オルフェンの塔
翌日、いよいよ武術大会“オルフェンの塔”が始まった。
出場者は開会式とやらに出ないといけないらしく、その間、私は1人で闘技場の観客席にいることになる。イェナはかなり不満げだ。
「観客席なんて危ないだろ」
「大丈夫だよ、なっちゃんのことはフランに頼んであるだろ?」
「あいつ弱いじゃん」
「ボクたちに比べたらね。でもその辺の雑魚が相手なら余裕だろう」
アロが過保護すぎるよ、と笑う。同感だ。
「開会式が終わったら、すぐに私のところへ来てくださいね」
そう言うと納得はしていないまでもイェナは頷いた。
目立たないように私はいつものメイド服ではなく、黒いワンピースにフード付きの長いマントを羽織っている。イェナがフードを顔が見えないくらい深々とかぶせた。
「これ、取らないように。ナツはすぐ変な虫がつくからね」
アロやイェナは悪役だ。憎まれることだって多い。そんな彼らの知り合いだというだけで私に危害を加えようとする人も出てくると懸念したのだろう。
「はい」
「あとこれ」
イェナがポケットから出したのはペンダントだった。金色の縁に深みのある青色の宝石が埋め込まれているロケットペンダントをそっと私の首にかけてくれる。
「これ、大会中はつけておくこと。お守りだから。悪意からナツのこと守ってくれる」
「……はい!」
思いもよらないプレゼントに嬉しくて跳び上がりそうになる。物珍しげにアロが後ろから覗き込もうとして、肩に手が触れた。
バチィィッ
「……え」
その瞬間、アロと私の間に電撃が走る。私は痛みなんてなかったけど、その衝撃だけは感じ取った。アロは呆れたように自分の手のひらを見つめている。
「……イェナ、これちょっと強すぎないかい?」
「なにが?」
「ボクがなっちゃんに触れようとしたら電気が走るんだけど?」
「触る必要あるの?」
しれっとした顔でイェナが言う。全てわかっていたような口ぶりに、この人の仕業だと確信した。
「他の男がナツに触ろうとしたら悪意の有無関係なく攻撃するようにもしてあるから」
なんとも怖い機能までつけられている……。これは聞かなければ言わなかったな……。
「ボクもダメなのかい?」
「むしろアロに1番効いて欲しいんだけど。前科あるし。でも君はそんなに効いてないでしょ」
「やだなあ、痛いよちゃんと」
ニコニコと笑って言うアロ。言葉に信憑性がなさすぎる。
私に危害が加わるようなものを彼が渡すわけがないって思っているけれど、怖いものは怖い。恐る恐るペンダントを手に取って裏返すとそこにはイェナの名前が刻まれていた。
「あ」
「何?」
「──ほら、ここにイェナって書いてある。もし帰り道が分からなくなったとしても、迷子になっても……これがあればイェナ様のもとに帰れる気がします!」
本当にイェナの恋人になったんだと今更ながらに実感する。あまりに嬉しくて満面の笑みでペンダントを胸に抱きしめた。
「……なっちゃんは可愛いなあ」
「変態は近付かないでくれる?」
懲りもせずアロが私を後ろから抱きしめようとするが、再度ペンダントの力によって制されていた。
「酷いなあ。変態じゃなかったらいいのかい?」
「ダメに決まってる」
「なんだか独占欲強くなってない?」
「恋人なら束縛していいんだよ。恋人のオレはナツのこと見た男全員殺してもいいって」
「そこまで言ってないんですけど!?」
イェナに恋人の効力なんて言うんじゃなかった。特権乱用にもほどがある。
だけどそれすらも愛おしく思う。ポジティブに考えるなら、サイコパスのちょっかいを防ぐことができるのだから有り難く受け取っておこう。
「じゃあ、あとで」
アロとイェナが並んで歩いていく。その後ろ姿を見ると、数ヶ月前の自分を思い出す。紙面の向こうから「アロチームをぶっ倒せ!セリスに傷つけたら許さん!!」なんて意気込んでいた。絶対的な強者として君臨するアロのチームは謎めいた雰囲気を出すためか、手の内を明かさないためか……決勝戦まであまり登場しなかった。とにかく楽に勝ち進んでいくはずだ。だからそれまでは心配していないのだけれど。
フランとの待ち合わせ場所に着くと、球場のように360度ある客席に入る。適当に座って退屈な開会式とやらをぼーっと見ていた。
アロのチームを探すとオーラが違っていてすぐに見つかる。アロは強い人を探してキョロキョロしているし、黒い鎧を纏って素顔を隠している通称“黒騎士”はじっと佇んでいるだけ。髭面の大男はしかめっ面で腕を組んでいるし、チャラチャラした男は大きい口を開けて欠伸している。なんて緊張感のない奴らなんだろう。
そして肝心のイェナは──目を開けて、立ったまま寝ている。遠くからでも私には分かる。ガックリと沈み込む私にフランが苦笑していた。
数ある出場者がいる中、残念ながら主人公パーティーは見つけられなかった。見つける自信はあったのにな、と二重でがっかりした。




