすくわれないようにしてくださいね」と言えば「誰の心配してるの」と小突かれた。


「──ま、お手並み拝見ってとこかな。小蝿なんてさっさと払い落として──ここまで上ってきなよ」

 ガラスに手をついて、イェナは言った。誰に向けたものかなんて、聞かなくても十分だ。




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