宣戦布告
豪華絢爛。そんな言葉を丸ごと表したようなホールには、これまた眩いばかりの人々が談笑している。
パーティー会場に入ると、前回のものが質素に見えるほど輝かしい光景が目に入った。
武術会の前夜祭だというから、もっと物々しい雰囲気を想像していたのだが、まるで王室のパーティーかのような豪華さに私は完全に物怖じしていた。
「ナツ、オレから離れないでね」
イェナの腕をこれでもかとばかりに強く組む。彼と離れたら私の命は終わる。そんな気すらしてきた。
「イェナ!来ていたのね」
高らかな声が聞こえて私は身構える。この声は──あの人だ。
「……あなた……」
私と目が合うとあからさまに嫌な顔をしたミル。今回は引いてやらないぞ、と言う意思表示を込めてこちらからも睨んでやった。というかどうしてミルがここに?
「ああ、ミルも大会に参加するんだっけ」
「ええ、お手柔らかにね」
そんな二人の会話ですぐに知りたがっていたことが分かったのも何だかシャクだけど。
「イェナがこのパーティーに参加するなんて思わなかったわ」
私のことなんて見えていないかのように話し続けるミルに苛立ってしまう私は心が狭いだろうか。
「ナツを連れてこようと思って」
「ナツって……」
悶々としていたが、突然自分の名前が呼ばれてはっと我に返る。
「紹介するよ。オレの恋人」
「恋人……!?」
「うん」
まさか紹介してくれるなんて思わなかったから照れながら軽く会釈した。思わずさらに腕にグッと力を入れてしまう。
「こ、この娘のことを好きだとおっしゃるの?」
「……さあ」
コテンと首を傾げたイェナにイラッとして“嘘でも好きだと言えないのか”と小突いてやろうと思ったけれど──。
「でも、大事にしたいと思ってるよ」
そう言ってくれたから苛立ちもどこかへすっ飛んだ。ミルの悔しそうな、絶望に満ちた顔を見ると罪悪感がないわけではないが……そんな素振りを見せたらプライドの高い彼女をさらに傷つけてしまうだろうと、表情管理に努めた。
「行きましょ、イェナ様」
ボロが出る前にイェナの腕を引っ張ってそそくさとその場を後にする。
まさかミルまでこの大会に出場するとは。私が覚えていないということは原作ではモブキャラだったのだろう。早々に負けているのだと思う。主人公チームとはもちろん戦っていなかったし、女性がいるチームなら目についたはずだから。
──主人公・イウリスのチーム。
イェナとノエンの関係ばかりを気にかけていたが、昨日唐突に思い出したことがある。やっと私の悲願が達成されるのだ……!
「セリスに会える……!」
グッと拳を握る。隣にいたイェナが怪訝そうにしていた。どうやら口に出してしまっていたらしい。
「誰それ」
「前に言ったことありますよね?私の推し!」
そう答えれば、イェナは私との会話を思い出すように視線を上に向けて考え始める。セリスとは知り合いなわけではないから、本当は出会うまで黙っていた方が良かったのかもしれない。一度でも実物を見ていたら一目惚れでもなんでも言い訳できたのだ、と考えて少しばかり後悔した。
しばらく考えて、イェナは立ち止まる。
「……推しって何」
まさかそう聞かれるとは思わなくて言葉に詰まる。どう答えようか今度は私が考えていると、後ろからイェナと同時に背をたたかれた。
「そうだなあ……まあ一言で言っちゃうと“好きな人”じゃない?」
「は?」
「アロ様ちょっと黙っててくれますか」
神出鬼没のサイコパスのお出ましだった。車を降りてからは別行動だったため気にしていなかったが、私もイェナもこの間のキスマークの事件は忘れていないぞ。




