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特別な女の子

 フランが「ああ、そうだ」とコーヒーをかき混ぜながら言う。

「何の前触れもなく元の世界に戻ることも警戒しなければなりませんが──もう一つ、気を付けないといけないことがありますね」

「なに?」

 イェナがすぐさま反応した。当人である私よりも真剣に聞いてくれているようだ。


「ナツさんが異世界の者だと気付かれてしまったら──彼女に興味を示す輩もいるでしょう。そんなやつらに捕まれば人体実験もあり得ます」

「……わかった」

 それは──ふとした拍子に戻ってしまうより、ずっと怖いことだった。人体実験だなんて考えたことも無い。想像してぶるっと身震いした。


「オレが仕事に行ってる時は執事たちにより一層ナツの警護を強化してもらうとして……」

 首輪については問題ありだが、私のこれからのことを一生懸命に考えてくれているイェナに感激してしまう。

「ねえ」

「……今度はなんでしょう」

 恐る恐る尋ねれば──またしても、出された提案は突拍子もないものだった。


「オレと一緒に寝る?」

「はい?」

 また気の抜けた声が漏れる。がくりと倒れ込んでしまいそうだ。

「寝てる時に飛ばされたら面倒でしょ。オレが隣で寝てたらすぐ止められるし」

「それならアンさんと同じ部屋で寝ますよ……」

 あの可愛い寝顔を毎日見れるのはメリットだろうが、嫁入り前の幼気な少女が恋人でもない男のベッドで毎日眠るのはダメなのではないか。イェナが私を襲うことなど有り得ないとは思うが──性欲があるのかすら怪しいくらいなのだから──というか、私の心臓がもたない気がする。


「は?何言ってるの?アンも男なの、忘れた?却下だね」

 眉間に皺をよせ、イェナが即答した。

「婚約者なんだから、一緒の部屋で寝ても問題ないでしょ。今まで何回もあるんだし」

 どうやら私が他の人と眠るとういう選択肢はないようだ。メイドだっているのだから、その子に頼めばいいと思うけれど……きっとそれは「今屋敷には強いメイドがいないから」という理由で却下するのだろう。そこまで予想して、もう反論するのはやめた。

 このオイシイ立場を一ファンとしてとことん利用しようではないか。


「……イェナはあなたがとても大切なのですね。あなたが消えてしまうのを不安がっているんでしょう」

 フランの呟きにきょとんとしていると、イェナが「うるさいよ」と窘めたので詳しく聞くことは叶わなかった。



 話がひと段落ついたところで、お暇することになった。これからもフランの空いた時間に異世界転移について調べてくれるらしい。分かったことがあればその都度連絡を入れてくれる。その情報を待つことになったのだ。


「あ、ちょっとお手洗いに行ってきます」

 立ち上がってそう断りを入れ、フランにお手洗いの場所を聞いて一人で向かう。

 私が部屋から出た後──。


「イェナは本当に……ナツさんが大切なんですね」

 フランがどこか安堵したように笑っていたことも


「……そうだね」

「あの子が特別なことは認めるよ」

 イェナが私の出て行った扉を見つめてそう答えたことも、私は知らない。


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